はーちわめ:魔力増幅
※副題更新
「ふにゃ······?くぁぁ······寝ちゃったか······」
時刻が昼過ぎとなった頃、少女は夢より浮上した。昔の、懐かしい記憶を見ていた気がする。どんな内容だったかと思い出そうとしたが、泡沫のように消えてしまった。
「うーんっと······魔力は満タン。魔法の練習と行こうか」
起き上がりベッドに座ると、体を伸ばして眠気を飛ばす。
魔導書を読み進めて理解したことがある。現在少女が使用可能な魔法は基礎の基礎に当たるものばかり。小さな火や水などを作り出すことしか出来ない。しかし、これらはそれ以上の魔法を扱う為に必要な基盤に違いなかった。基礎魔法とは言い得て妙で、作り出した火や水を別の形に形成する事が初級以上の魔法となる。つまり、元は同じなのだ。
そして少女は理解した。魔法の階級は消費魔力量に等しい、と。魔力量が増えれば起こる現象は大きくなる。その、魔法行使の規模に準じて魔法の階級をつけただけなのだ。
そして、他に気付いたことと言えば、ある程度の大きさがなければ変形させることが難しい、という事。粘土を思い浮かべれば早いかもしれない。ものを作る時には少ない粘土よりも多い粘土の方が作りやすい筈だ。小さければ形を構成する為の技術を多分に要求する。多ければ少し雑でもそれなりの形とはなる。
少女は開きっぱなしの魔導書を閉じ、床に落とした。その魔導書に必要性を感じ無くなったのだ。書かれた内容は大体把握しきり、魔法の使用法を理解した。
しかし実践には移せない。それは少女の魔力量に問題がある。今のままでは魔力が足りず、試行錯誤すらまともに出来ないだろう。
なら──、とやる事は決まった。ひたすらに魔力を増やす。それだけだ。
方針を定めた少女は魔法を使い続けた。限界を超えた魔法行使を幾度となく繰り返し、その幼い身に鞭を打ち続けた。孤独を感じさせる間を与えず、魔法を使っては気絶し、起床しては魔法を使い気絶する。襲い来る痛みも、空腹も、少女を止める鎖にならず、起床時間は僅か数分という短い時間。使い続けなければ殺される、その鬼気迫る勢いで魔法を放つ。
そんな生活が2ヵ月ほど続いた。
「──253,254,255,256,257······258、か」
体内にある魔力を使い切り、限界を超えた1発を放つ。脳天に杭を打たれたような激痛が走るも、それを無視し窶れた顔の少女はボソリと呟いた。
それからゆっくりとベッドから起き上がると、フラフラした足取りで屋敷の玄関へと向かう。辿り着いた玄関のドアを開けると、そこには案の定新しい食糧が届いていた。この屋敷のある街を管理する貴族の家から配達される食糧。
ボサボサになった長い銀髪を掻き上げて、食糧の詰まった麻袋を引っ掴むとズルズル音を立てて引き摺り始めた。
少女が食糧を運んだ場所は台所──ではなく、少女の自室。どうせ一切の調理をするつもりはない。ならば保管する場所は少女が主に生活する部屋でいいと判断した。
「······かった······」
黒パンに噛み付き、歯の通らないパンに文句を吐き捨てる。
無謀な魔力増幅生活を始めて一週間経った頃、お腹は空かなくなっていた。3日ほど食事を摂っていなかったが食欲は無かった。しかし、それがむしろ怖くなり、少女は少ない食事を摂るようになった。
もくもくと口を動かし、美味くもない飯をお腹に収めていく。