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 あかりは意気揚々と歩き出した。冒険者のアスランと、愛馬アポロンを連れて。弟のトランは冒険者に憧れて、将来は冒険者になりたいと言っている。きっとアスランに会ったら大喜びするだろう。わが家につくと、母親が心配そうに立っていた。かたわらには先に帰ったロバのロンがいる。あかりは大きく手を振った。


「お母さん、ロンただいま!」

「メリッサ、心配したのよ。・・・、その人は」


 母はホッと息をはきならがら娘に駆けよった。そしてあかりの後ろにいたアスランをいぶかしげに見た。あかりは手短に説明をして、白馬のアポロンは、ロバのロンの住む馬小屋に連れて行き。アスランを家に招き入れた。


 「すごい!お兄ちゃん冒険者なの?」


 あかりの弟トランは、アスランに出会って予想通り大はしゃぎだ。トランは矢やつぎばやに質問して、アスランを困らせた。アスランは子供好きなのか、苦笑しながらトランに自身の体験談を話して聞かせてくれた。トランはハンサムでカッコいいアスランに心酔してしまったようだ。


 あかりはアスランの相手はトランに任せて、馬小屋に行った。馬小屋にはロバのロンと白馬のアポロンが仲良くおしゃべりをしていた。あかりが馬小屋に入ると、ロンが嬉しそうにはしゃいで言った。


『メリッサ!アポロンってすごいんだよ、高い壁もひょいって飛び越えちゃうんだって』


 あかりは苦笑してしまった。どこも同じだ。トランはアスランに、ロンはアポロンに憧れているのだ。あかりは、すごいわね。と言って、ロンとアポロンに水を飲ませた。あかりは水でぬらした布でアポロンをていねい拭いていく。アポロンはあかりに礼を言った。


『メリッサ、ありがとう。そしてアスランを助けてくれた事も感謝する』

「どういたしまして。アポロンは本当にアスランの事が好きなのね。」

『ああ、大好きだ。アスランはとても優しい人間なのだ。私にもとても優しい。だがアスランは冒険者として剣を振るわなければいけない、アスランはそれが嫌なのだ。』

「じゃあ何でアスランは好きでもない冒険者なんかしてるの?もっと別な仕事をすればいいのに」

『アスランは、由緒正しい勇者の家系なのだ。アスランの父親も、祖父も勇者とほまれ高い人物だ。だからアスランも勇者にならなければいけないのだ』

「・・・、アポロンは?アポロンはアスランに勇者になってほしいの?」

『私は、アスランが幸せであってほしいのだ』

「そっかぁ。私の弟は冒険者になりたいって言ってるけど。無い物ねだりなのね」


 あかりはアポロンの身体を拭き終わると、次はブラシでブラッシングを始めた。



 その日の夕食はとても賑やかだった。最初はアスランの事をいぶかしんだ両親だったが、アスランが好青年だとわかると安心したようだった。トランはひっきりなしにアスランに話しをねだった。


「ねぇアスラン、ボク将来冒険者になりたいんだ!ねぇなれると思う?」

「そうだね、トランはお父さんとお母さんのお手伝いをキチンとしているかい?」


 トランは得意げにうなずく。アスランは微笑んで答えた。


「トランはえらいな。トランが一生懸命、お父さんとお母さんのお手伝いをがんばったら、冒険者になれるかもしれないよ」


 トランはとても嬉しそうにうなずいた。あかりはアスランを迷いの森に道案内すると言って聞かなかった。アスランは渋々しょうだくしてくれた。アスランは夜遅く出発するので、それまで仮眠を取るように言われた。あかりは絶対よ、と言ってトランと一緒にベッドに入った。



 アスランはメリッサたちが寝た後、両親に礼を言って家を出た。勿論メリッサに言った事は嘘だ。メリッサを危険な所に連れて行けるわけがない。アスランは馬小屋に行った。アポロンはメリッサにブラシをかけてもらってとてと綺麗になっていた。


「やぁアポロン。メリッサにブラシをかけてもらったんだね、とっても綺麗だ」


 アスランは愛馬の顔を、愛おしげに撫でた。そしてアポロンの横にいたロバのロンに話しかけた。


「ロン、アポロンと仲良くしてくれてありがとう」


 ロンはヒヒンと返事をした。アスランは動物も大好きだ。ロバのロンはメリッサたちにとても大切にされているのだろう。ロンはとても穏やかで優しい瞳をしていた。アスランは独り言のようにつぶやいた。


「ここの家の人たちは皆親切だ。そんな人たちを危険な事に巻き込んでは絶対にいけない」


 アスランは、アポロンのたづなを取ると馬小屋を後にした。メリッサはきっと今頃夢の中だろう。アスランは、メリッサに心の中でわびを入れ、足を進めた。盗賊のアジトに向かうためだ。メリッサは自分の道案内が必要だろうと言っていたが、アスランにはその必要はなかった。アスランは先ほどの五人の盗賊たちに、忘却の魔法の他に、目印の魔法をかけておいたのだ。


 アスランには盗賊たちのアジトがどこにあるか、迷いの森でも迷わずに行く事ができるのだ。アスランは魔法は得意な方だ。魔法とは実験の繰り返しだ。自身で試行錯誤して新たな魔法を作り出していくのだ。だが剣術は苦手だ。剣は他人を傷つける。アスランは人を傷つける事ができない、たとえ相手が悪人であっても。アスランは怖いのだ、人を傷つける事が。臆病な自分が嫌いで仕方ない。そして何より怖いのが、自分の弱さのせいで、大切なアポロンを危険な目にあわせてしまうのではないかと不安でならないのだ。


「アスラン」


 突然アスランの頭上から声がした。アスランが驚いて上を見ると、メリッサがいた。メリッサは大人の虎ほどの大きさになったティグリスに乗っていた。


「メリッサ、ダメじゃないか。着いてきちゃ」


 アスランは言葉を強めて言うが、メリッサはどこ吹く風だ。ふふんと笑ってメリッサが答える。


「あら、アスランだってダメだわ。だって私との約束をやぶろうとするんですもの」


 アスランはハァッと大きくため息をついてから、あきらめたように言った。


「着いてきちゃったものはしょうがない。僕が逃げろと言ったら必ず逃げるんだぞ」


 メリッサは、はあいと返事した。


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