最弱の村人、ハゲに矢を受けてモテモテになりました
俺は村人だ。職業としては、この世界で最弱の存在。
異性に興味はあるけれど、相手にしてくれる若い女性は少ない。
同じ「村人」でも、容姿に自信のある子は村人の男を相手にしない。
俺は、容姿には自信がある。
けれど、俺が今よりも美男だったとしても、村人では美女にもてないだろう。
ちなみに、俺の自己評価では、俺の容姿は上の下くらい。
右側頭部に親指の先くらいのハゲがあるのが、評価点を下げている。ハゲがなければ「上」だと思う。
俺と付き合ってくれそうな女は、俺にとって魅力的ではない。
多分、俺は生涯独身なのだろう。
隣の国と戦争になり、村人の俺も戦場に駆り出された。
武器も防具もなく、食料や資材を運ぶのが役目だ。
ある日、俺のいる部隊が移動中、敵軍に襲われた。
物資を放棄して逃げると重罪になるので、逃げることはできない。
とりあえず、穴掘り用のツルハシを武器として構える。
敵軍の方が数が多く、こちらの全滅は時間の問題。
やっぱ、逃げようかな。
そんなことを考えていたら、流れ矢が飛んできた。
あわてて避けようとするが、避けきれず、矢が当たった。ハゲの辺りだ。
これは、死んだな。意識が遠くなる。
ああ、若い女の子にもてたかった。
誰かが俺を呼んでいる気がするけど、疲れ切っている感じで目を開けることができない。
俺を呼ぶのは若い女性らしい声だ。俺のいる部隊に女性は一人もいない。
多分、俺は夢をみているのだろう。
「俺は死んだのですか?」
「あやうく死ぬところでしたけど、幸運にもハゲに当たりました」
「ハゲに当たると、何かいいことがあるんですか?」
「私が三つの願い事をかなえてあげます。死後に魂を取るとか、あなたに不利益なことは何もありません」
「あなたは神様なんですか?」
「そのようなものです。何かしてほしいことはありますか?」
「若い女性にもてたい」
俺は言った。
「承知しました。次は?」
「俺に敵意を持つ者がすべて、美少女になると嬉しいです」
「変わった願いですね。そうしておきます。次が最後です」
「疲れているので、もう一つの願い事は、そのうちにお願いします」
「わかりました」
そして、周囲は静寂に包まれ、俺の意識は遠くなった。
俺が目を覚ますと、きれいな女の人に膝枕されていた。
あわてて身を起こす。見たこともないほど美しい人で、何といっていいか分からない。
俺の顔は赤くなっていたに違いない。
「ねえ、あなた。私をお嫁さんにしてください」
いきなり、モテ期襲来?
俺に膝枕してくれてたのは、イルマという名前の魔法使いだった。
人生で初めての女性からの告白を受け、舞い上がった俺はその場でイルマとの結婚を承諾。その日のうちに夫婦になった。
イルマの勧めで、俺は冒険者になった。
冒険者ギルドに登録した後、さっそく、イルマと二人でダンジョンに入る。
俺に武器は必要ない。
敵意を持つ存在は美少女になってしまうからだ。つまり、ダンジョン内で俺に敵意を持ったモンスターや魔族は、すべて人間の美少女になってしまうのだ。
そして、元モンスターや元魔族の美少女は、俺に女性としての好意を寄せる。
魔王も例外ではない。
同業者で俺に嫉妬する者はいない。
嫉妬や敵意を抱くだけで美少女に変身してしまうからだ。
近頃、退屈だ。
神様らしき女性への願い事が、もう一つ、残っている。
それが終わったら、本当に退屈で死にそうになりそうだ。
でも、ただの村人に戻りたいとは思わない。
元魔王の美少女エリザを相手に酒を飲んでいる方が、村人として権力者にこき使われているよりはましだ。
「エリザ、今でも魔法を使える?」
「うん。魔王だったときと変わらないよ」
「じゃあ、俺を転生させること、できる?」
「できるよ。職業も指定できる。でも、別れたくないな」
エリザは悲しそうな顔になった。
「じゃあ、そのときは、君とイルマも一緒だ。いいね?」
「それなら、OKよ」
退屈に耐えられなくなったら、エリザに頼んで、転生させてもらおう。
こんどは大賢者にでもなってみようか。