多分きっとヒロイン
『この豊かなる大地に降り立った神々は、この地を治める神の代行者を置こうと考えた。
はじめ一柱の神が竜を作った。
より強い力を求め相争う竜は熱気を生み大地を耕したが、歯止めの利かぬ竜の性が草を千切り木を折り倒した為に、大地は乾き荒れ果てた。
そこでもう一柱の神が精霊を置いた。精霊は竜の力と熱を奪い、水気を生んで草木を茂らせたが、熱を生む竜が滅びに瀕し、世界は冷え込んだ。
故に最後の一柱が魔族を生んだ。魔族は羽で世界を攪拌した。そして魔族は精霊を食い、竜に食われるように定められた。
ここに循環が生まれ、世界はあるべき姿になった』
もの凄く短くてシンプルだけど、これがこの大陸に伝わる創世の神話。今私がいるアルビオン竜王国の建国伝説はこの創世神話をベースにしている。アルビオンの王――伝統的に竜王と呼ばれるその血族が、古代の巨竜と、精霊と人のハーフから生まれた超人だった……というもの。
『古代アルビオンの地は広大で豊かだったが、そこに狂える巨竜が住み着いてしまった。巨竜が無闇に暴れるせいで、豊かだった大地は荒れ果て、そこに住む人々は困窮した。そこで、その地を治めていた人の長の娘が精霊王に祈りを捧げた。精霊王は娘の祈りを聞き届け、人の娘に子を授けた。そうして生まれた精霊の血を引く娘が、竜の狂乱を鎮め、後に竜の子を産んだ。全ての竜を従える力を持ったその子供こそが初代竜王である』
広大なアルビオンの地を荒らすほどの巨竜が、精霊とのハーフとはいえ人間の娘とどうやって子供を作ったのか……なんて下世話なことを考えてしまうのは、現実逃避だ。だって私、いま膝ガクガクするほど緊張しているから。
「アリアンロッド! 私は君との婚約を破棄する! そしてここにいるティアナと結婚する!」
私の腰を抱くようにして立つカレトヴルッフ竜太子殿下が、正面5mほど先に立っている精霊公女アリアンロッド様にそう言い放つのを、私は固唾を飲んで見つめていた。正直いうと『殿下、もう少し穏便な言い方できませんか』とツッコミたいところなんだけど、さすがに今それを言っちゃいけないことくらいは私にも分かる。
シン、と痛いほどの静寂が大広間に充ちた。年に一度開かれる建国祭、その祝賀会の会場である巨大な空間には、国中の貴族がほぼ全員集まっているはずだ。今更ながらこんな場でやらなくても、と気づいたけれど、もう遅い。私はブルブル震える手を胸の前で握りしめた。大丈夫。大丈夫なはず。だって。
『私はヒロインなはず、なんだから』