勇者の仲間
フードをまぶかにかぶった老人、魔王バモンは操っている霊獣と精霊に号令をかけた。ゾウの霊獣は炎の魔法を、サイの霊獣は風魔法を、水の精霊は水魔法でクリフォードとパンテーラに攻撃をしかけてきた。ジャガーの霊獣パンテーラはすかさず強力な風防御魔法で自らと契約者のクリフォードを守った。クリフォードはパンテーラに礼を言った。
だがクリフォードは困ってしまった。今クリフォードたちに攻撃をしている霊獣と精霊は魔王バモンによって操られている、いわば被害者なのだ。傷つけるわけにはいかない。だがこの霊獣と精霊を何とかしないとバモンに攻撃など不可能だ。
「早く来んか。ゼノの奴」
クリフォードの口から思わずグチがもれた。パンテーラはクスリと笑って言った。
『もうすぐだクリフ』
パンテーラが答えた途端、ドーンという大きな音と共に王の間の壁が大破し大穴が開いた。その穴からヒョッコリと巨大なオウムが覗きこんだ。あの霊獣はバートという若者の契約霊獣だ。オウムの霊獣の頭の上から友が大声で叫ぶ。
「おおい、クリフ!生きとるか?!」
クリフォードは苦虫を噛みつぶしたような顔をしながら叫び返した。
「当たり前じゃ!生きとるわい!というか遅いぞゼノ」
「これでもパンテーラから連絡をもらってすっ飛んで来たのじゃぞ?!文句を言うでない!」
頭の上でギャアギャア騒ぐゼノを無視して、オウムの霊獣ポーは危なげなく王の間に降り立った。突然現れた闖入者たちに驚いた霊獣と精霊は、一気に巨大なオウムに攻撃を仕掛けた。だがオウムの霊獣は召喚士ゼノの相棒土の精霊ノーマの鉱物防御魔法で守られているため、攻撃魔法は当たらなかった。オウムの霊獣ポーは、ゼノたちを床におろすと、小さくなりバートの肩にとまった。
召喚士のゼノとテイマーのバート。それに美しい女性がクリフォードの側に駆けよって来た。あいさつもそこそこにクリフォードは女性に声をかけた。
「お主もしやエイミーか?綺麗になったなぁ。ユリアによく似ている」
「国王陛下ご無沙汰しております」
「堅苦しい事は抜きだ。昔のようにクリフおじいちゃんでいいのだぞ?」
クリフォードは好々爺の表情でゼノの孫エイミーに話し出した。クリフォードが以前エイミーに会った時はユリアに抱っこをされていてとても小さかったのだ。クリフォードがなおもエイミーに話しかけようとすると、ゼノが二人の間にわって入って言った。
「いいかげんにせんかクリフ!お主はいつもいつもマイペースじゃのう!」
クリフォードとゼノの言い争いをエイミーはクスクス笑って見ていた。テイマーのバートはオロオロとしている。クリフォードはハッと気づいて、ゴホンと咳をしてから言った。
「皆の者手を貸してくれるか?」
ゼノはクリフォードに目を向けて言った。
「愚問じゃな。皆で力を合わせて魔王バモンを倒すぞ」
ゼノとゼノの肩に乗ったノーマ。エイミーと、彼女に抱っこされたうさぎの霊獣。バートと、彼の肩に乗ったポーは皆一様にうなずいた。クリフォードとパンテーラは共に微笑んだ。クリフォードたちは孤独ではなかった。共に戦う仲間がいてくれるのだ。ゼノは若い者たちに的確な指示を出す。
「エイミーとピピはサイの霊獣の保護!バートとポーはゾウの霊獣の保護!水の精霊はわしらがやる!」
若い者たちと霊獣たちは一斉にはい!と返事をした。ゼノはうなずいて視線を魔王バモンにうつした。すると孫娘のエイミーが大声で言った。
「あっ、おじいちゃん!またくちびる舐めてる!おばあちゃんに怒られるわよ」
クリフォードがゼノを見ると、確かにくちびるを舐めていた。ゼノが緊張した時にする癖だ。昔はヒーラーのユリアがよくゼノに注意していた。今では孫娘がゼノの癖を注意しているのだと知って、クリフォードは笑い出してしまった。
「わはは。ゼノ、今はエイミーに注意されているのか?情けないのぉ」
「うるさいわいクリフ!まったくエイミーの奴こんな所ばかりばあさんに似おって!」
ゼノの剣幕が面白かったのか、エイミーもピピも笑い出してしまった。その笑いはノーマにもクリフォードにもパンテーラにも伝染してしまい、皆で大笑いした。ただ一人真面目なバートと冷静なポーは苦言をていした。
「皆さん!今は魔王と戦っている最中ですよ?!緊張感を持ってください!」
「そうよ、おしゃべりは敵を倒してからにしてちょうだい!」
バートとポーにたしなめられてクリフォードとゼノは苦笑いをした。クリフォードはゼノに向き直って言った。
「頼むぞゼノ、ノーマ。お前たちの土魔法は地味じゃが最強じゃ」
クリフォードの言葉にゼノはニヤリと笑って言った。
「当然じゃ。わしらで死にぞこないの魔王を倒すぞ!」
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