グリフの思い
グリフはノックスの空間魔法でトランド城内に入った。屋内はメチャクチャだった。だだっ広い王の間は破壊され、植物土魔法のツタがいたる所に伸びていた。その上空にはフードの魔物と水の精霊、ゾウの霊獣、サイの霊獣がいた。地上には若い娘とうさぎの霊獣、若い男とオウムの霊獣、老人、クマの霊獣、雄鹿の霊獣、牡牛の霊獣がいた。
どうやらフードの魔物の側にいる水の精霊やゾウの霊獣、サイの霊獣は操られているようだ。そして途切れ途切れにグリフの肉眼で見えるジャガーの霊獣に乗った老人が確認された。おそらくジャガーに乗った老人こそトランド国王クリフォードなのだろう。グリフの見た所状況は一進一退のようだ。トランド国王側に加勢したいのはやまやまだが、メリッサに早くフローラの心臓を持っていってやらなければまた無茶をしかねない。フードの魔物がトランド国王たちに気をとられている内に小箱を奪うのだ。
グリフはノックスに乗ってゆっくりとフードの魔物に距離を近づけた。グリフは透視の魔法を発動させ、フードの魔物の内部に意識を集中させた。やはりフローラのとなりにいたフードの魔物が持っていたのと同じ小箱が見て取れた。グリフは自身の身体に風魔法を施して、ゆくっりとノックスから降りた。アスランは空中をまるで野原のように駆け回っていたのに、グリフは空中でバランスを取るのがやっとだった。あの体力バカめ。ここにはいないアスランに毒づく。だが飲み込みの早いグリフは少しずつだが空中を歩けるようになった。グリフはノックスと目を合わせてうなずき合う。そしてノックスは空間魔法を発動し、真っ黒な穴の中に飛び込んだ。するとフードの魔物の目の前に真っ黒な空間魔法が開き、そこからノックスが踊り出てきた。これにはさすがにフードの魔物も驚いたのか一旦動きを止めた。今だ。グリフはフードの魔物の背後に近づいて、フードの中に手を突っ込んで小箱を取り出した。そこで油断が生じたのだろう。フードの魔物は小箱を奪われた事に気づき、自身の背中から鋭利な槍のような物を出現させてグリフを攻撃したのだ。グリフの腹に、深々と槍が刺さった。グリフは風魔法を操る事が出来ず、ズルリと地上に落下し始めた。グリフの身体の重みで、腹に突き刺さった槍は抜けた。
このままでは地上に落ちてしまう。グリフがとっさにそう思ったその時、ノックスがグリフを受け止めてくれた。グリフは自身の契約霊獣に礼を言った。
「ありがと、ご主人さま」
『グリフ!ケガをしたのか?!』
グリフはノックスに自分のケガの状態を悟られないように、とっさに手で隠し表面だけに治癒魔法を施して言った。
「なぁに、かすり傷だ。小箱は手に入れた、早くメリッサの所へ」
ノックスはうなずいて空間魔法を発動させた。グリフとノックスはトランド城を後にし、ひたすら空間魔法を繰り返してメリッサのいる場所を目指した。グリフは腹に手をおいて悟った。自分はもう長くは持たないと。不思議と死の恐怖は無かった。ただメリッサの笑顔が見れると嬉しい気持ちで一杯だった。
グリフたちはフローラとフードの魔物のいる平地に戻って来た。上空ではアスランとアポロンがフードの魔物と戦っている。メリッサの契約霊獣たちはフローラと戦っていた。メリッサとティグリスとグラキエースの姿は見えない。おそらくフードの魔物から小箱を奪う隙をうかがっているのだろう。グリフは胸元から黒水晶の宝石がついたペンダントを取り出した。これはメリッサも持っている通信魔法具だ。メリッサの持っている通信魔法具のルビーのペンダントは元々グリフの持ち物だ。したがってメリッサとの通信も可能だ。グリフはペダントに口を近づけて言った。
「メリッサ、今どこにいる?」
黒水晶のペダントからメリッサの鈴の鳴るような心地よい声が聞こえてくる。
「グリフ?グリフなの?!今フードの魔物の後ろに隠れているの」
「そいつが持っている小箱はダミーだ。本物を手に入れた。メリッサ、早くこっちに来てくれ」
「ありがとうグリフ!私グリフが戻って来てくれるって信じてた」
グリフはメリッサの言葉に思わず微笑んだ。
しばらくしてグリフの元にメリッサたちがやって来た。グリフはふところの小箱をメリッサに手渡して言った。
「この小箱の魔法はフタを開けてしまうとフローラの心臓が元の大きさに戻ってしまう。だからなメリッサ、出来るだけフローラの口元まで近づいてから小箱のフタを開けてフローラの口の中に投げ込むんだ」
「わかったわグリフ。私行ってくる」
メリッサはとびきりの笑顔でグリフから小箱を受け取った。メリッサはこれから恐ろしいフードの魔物に近づいてフローラの口に小箱を投げ込まなくてはいけない。それはとれも恐ろしい事のはずなのに、メリッサはフローラを助けられる事が嬉しくて仕方ないようだ。メリッサのとなりにいるグラキエースがグリフとノックスに礼を言った。
『グリフ、ノックスありがとう』
「いいって事よ。さぁフローラを助けに行くんだ」
メリッサは大きな虎になったティグリスの背に飛び乗ると、ドラゴンのグラキエースを従えて空に飛び立って行った。グリフはそんなメリッサを嬉しそうに見つめていた。空に飛び立ったメリッサの姿がぼやけてきた。どうやら自分はもう限界らしい。ノックスがグリフに声をかけた。早く自分たちもメリッサについて行こうと言っている。だが、ノックスの声も小さく聴こえ辛くなっていた。グリフはゆっくりとくずおれるように地面に突っ伏した。そして小さく呟いた。
「アーニャ・・・。お父さん頑張っただろ?もうアーニャの所に行ってもいいよな」
それきりグリフの意識は途切れた。
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