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オタクな少女がやってくる

「順調なんじゃねえか? お前の評判もキモオタからキモ男子くらいにはなったと思うぞ?」

「違いがわからないよ」

「女子の評価マイナス100からマイナス50くらいにはなったってことだ」


 慎吾の部屋でパリポリとお菓子を食べながら、慎吾に親指を立てる雲母。学校で雲母の面倒を見るようになってしばらく、慎吾の苦労の甲斐あり学年一の問題児と言っても過言では無かった雲母はクラスの問題児レベルにまで成長することが出来た。一方の慎吾も、それまで女子からは犯罪者予備軍として扱われていたのだが、雲母の保護者ポジションとして認識されるように。特にそれで慎吾が雲母以外の女子から話しかけられるようになった、という訳では無いのだが、高校三年生になり二人が離れ離れになったとしても、慎吾がオタク仲間から離れたとしても、それなりのスクールカーストを維持できそうな状態にはなっていた。


「ま、そんなわけだから、今後ともよろしく頼むぜ相棒」

「もうそろそろ離れるべきだと思うけどね」

「そりゃあ私はもう自立できるさ。けどお前はまだまだだろ、まだ評価マイナス50なんだから」

「……このまま俺と佐々倉さんが一緒にいるとどうなると思う?」

「どうなるんだよ?」


 今後も同じような関係を続けるべきだと主張する雲母と、そろそろ一段落つけるべきだと主張する慎吾。確かに雲母の思惑通り、順調に二人の評価は上がっていった。しかし学校で男女が、幼馴染という強力な関係を持った二人が一緒にいればどうなるかと言えば、


「恋人同士、って思われるよ?」

「……それは、まずいな」


 当然ながら周囲は二人が付き合っていると誤解する。他人の色恋沙汰には興味津々ながら、自分の事に関しては無頓着だった雲母は言われて気が付いたようで、顔を背けながら小声でまずいを連呼した。


「というか既に思われてるかと」

「あー! 通りでこないだ男子との合コンカラオケに誘われなかったと思ったら! いいか、言われたら全力で否定しろよ!?」

「言われなくても否定してるよ」

「ったく何で私がお前なんかと……よし、彼女を作れ。そしてこの関係を終わらせよう」

「佐々倉さんも彼氏作ったら?」

「私の世話を焼ける男がそう簡単に見つかると思うな! そういうわけでまだしばらくは世話を焼かれてやるよ」


 慎吾と恋人扱い、という現状に鳥肌を立てるほど拒否反応を示す雲母。一方の慎吾も雲母を手のかかる妹くらいにしか認識しておらず、恋人扱いなんて以ての外だった。今後の方針について話し合ったところで、葉桜家のチャイムが鳴る。


「あ、親御さん? んじゃそろそろ帰るわ」

「……いや、父さんは仕事中だし、母さんもまだ買い物中のはずだよ。そもそも両親なら鍵があるんだからチャイムなんて押さないよ。宅配便かセールスか……外が見える機能ついてないからなぁ」


 帰り支度を済ませた雲母と共に、訪問者を出迎えるために玄関に向かう慎吾。恐る恐る扉を開けると、


「あ、ども! そば持って来ました!」


 金髪の、と言っても雲母のように髪を染めている訳では無い、地毛ならではのサラサラとした金髪を靡かせる少女が蕎麦の入った鍋を持って玄関の前に立っているという異様な光景がそこにはあった。


「出前頼んでたのか?」

「そんなまさか。えーと……フアユー?」

風見かざみミアです! イギリスから来ました! そばどぞ!」


 ミアと名乗る少女は慎吾に蕎麦の入った鍋を渡そうとする。困りながらも慎吾がとりあえずそれを受け取り台所へ持っていく中、玄関で立ち尽くしていた雲母が葉桜家の隣の家に明かりがついていることに気づく。


「ありゃ? あそこの家、空き家じゃなかったか?」

「はい、やっと引っ越し作業が終わりました!」

「ああ、イギリスから引っ越して来たってわけか。引っ越し蕎麦なんて変な文化知ってるんだな?」

「貴女はどこの国から来たんですか?」

「え、私? あー、私は日本人だよ。染めてるだけ。本物は色つやが違うなぁ……ついでにほら、そこの向かいの家に住んでる。立ち話もなんだし、中で蕎麦食いながら話そうぜ」


 少女が葉桜家の隣に引っ越してきたことに気づき、家の人間でも無いのに勝手に迎え入れる雲母。しばらくして、慎吾と金髪少女と偽金髪少女は食卓を囲んで蕎麦をすすっていた。


「いやー、箸は難しいです。すみません、汁こぼしちゃいました」

「気にするなよ、こればかりは経験だって。代わりに私はナイフとかフォークとかうまく使えないんだからさ」

「お前の箸の使い方も下手だからな……?」


 ミアの話を聞きながら普段より少し早い夕食を採る二人。日本人の父親が海外出張でイギリスに来た際に母親と出会い、恋に落ちてミアを産むも父親は日本に帰国、母親も仕事の都合でイギリスを離れられなかったためずっとイギリスで暮らしていたが、転職を機に家族で日本で暮らすことになった……そんなミアの引っ越し事情について聞いた後に、慎吾と雲母も改めて自己紹介をする。


「つまり二人は、おさなななじみなんですね! すごいです! つまり恋人なんですね!?」

「『な』が1つ多いよ。そして恋人では無い」

「え!? 日本の幼馴染は全員カップルじゃないんですか?」

「漫画やアニメを通じて誤った日本文化が海外に伝わってるようだね……ところでその髪飾りって」

「知ってるんですか?」

「まあ、一応全話見たよ」

「!」


 話の途中で、ミアがつけている髪飾りがついこの前まで放送されていたアニメのグッズであることに気づき、話題を振る慎吾。全話見た、という言葉を聞き、ミアは目の色を変える。


「葉桜さんもファンなんですか? 私はシーズン3から入ったんですけど、今思えば何でシーズン1の時にこの作品に気づかなかったんでしょうって後悔してもしきれません! 葉桜さんはどのシーズンが一番ですか? 私は断然シーズン2で……」


 そのまま作品愛を語り続けるミア。ひとしきり喋った後、二人が唖然としていることに気づき恥ずかしそうに頭を抱える。


「あ、ああ……私はなんてことを……すみません、忘れてください」

「ミアってオタクなのか?」

「おい、失礼だぞ」

「……そうです! 慣れない日本の大地、オタクだとバレたら更に生きづらくなると思ってましたが……自分に嘘はつけません! 漫画アニメゲームどんとこいです! ナード上等! チーズハンバーグライス上等!」


 雲母の直球な質問に吹っ切れたらしく、オタクであることをカミングアウトするミア。それを聞いた雲母は何かを察したように自分のそばを急いで食べ終え、再度帰り支度を始める。


「おっと、そろそろ私は帰るわ。実はこいつもかなりのオタクなんだよ、部屋も一見普通だけどさ、色々隠してあるんだぜ? じゃあな」

「何言ってんだ、俺はオタクをやめ……」

「やはり葉桜さん、いえ、慎吾さんも同志だったのですね! ナード特有のオーラ、私じゃなきゃ見逃してました! 部屋を改造するための参考に見せてください!」

「え、そんなにオーラ出てるの俺……」


 慎吾がオタクであることをカミングアウトし、そそくさと家を出ていく雲母。残された慎吾はミアにオタクのオーラが出ていると言われ傷つきながらも無下には出来ず、部屋に招き入れ、折角オタクから離れるために段ボールの中に封印したグッズやらを開放する羽目になるのだった。



チーズ牛丼→チーズハンバーグライスはおかしいと思う

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