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雨のち晴れ

作者: 星野美月

「俺は雨が好きだ」


倉木晴人(くらきはると)は雨が降っている中、校門で下校の支度をしている女子を見ながら言った。


その言葉は決して大声ではない。誰にも聞かれないようひっそりと小言のように言っただけだ。晴人は今、校門が窓から見える2階の校舎にいる。授業も終わり帰るだけであった。今は、その下校の準備に傘を差して歩いている女子高生を見ている。決して覗きではない。ちょうど今の時間だけ集中して女子が戯れているだけである。その中に一人だけ傘を持たず帰る女子がいた。


雨宮(あめみや)ひかりである。晴人と同じ高校2年で隣のクラスであり晴人の幼なじみである。その雨宮は傘を差さず校門から出ていく。


「あいつ…今日も傘差してねぇーな」


晴人は、そう思い呟いた。そして鞄と傘を持ち自分も帰ろうとした。だが、それは出来なかった。


「こらっ…何帰ろうとしてるんだい倉木君!」


そう言ったのは国語の先生、田沼由香里(たぬまゆかり)先生である。


「今日は補習でしょ倉木君?」


「あっ…えっと今日でしたっけ?」


「昨日の授業の時、言ったはずよ」


田沼先生は年齢は30ぐらいだが妙に可愛い。特に今みたいに呆れた顔や、怒った時の顔も可愛い。だが、それは大人の女性としてである。

しぶしぶ教室に戻り補習をうける事にした。


補習が終わった頃には生徒の数はまばらであった。皆、ほとんど帰宅していた。

今さら早く帰ろうとしても無駄だと分かり、ゆっくり帰る事にした。

すでに雨はやんでいた。生徒がいない廊下で晴人は呟く。


「俺は雨が好きなんだ…」


変わっていると良く言われるが好きなものは好きなのだ。

誰もいない廊下で今度は少し大きめの声でいう。誰にも聞かれていないと思い呟いたのだが、そこには噂好きの女子、佳山茜(かやまあかね)がいた。彼女は雨宮の親友であった。今日は雨宮と一緒ではない。


「聞いちゃた…あはっ」


佳山は、そう言うと晴人に近づいてきた。


「ねぇーねぇー本当なの…雨が好きって?」


無邪気に笑う佳山はいわゆるギャルだ。髪こそ染めてはいないものの言動はギャルそのものであった。


「いや…俺が好きなのは、天気の雨だっ!」


そう言ったのだが逆に興味をもたれてしまった。


「へぇー本当に?」


意地悪く笑顔で彼女は微笑んだ。暫しの間、時間が止まる。


「…ああ」


「ふぅーん、そういう事にしてあげる」


そう言いと佳山は小走りでいなくなった。その日以来、俺は雨が好きだと噂される事になる。



―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――


「私は雨が嫌い…好きなのは晴れだ」


昨日は傘を忘れて散々であった。だいたい、いつも天気予報をみない自分が悪いのだが。そして今日、噂を耳にする。

晴人が自分を好きだという噂である。

その情報は親友の佳山茜から聞いた。茜と違い私はギャルではない。どちらかというと大人しい女子である。そんな私に高校に入り一番に声をかけてくれたのが茜であった。当時から茜は明るくクラスのムードメーカーであった。そんな彼女から晴人が雨が好きだという事を聞いた。


「ねぇーねぇー、ひかりはどう思ってるの?」


「晴人かぁー」


たしかに容姿端麗で性格も優しいし理想的な男である。喧嘩を今しているのだが仲良しだ。でも彼はバカである。昔、よく遊んで


「俺は雨が好きだと」


そう言って私の心を揺るがした。結果は、天気の雨が好きだったというオチである。だから今も、雨が好きというのは天気の雨のはずだ。


「なぁーに真剣に考えてるの?」


「別に…なんでもないわよ」


笑顔でいう茜に、ひかりはため息をついた。


「でも前に、わたしは雨が嫌い、でも晴人が好きって言ってたじゃない?」


笑顔で茜は言うが、そうは言ってない。


「だから…雨が嫌いで、天気の晴れが好きなのっ」


ポコポコと茜を叩く。


「まぁーそういう事にしとくね」


「もぅー」


でも実際、私は晴人の事が好きだ。昔、雨が好きだと言ってくれた言葉が忘れられない。本当は晴人の事が好きでたまらないのだ。だから噂であれ少し恥ずかしいが嬉しい。それが天気の雨だとしても。



―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――


今日も雨。今日は、いつもより雲が黒く雷が鳴っている。


「はいっ今日の補習は、終わり」


田沼先生と別れる間際、田沼先生が言う。


「恋をすることは良いことよ。でも学業にも専念してもらわないと」


どうやら先生にも噂は広まっているらしい。


「そんなんじゃありませんよ」


「でも本当は好きなんでしょ?」


何故この学校の女の人は、そうやって言うのだろう。

自分では恋をできないから、そういうのだろうか?


「先生…バカにしてるでしょ?」


「あらっそんな風に聞こえる?でも、あなた達って仲良かったじゃない。喧嘩でもしたの?」


そうあれは…一週間前。

俺と雨宮は喧嘩した。俺はその日、雨宮に買い物に付き合ってと言われた。だが俺は友達と遊んでいて時間を忘れていたのだ。

その前の日までウキウキしていのだが何故か、その日忘れてしまったのだ。


何故かはわからない。ただ嬉しくて友達とはしゃいでいたのは覚えている。


「はぁー」


ため息をつくと田沼先生は言った。


「何事にも全力よ!」


ガッツポーズをし俺を応援する。


「そんなんじゃないですよ」


そう先生に言ったが胸があつい。

あの日…忘れてなかったら、喧嘩してなかったら、こんな気持ちにはなっていない。

今日も雨宮は傘を差さず帰っているのだろうか?

今日は、いつもより雨量が多い。

傘を差さず帰るのは風邪を引くかもしれない。

そう思った瞬間俺は教室を飛び出し走った。


「こらっこらっ廊下を走らないっ!でも頑張って少年…」


田沼先生に言われて分かった。

俺は、雨宮ひかりが好きなのだ。


そう俺は、雨…雨宮ひかりが好きだ。


「好きだぁっ…雨宮ぁー!」


誰に聞かれても構わないくらいの大声をだす。

今日の補習は早く終わったのもあり、まだ結構な数の生徒がいた。

その中の一人、雨宮ひかりは倉木晴人の愛の告白を聞いた。


―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― ――


私、雨宮ひかりは下校のため下駄箱から靴をだし帰る準備をしていた。

隣には親友の佳山茜がいる。

今日も天気予報を見てないせいか傘を持っていなかったが茜の傘に入れてもらい外を見る。


「ひゃー凄い雨っ!」


「うん…そうだね。びしょ濡れになる所だったよ。茜がいて助かった」


(だから…雨が嫌い。好きなのは晴れだ)


そんな風に思っていたが晴人の事が頭に浮かんだ。

そんな時だった。


「雨が好きだぁー」


晴人の声が聞こえる。バカみたいに雨が好きだと大声で叫んでいる。

だが今日ははっきりと聞こた。


「雨宮が好きだぁー」


そう聞こえる。これは幻聴ではない。それは隣にいる茜にも、ちゃんと聞こえているようだ。


「あっ、ひかり…ごめん。先帰るね」


いつもなら冷やかす茜であったが私の後ろを見るなりそそくさと傘を差し校門の方へ走って行ってしまった。


「なによ…わたし傘持ってないのよ」


そう呟くのだが、何故か後ろが気になり向いてしまった。

そこには倉木晴人がそこにいた。


わたしを見るなり晴人が口にする。


「俺は…雨が好きだっ」


(ほらっ、晴人はバカだから天気の雨が好きだと又言ってる)


でも、その表情は真剣そのものであった。


晴人の言葉にわたしは頷く。


「うん…知ってるよ」


ほほを赤らめ私は晴人に向かい微笑む。


「私は雨が嫌い…でも晴れ…ううん、晴人の事が好きだよ」


読んでいただきありがとうございます。

いつもはファンタジーだけですが思いきって恋愛ものの短編を書きました。

タイトルでは雨のち晴れとなっています。

終わりも雨が降る中ですが気分が晴れという意味を込めて、このタイトルにしました。

まだ未熟ですが楽しめてもらえたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 甘々の青春でニヤけ顔が止まりませんな~。 これは素晴らしい青春ですね~♪
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