俺は何者なのか…
目が覚めたらそこには美しい草原が広がっていた。
俺には此処が何処なのかわからない。ただひたすらに美しい景色だった。
遠くには街が見えている。何処か懐かしさを感じる、煉瓦造りの家が並んだ静かな街だ。
俺はなぜ今此処にいるのかわからない。しかし、そんなことはどうでもいいことだと思った。
今はただ、この美しい景色を眺めていたい…
ーー「貴方」は何をするべきか…ーー
どのくらい時間が経っただろうか、3時間、いや4時間は経ったかもしれない。辺りはすっかり暗くなっている。
草原に寝転がって眠っていた俺は体を起こした。その時、街の方で大きな爆発音が聞こえ、街が真っ赤に染まる様子が目に入った。あの街とは何の縁のないが、何故だか心配になり急いで駆けつけることにした。
街は酷い有様だった。至る所で悲鳴がと怒号が鳴り響き、そこ此処に血が飛び散っていた。
ーーこの光景、どこかで…ーー
一瞬そんな事を考えた。しかし今はそんなことよりも街人の救出が優先だ。
俺はまず状況を確認するため、安全な場所にいる街人に話を聞くことにした。
街人は酷く怯えながらこう話してくれた。
この街はかつて奴隷として働かされていた獣人族が作った街であり、今までは人族ともうまくやっていた。しかし、最近奇妙な噂が広がり、人族は獣人族を怖がるようになった。そこで、一部の人間が「獣人狩り獣人狩り」を計画し、今日に至ったと。
奇妙な噂というのはなんのことだろうか…
現場に戻ると、人族が獣人族の娘に切かかろうとしていた。
「危ない!」
大きな鈍い音とともに俺は意識を失った。
ーーあなたって本当に…うふっ…仕方のない人…ーー
目を覚ますと獣人が俺の方をまじまじと見ていた。
「ここは?」
すると1人が答える。
「街長の家です。私を助けてくださってありがとうございます。」
とさっき助けた獣人族がこたえた。
「あの火事は、人族はどこに?」
さっきまでとは打って変わって平和そうな様子だ。
「それならイエレナ様が…」
聞くと、イエレナという強者が全て倒してしまったらしい。俺はとても安心した。
ーーそろそろ思い出してもいい頃合いでは?ーー
「うっ…」
「大丈夫ですか?だめですよ、まだ安静にしていないと…」
「すまない…」
不意に聞こえるあの声は一体何なのか…悩んでいると、
「失礼します」
若い女性の声だ。とても綺麗で上品な声だった。
「イエレナ様…ここまでいらしてくださったんですね。」
「怪我をした方のところに訪問しているんです。どうですか?お怪我の具合は。」
どうやらこの女性がイエレナというらしい。あまり強そうには見えないが…
「おかげさまで、この通りです。」
俺はにっこりと笑ってみせた。
「良かったす。あなたが一番重症だったので、お元気そうで何よりです。」
「重症だったんですか俺…」
「覚えていらっしゃらないのですか?背中と腕を切られてその上頭まで…」
イエレナが話すのを途中でやめたかと思うと驚いた表情を浮かべている。
「どうされました?」
「あなた、その腕…どうやって?」
「腕?」
「あなたは腕を切られたんです。正確に言えば切り落とされた…その証拠に街長さん…」
「ええ、これが貴方の腕です。後で魔法医につけてもらおうと私が預かっていたのですが…」
「なにご冗談を…」
いやまて、おかしい。腕が切り落とされた?そんな筈ない。俺の腕は付いて……
俺ははっとした。腕の服が切れていて血もついている。
「どういうことでしょうか?」
「私も聞いたことがありません。こんな回復能力を持った人は初めて見ました。」
するとイエレナが何かに気づいたような顔をした。
「イエレナ様…?」
獣人の娘が心配そうに見ている。
「あのぅ、イエレナさん、どうされました?」
イエレナは言う。
「こんな話を聞いたことがあります。今よりずっと昔の時代、原初の魔法時代と呼ばれた時代がありました。そこには5人の偉大な魔法使いと5冊の魔導書が存在していました。魔導書には5人の偉大な魔法使いが研究した魔法の真髄が書かれているとか…そしてその中の一冊の一文には完全治癒の魔法について書かれたものがあると…」
「俺の腕はその『完全治癒』の魔法で直した可能性がある…ということですか?」
「それ以外は考えられません。今の魔法では腕をくっつけることはできても新たに生やす事など不可能なのです。」
「なるほど…」
つまり俺は古代魔法を行使した可能性があるということか…
ーーいい加減思い出しなよーー
「頭がっ…」
まただ。あの声だなんなんだ一体…
「大丈夫ですか?って大変!すごい熱です!」
「あらあらほんとだ…確か…『慈悲深き神よ、かの者に癒しを与えたまえ。ヒーリング』これでよくなるはずです。」
イエレナに魔法をかけてもらい、俺はまた眠ってしまった。
ーーまだ思い出せないの?ーー
ーー遅いわね…早く思い出さないと困ったことになるわよ。ーー
ーーなかなか思い出せんこともあるじゃろうて…ーー
ーーそれはじーさんだけでしょ?はははっーー
ーーわしをボケ老人扱いするでないわい!この小童め!ーー
ーーそんなに怒らないでくださいな〜〜さん。ーー
ーー思い出せんなら、こうするのみ!ーー
「はっ……」
突然頭の中に記憶の断片のようなものが浮かんできた。声の主たちの仕業だろうか。
「おはようございます。えーっと…名前をまだ伺ってませんでしたね。私はリーリア、リーリア・ロルメア。獣人族街長の娘です。」
「私はイエレナ。イエレナ・ロンドです。この街では英雄なんて言われていますが、ただの騎士です。よろしくおねがいします。」
「おはようリーリア、イエレナ。俺の名前は…」
自分の名前は何だっただろうか…覚えていない。そもそも俺に名前などあったのだろうか…
ーーゾル!名前くらい覚えとけよぉ!まったく…ーー
「うっ…」
「だ、大丈夫ですか?まだ寝ておいた方が…」
「魔法、効いていないのでしょうか…。」
「いや、大丈夫だ。俺はゾル。ただのゾルだ。よろしくな。」
「ゾル…どこかで聞いたことがあるような…」
「どこにでもいる名前さ。きっと他の人だろうよ。」
「そうですね。人違いでしょう。ごめんなさい。」
こうして俺、ゾルは自分を少し思い出したのだ。
作者のnOwOnと申します。
作品はいかがだったでしょうか!
もしよければコメントで感想を聞かせてください!モチベーションになります!よろしくおねがいします。




