表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/21

オタクとヤンキーは陰でつるむ

 共闘の関係になった慎吾と雲母だが、特に日常がそれで大きく変わることは無い。慎吾がいつも通り朝の8時に学校につき、教室でオタク仲間と喋っているうちに始業のチャイムが鳴り、鳴り終わる頃に慌ただしく雲母が教室に入ってセーフ! と野球のポーズをしてクラスメイトに笑われる。


『起こしてくれよ、仲間だろ?』


 その後の授業中に慎吾のスマホに雲母からメッセージが届く。『俺にモーニングコールして貰っているなんてバレたら大変だろ』と雲母のスクールカーストを考慮して返信すると、『じゃあ部屋まで起こしに来るか?』と慎吾がついこの前まで愛読していた漫画やアニメのシチュエーションを提案された。男女は逆だが。


「10円貸して10円」


 昼休憩になり、友人達と昼食を採り終えた後に自販機へ慎吾が向かうと、そこには財布をガサゴソと漁っている雲母の姿。10円が足りないようで慎吾を見つけるや否や手を差し出して来た彼女に仕方なく10円を渡し雲母が炭酸飲料を買うのを眺めていると、あたりを引いたようでもう1本炭酸飲料が出てくる。


「へへっ、友達にあげて株も上げよっと」


 そのもう1本を慎吾に渡すことも無ければ感謝をすることも無く教室へと戻っていく雲母を見送った後、慎吾も同じ炭酸飲料を買おうとするが、先ほどの2つで売り切れとなっていた。


「てかさー雲母、さっきの昼休憩、えーと、あの、ほら、オタクの人と喋って無かった?」


 午後の授業の合間の休憩時間、眠たくなった慎吾が机に突っ伏していると、雲母達のグループからそんな声が聞こえてくる。慎吾の苗字を知っているクラスメイトは数人しかいない。


「え? マジ? 仲良いの?」

「いやいや、ちげえって。金が足りないからカツアゲしてたんだよカツアゲ」

「うわ、雲母ひどーい」


 実は幼馴染だなんて情報は伝えることなく、たまたまそこにいたからカツアゲしただけだと弁明し、友人達の笑いを誘う雲母。慎吾がチラッと自分の友人であるオタクグループの集団を見やると、不快感を露わにして雲母を睨みつけていた。自分の味方をしてくれるのは嬉しいが、自分は雲母と共闘関係にあるのだと申し訳なく思いながら再び机に突っ伏す。


「これからゲーセンでもどうですか? 実はメダルゲームのクーポンが溜まってて、使い切りたいのですよ」

「……わかった。俺も行くよ」


 終業前の掃除の時間中、オタク仲間からゲームセンターに誘われ快諾する慎吾。オタク趣味に飽きたとは言えど突然今までの関係を壊すことなんてできないし、皆いい奴だと理解しているから彼等を傷つけないためにも、自分の立ち位置のためにも誘いをあまり断ることはできない。放課後になりオタク仲間達と学校近くのゲームセンターに寄り、皆でメダルゲームを楽しんでいたのだが、仲間の1人がばつの悪そうな表情になる。


「……あれ」


 指さす先には、UFOキャッチャーの横から指示をしている雲母を含むクラスの女子数人。どうやらギャルグループもこの日はゲームセンターで遊ぶ予定だったようだ。天敵とも言える存在の襲来に、先ほどまで和気藹々と遊んでいた彼等は途端に暗い表情になる。


「どうします? 解散しますか? 引き換えたメダルは預けられますから、また来ればいいだけのことですし」

「だが断る! 俺達の方が先にゲームセンターに来てたのに、何故逃げなければならぬのだ! 慎吾もそう思うよな?」

「……そうだな。向こうは俺達に気づいていないみたいだし、気にせず遊ぼう」


 これが教室の中ならば立場的に自分達はアウェーだが、他のクラスメイトがいないゲームセンターならば人数的にも対等のはずだと、臆することなくゲームセンターに居座ることを決意するオタク達。鉢合わせで空気が悪くならないように、こっそりと慎吾は雲母にメダルゲームのコーナーにいるから近寄るなとメッセージを送る。しかしその数分後、


「うわ、キモオタ集団じゃん」

「何? メダルゲーム? あれでしょ? スーパーとかで子供がやってるやつ」

「メダル? がたくさんあってもお金にならないんでしょ? コンビニでバイトとかしたら?」


 雲母達はギャル集団を引き連れて慎吾達を襲撃する。教室の中ならば馬鹿にされてもじっと耐えていたであろうオタク達も、先ほどまで楽しんでいたものを馬鹿にされて黙っていることは出来ず、立ち上がって鬼気迫る表情で雲母達を睨みつけ一触即発状態に。


「おい、喧嘩なんてしたら皆停学だろ。そっちはこれ以上停学になったらまずい人もいるんじゃないのか? そっちの子、先月1週間くらい休んでたよな?」

「うっ……」


 両グループの間に割って入って仲裁を試みる慎吾。昔はトラブルメーカーの雲母に付き合わされていたこともあり、トラブルの解決能力は人一倍高かった。


「こいつの言う通りだぜ、これ以上ここにいたら私達まで陰気臭くなっちまう。プリクラ撮ろうぜプリクラ」


 トラブルを引き起こした張本人である雲母も自分の行動の結果についてそれなりに反省しているようで、慎吾から目を背けながらギャル集団をプリクラコーナーへと連れて行く。最悪の事態は免れたが、楽しくメダルゲームで遊ぶなんて空気には戻れず、自然な形で慎吾達は解散となった。慎吾が家に戻り自室で暇を潰していると、雲母がお菓子の袋と昼休憩に慎吾が飲みたかった炭酸飲料を持ってノックもせずに入って来る。


「すまん、てっきり一人で遊んでいるものかと。ほら、UFOキャッチャーで取ったんだ。それからこれは10円のお返し。やるよ」

「一人で遊んでいたとして、俺がギャル集団に笑い物にされる展開になるだけだろ」

「そこは私の話術で皆がメダルゲームに食いつき、メダルを増やしていくお前に感心して『葉桜君ってオタクかと思ってたけど、クレバーでかっこいいかも!?』的な流れに持っていこうと思ってたんだよ。私だって結構語れるんだぜ? ほら、小学生の頃スーパーのゲームコーナーで一緒に遊んでただろ?」

「スーパーのゲームコーナーのメダルゲームとゲームセンターのメダルゲームは似て非なる物なんだよ」


 杜撰な計画を語りながら、喉が渇いていたのか自然な流れで慎吾に渡すはずだった炭酸飲料の蓋を開けて口をつける雲母。少し飲んだところで自分が何故これを持ってきたのかに気づき口を離して慎吾に渡そうとするも、間接キスであることに更に気づいて慌て始め、いらないから全部飲めよと慎吾が促すと一気飲みしてゲップを必死で抑える。


「げふっ……いやーしかし、あの時のお前、正直イケてたぜ? 結果オーライだな?」


 空き缶を慎吾の部屋のゴミ箱(燃えるゴミ用)に捨てると、ゲームセンターでの慎吾の立ち回りを真似し始める。よく再現できているだけに、漫画やアニメに影響されたとしか思えない自分の芝居がかった立ち回りに恥ずかしくなり目を背ける慎吾。


「あまり真似するな……昔から世話のかかる妹のような存在がいたからな」

「お前はやればできる子なんだよ、そういうのを押し出して行けば自然と周囲の評価も上がるって。ヒーローを目指そうぜ。私がいい感じにトラブルを起こして、それをお前が解決する。たちまちクラスの人気者だ」

「その場合佐々倉さんがクラスの嫌われ者になるけどいいのか?」

「ぐふっ……盲点だったな。よく考えたら私もヤンキーを辞めないといけないんだった。お前のクラスでの株を上げて、なおかつ私もヤンキーを辞められる方法……待ってろ、明日には素敵なアイデアを編み出してやるからな」


 慎吾を褒めた後、作戦を考えるために慎吾に渡すはずだったお菓子の袋を持って部屋を出ていく雲母。それを見送った後、褒められたのが嬉しかったのか、ゲームセンターでの自分の立ち回りを部屋で一人再現し、既に帰ってしまったことに気づかずお菓子とジュースを持ってきた母親に見られて赤面するのだった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ