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オタクはデートを断ってしまう

「風見さん、週末に皆で遊びに行かない? 日本の街にまだ詳しくないでしょ?」

「えーと……(アニメの一挙放送がありますけど、どうしましょう)」


 ミアが転校してきてから数日。休憩時間に女子に遊びに誘われたミアは、教室の片隅でオタクグループと駄弁っている慎吾の方をチラッと見て助けを求める。ミアの視線に気づいた慎吾は、今は素直に仲良くした方がいいよと首を縦に振り、それを見たミアは週末にクラスメイトと遊びに行くことを了承する。雲母の策略により、学校では隠れオタクとしての生き方のアドバイザーとして、それ以外ではオタク友達として生きることになった慎吾。雲母のおかげで自然に身に付いた面倒見の良さからか、周囲に関係を悟られることなく、ミアの学園生活をサポートしていく。そんな二人を、ギャルグループと駄弁っていた雲母はニヤニヤしながら眺めていた。


「人気者だなあミアは。もう3人に告白されたらしいぜ? 安心しろって、日本の男はお前以外ろくでもないのばかりだから告白されても断っとけって助言しておいたから」

「余計なお世話だよ。それより夕方、クラスメイトとクレープを食べた後に風見さんが家に遊びに来るんだ。気まずいんだから佐々倉さんも来てよ」

「おいおい、風見さんじゃなくてミアだろ? 本人がいない場所でも下の名前で呼べるくらい男らしくなれって。大体何で私がオタク同士の談義に混ざらなきゃいけねーんだ、慣れろ慣れろ」


 放課後、クラスメイトと軽く遊びに出かけたミアを見送り、慎吾と雲母は二人で帰る。更生?する前から良くも悪くもクラスの注目を集めていた雲母であったが、その対象がミアに変わったことで若干伸び伸びとしており、慎吾と一緒に帰るという行為にも一切の抵抗は無い。既に恋のキューピッドになった気分で二人の仲を茶化し続けた雲母が陽気そうに自分の家に帰って行くのを眺めた後、慎吾は自分の部屋に向かいミアが来るまでの間に掃除をしたり消臭剤を吹きかけたりと慌ただしく動き、雲母が来るのかとお茶菓子を用意する母親にもっといいのを用意しろと詰め寄る。


「こんばんわ! お邪魔します!」

「いらっしゃい。母さん、お菓子とジュースは俺が持っていくから台所に置いといて」


 家のチャイムが鳴り、ドアを開けてミアを家に招き入れ、そそくさと自分の部屋に向かわせる慎吾。ミアがそばを持ってやってきた後、改めて家族で引っ越しの挨拶に来たため慎吾の両親もミアの事は同じ高校に通うことも含め知っていたが、内向的な慎吾が雲母以外の女子と短期間で仲良くなるのは両親からしても意外だったらしく、部屋に消えていった二人を見届けた両親はあの子があんな可愛い子とねぇ、と不思議がる。


「慎吾さんの部屋って、あまりグッズとか無いですね。この前来た時も、段ボールに色々入ってましたし。あ、ひょっとして親に秘密なんですか?」

「そういう訳じゃないけど……ところで今日は何しに来たの」

「そうでした、引っ越しをして自分の部屋が出来たんですけど、殺風景なのでどう改造しようか悩んでたんです。この前は結局アニメの話をしているだけで終わってしまいましたし」


 慎吾の部屋をまじまじと観察しながら、イギリスにいた頃は母親とマンションで二人暮らしであり、ちゃんとした自分の部屋が無かったというミア。ポスターを貼ったりフィギュアを飾ったりしたいというミアだが、慎吾は元々そういったグッズを飾る趣味は無く、友達とゲームセンターに行ってクレーンゲームで遊んだ時に獲得したフィギュアだったり、ゲームのイベントに参加した時の景品だったりを捨てずに持っている程度で、同年代に比べて非常に多い漫画やゲームを除けば非常にシンプルな部屋であった。


「俺はフィギュアとかいらないから、欲しいのがあったらあげるよ」

「本当ですか? そうだ、今から私の部屋に来てくれませんか? やっぱり実際に見て貰った方がいいと思うんです」

「うっ……わ、わかったよ」


 ミアの好きそうなアニメのフィギュアだったりポスターだったりをまとめる慎吾だったが、自分の部屋に来て欲しいと言われて顔を赤くしながらも了承する。二人で家を出て、隣の家に入り、ミアの両親に挨拶をしてミアの部屋へ。僅か1分程度の出来事であったが、女の子の部屋に行くなんて経験は小学生時代の雲母の部屋に行ったきりである慎吾の心臓の鼓動を最高速度にするには充分であった。


「これが私の部屋です。……ベッドと、テレビと、ラップトップだけは寂しいんですよ」

「そ、そうだね……このスペースとかは、メタルラックとかを置いたらいいんじゃないかな。あ、でも女の子の部屋だし、最近はファーとかを巻いてアレンジするのもよく聞くよ。ポスターとかは壁やポスターに穴を開けたくないなら、よく使われてる粘着テープがあって……」


 ミアが言う通り引っ越して間もなく、持ってきたグッズもほとんど無いため殺風景な部屋ではあったが、それでも慎吾は空気に耐えられず、彼女の顔を見ることなく部屋を眺めながら、オタク友達の部屋を参考にアドバイスをしていく。


「なるほど……参考になります。そうだ、土曜日はクラスの女の子と遊びに行くんですけど、日曜日は空いていますか? 買い物に付き合って欲しいんです」

「うぇっ!? そ、それはまずいよ。一緒に出掛けてクラスメイトに噂されると大変だし……そ、そうだ、欲しいものがあったら、俺と雲母で探しておくよ。ミアさんも土曜日にクラスメイトと遊ぶついでに、街にどんな店があるかとか把握していけばいいさ。それじゃ、俺はそろそろ帰るよ」


 レイアウトについて一通りアドバイスをしたはいいが、それを実現するためのアイテムをどこで買えばいいのかもわからないミアは休日に一緒に買い物に行って欲しいと頼み込む。どこからどう見てもデートでしか無いその提案に、慎吾は顔を真っ赤にしながら、恋愛シミュレーションゲームに出てくる幼馴染のような断り文句と共に家を後にする。部屋に戻りしばらく悶々とした後に、自分を慰めるためにズボンのチャックを開けたところで、


「この意気地無し! ……あ、わ、悪い……10分後くらいにまた来るわ……早いのか? 遅いのか?」

「黙れよ……何しに来たんだ」


 最悪のタイミングで雲母が部屋に乗り込んでくる。状況を理解して申し訳なさそうにドアを閉めようとした雲母を制止しながらチャックを閉じ、仕方なく彼女を部屋に入れる慎吾。慎吾がミアの家から帰った後に、SNSで雲母とミアは会話をしていたようで、折角のデートの誘いを断るとは何事だと説教をしにやってきたらしい。


「ったく……デートの誘いを断るとは何事だ、しかも何で私と一緒に探すなんて言ってんだ」

「しょうがないだろ……風見……ミアさんは外では隠れオタクとして生きていくんだから、俺と一緒に出歩いているところを学校の誰かに見られたら台無しだ。ミアさんの部屋に飾るグッズとかを探すにしたって、女の子用がメインだし俺一人だと入りにくい店とかあるんだよ……雲母から彼女に言ってくれないか、『あいつは女子からキモオタだと思われてるから部屋以外では会ったり話題にしない方がいいぞ、誰が見てるかわからないから』って」

「お前、そこまで自分を犠牲にして……わかったよ、日曜日だな? 買い物に付き合うよ……私も全力でお前のポジキャンをするから、いつか堂々とデートに行けるようになろうな」

「何で泣くんだよ……」


 ミアの学校生活にとっては、自分の存在は負でしかないと語る慎吾。本当はデートに行きたいのにミアの事を想って断った慎吾の決意に心を動かされた雲母は涙を流しながら、日曜日にミアのインテリアグッズを一緒に探すことを了承するのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うおおおおおーー 「一緒に帰って、友達に噂とかされると恥ずかしいし」ってもう何十年ぶりに聞きましたわっ!!それも男子のセリフとしてってのが斬新ですwこれからの関係性、気になって夜しか眠れな…
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