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【SB7115. Y2751】
【大塔】
【F1-15 始原ノ迷宮 セーフエリアD4】
G.U.I.L.D兵士長・オズワルドは、指揮統制用テントで第一階層の保全状況報告書に目を通した後、とっておきのオールド・シガレットで一服をしていた。
彼曰く、地獄の窯が開いたかのような緊急事態は、『庭園の寵児』の異次元の活躍により、ひとまず収束しつつある。
しかし、あのアルゴスが第一階層に現れたという大塔探索における根本的な問題は、重い現実として引き続き横たわっていた。
とはいえそれは、もはやG.U.I.L.D本部とS級のA.Eに任せるべき問題――
自分が頭を抱える段階はとうに終わったのだ。そう彼は思いこもうとしていた。
その報告が、飛び込んでくるまでは。
「――兵士長」
オズワルドの右腕として彼に付き従う、メイドのような意匠のACSに身を包んだG.U.I.L.D直轄のA.Eがテント内に入ってくる。
彼女の発した、普段以上に緊迫した声のトーンでオズワルドは嫌なものを直感する。
「悪いニュースか」
「ええ。ギルドから全ハウスキーパーに、離反者の追跡指令です」
「ったく、このクソ面倒くさいタイミングで仕事を増やしやがって」
オズワルドはオールド・シガレットを愛用の灰皿にひとまず置く。
「で、どこのバカだ」
「『黎明を往く者』です。G.U.I.L.Dからの行動制限命令を無視し第二階層に向かっているとのこと。至急これを追跡し捕縛。敵対行為が確認できた場合、討伐を許可するとのこと」
「――――」
オズワルドは言葉を失って、わずかに目を見開いた。
そうしてしばらく沈黙してから、やがて灰皿に置いていたオールド・シガレットを再び手に取り、椅子に深々と座り、何事もなかったかのように一服を再開する。
「……追わないので?」
「お前、あいつらに勝てるか?」
「無理です」
「そういうこった。G.U.I.L.Dには俺から適当に言っておく」
「了解しました」
そうして再びテントに一人になったオズワルドは、天幕に向けて煙を吐いた。
「……もう、庭遊びはお終いってか」




