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プロローグA面

 大変なことになってしまった。

 特別なところなんて何処にもない、ごくごく普通の高校一年生には手に負えないって!

 僕の名前は乾絢斗いぬいけんと、16歳。

 もしこのサバイバルを生き抜くことが出来たのなら、もしも探し物が見つかったのならば!

 いや……、今はそれどころじゃないんだった!


「ケンちゃ~ん」


 ともかく! 僕のたぐいまれな体験が後世の人類にきっと役に立つ……とは言わないけれど。

 悶々《もんもん》とした青春を無為むいに過ごさざる負えない全国の若者たちに!

 何らかの叡智えいちを!

 もしくは、ちょっとした退屈しのぎを提供出来たら……。

 ……幸いでございます。


「もう! どこに隠れてるのよ~?」

「ニイナねぇちゃん、こっちこっち!」


 ヤバッ! 声が近づいてきてるじゃないですか。


「ロロア、見つけたの?」

「うん! この部屋、ケンちゃん臭いもん!」


 ちょっ、臭いって……かなりショックなんですけど!

 そりゃあさ、異世界こっちに来てから風呂なんか入ってなかったし、でもでも、もう少しオブラートに包んだ言い方ってものがあるでしょうがっ! って、5歳児に言うのは酷な話ですね。

 

 ギギーっと、扉が開く音に続いてトテトテとした足音が続く。

 何となく背中にロロアちゃん5さいの気配を感じる、やはり、洗濯物の下に隠れるだけじゃ駄目だったのね……。

 続いて乱暴なドタドタした足音が近づいてくる。

 多分、次女のニイナだろう。

 

「ああロロア! 裸ん坊のまま出てきちゃ駄目でしょう?」


 なんですと!?


「いいじゃん! ケンちゃんとお風呂入るんだから」


 ……おわかりいただけただろうか?

 僕は今、5歳の幼女と一緒にお風呂に入れられようとしている。

 もう一度言おう。

 健全な男子高校生乾絢斗16歳はこれから5歳の幼女と混浴させられようとしているのだ!


 ――こんなん犯罪やろ!


 いや犯罪は言い過ぎかもしんないけどさ、公衆浴場に女児を連れたお父さんが入ってくることは普通にあることだし、幼女とお風呂はロリコンさんには嬉しいかもしんないけどさぁ。


 僕、そういう趣味無いから!


 自意識過剰かもしれないけれど、思春期ってそういうもんじゃないっすか?

 恥ずかしいことはトコトン恥ずかしい年ごろなのよ。

 だから、僕としては君主危うきに近寄らずってね。


 そんなことで悶々としていると、いつの間にやら洗濯物が取り払われ、丸まっていた僕の背中がむき出しになった。

 恐る恐る後ろを振り返ると、素っ裸の幼女がニコニコ笑顔で僕に向かってしゃがみ込んでいた。


「ケンちゃん、み~つけた~! きゃっきゃっ」


 いつもと変わらぬけがれのない笑顔を見て、僕はホッと胸をなでおろした。


 ――やったよ! 幼女の裸を見ても何とも思わないよ!


 良かったぁ、僕ロリコンじゃないよ! お母さーん!

 

 色素の薄い茶色がかった三つ編みお下げ、キラキラした大きな瞳、ちょこんとした鼻に桜色の小さなお口、男児とさほど変わらないけれど何処か柔らかさを帯びた胸板、ぷくっとしたお腹の真ん中にはかわいらしいおへそ、そこからなだらかに下って……っと、これ以上は止めておくことにしよう。

 

 でも、なんでこんな状況になってしまったのか?

 どうして、幼女と混浴しなくちゃならないのか?

 それは数分前の出来事まで遡る。


 僕がこの異世界でアスト家のご厄介になり数日が過ぎていた。――この辺の事情は、また後々明かしていきたいと思う。

 ともかく! ここでの暮らしにも慣れて、冷静に物事を考えられるようになってきた。

 それで僕はふと思った。


 ――こっちに来てから風呂に入ってねぇ!


 女の子にモテるには、まず第一に清潔感がなくちゃ! って、そういう事じゃなくて! さすがに何日も風呂に入らないのはまずいんじゃないの?


 そう思うと、体も何だか痒くなってくるし、何処となく臭いの方もヤバいことになってるんじゃないかと心配になってきたのだ。

 なんせ、居候先は街で評判の美人三姉妹のいるアスト家なんだから。

 彼女らに臭いなんて思われた日にゃ、おいら立つ瀬がねぇってもんよ!

 つうことで、僕はコッソリと風呂場にやってきた訳なのだ。


 しかし、この世界には電気給湯器やガス湯沸かし器なんぞ無いわけで薪でお湯を沸かさなくちゃならない。

 そんなことしたら、ここんちの家族にバレてしまう。

 仕方がないので、貯めた水を浴びることで良しとする。


 なんでお湯を沸かしてくれと頼まないのかって?

 こっちの世界の言葉はどうやら僕には理解できるのだが、向こうに僕の意思を伝えるのは今のところ難しいのだ。

 それに、もしお風呂に入りたいと伝わったとしても……。


「もう! 何で逃げるのよ? ひとりで水浴びしてブルブル震えてたのは君だぞ! せっかくカレンお姉ちゃんがお湯を沸かしたんだから、観念して一緒に入りなさい」


 お判り頂けただろうか?

 プラチナブロンドのハイツインテを揺らしながら、プクッと頬を膨らませるニイナ。

 あのそんなに屈み込まれたら、シャツの隙間から見ちゃいけないものが……。

 ニイナはそろそろ良いお年頃なのに、いまだに近所のオスガキどもと飛び回って遊んでいる。

 だけど僕は気付いてるぞ、一緒に遊んでる野郎どもの目が彼女に釘付けなのを!       

 まるで妖精が飛び回ってるかのようなはかなく美しい彼女に魅了されない奴などいるはずがないのだ。

 まったくニイナの奴は無防備で困る、第二次性徴はとっくに始まってるんだぞ! お父さんは心配だよ。


「ケンちゃん、いっくよぅ?」

「こらこら、裸で抱き着かない! 引っ搔かれたらどうすんのよ?」


 事案発生! 事案発生ですぞっ!

 お風呂はまだしも、裸の幼女に抱き着かれるてるのはどう考えてもマジヤバいっす。

 ロロアに押し倒される格好になった僕は爪が彼女の肌に当たらないように手を突っ張った。

 ニイナは慌ててカチコチに固まる僕を抱き上げて救出。

 ふぅ、助かった……でも……。


「ハァハァ」

「もう! あんたの所為なんだからね」


 あまりの展開に息が上がり、ぐったりとした僕は前足をニイナの肩に投げ出して彼女につかまった。

 そのまま僕はニイナに脱衣所へと連行されていった。

 彼女は僕を抱えたまま扉をぴしゃりと閉じてから、僕の顎を乱暴に掴んで顔を自分の方へと向けさせる。


「いい? ロロアの背中引っ掻いちゃったりしたらダメだからね? わかった?」

「ハァハァ」

「返事は?」

「ワン!」


 おっと! 大事なことを忘れてた。

 僕が言葉が判るのにコミュニケーションに困る理由、それは……。


「ケンちゃん。お利口さん!」


 裸の幼女に頭を撫でられる、まるで犬みたいに。


「なんか気味悪いくらい賢いよね。まるで犬じゃないみたい」


 犬じゃないみたい。

 いや本当は犬じゃないんですよニイナさん!

 犬の姿をしているけど、中身はごく平凡な普通に性欲を持て余す男子高校生なんですよ!


 ――そう、僕は犬の姿をしている。


 詳しく言えば、家で飼っていた柴犬ケンケン6歳の姿。

 そんな僕の頭を撫でてたロロアがお風呂場の戸を開けようとしたその時。


「待ってロロア、私と一緒に入るの!」

「ロロアもうひとりで入れるもん!」

「バカ言わないの。大体、ケンも一緒なんだから尚更ひとりで入れるわけないじゃん!」


 そう言うとニイナは急いで服を脱ぎだした。

 そう、これが大変な事態。

 今そこに迫る危機。

 冷静に考えるとそうだよね、5歳児ひとりでお風呂に入れないわ。

 しっかりと教育の行き届いたご家庭なんだなアスト家は!


 ――いやいや待て待て! お待ちなさいって!


 賢者タイムにはまだ早い。

 さっきみたいに事案だ犯罪だとかふざけてる場合じゃねぇから!

 年端もいかない少女とはもう言えない年齢ですよニイナさんは!

 元の世界で言えば女子中学生と混浴ですよ!

 13歳と混浴は間違いなくヤバいっす!

 もし僕が本当は人間だとばれたら、アスト家のお父さんにブチ殺されるかもしれないじゃん!


 まだ彼女らの父に会ったことないけど。


 と、その前にどうして僕が犬になってアスト家に居候することになったのか?

 詳しく話したいと思う。

 だって君も、こっちの方が気になってるでしょ?

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