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野人転生IF『野人VSエステバン』

小倉ひろあき様の作品。好色冒険者エステバンとのコラボ作品です。

好色冒険者エステバンの方でも、野人が登場します。興味のある方は読んで頂けると幸いです。

野人がめちゃくちゃにされています。

https://ncode.syosetu.com/n9672er/

 森の中をパピーと移動していると、気配察知に反応があった。気配はふたつ、いやみっつか。ひとつの反応がとても小さい。今まで感じたことのない気配だ。


 用心のために接触を避けようとしたが、相手がこちらに向かってくる。俺は警戒レベルを引き上げ、神経を研ぎ澄ます。


 ガサガサと草をかき分け姿を表したのは、女性のエルフだった。


 エッエルフ! ファンタジーの代名詞じゃねぇか! 衝撃を受けた俺が固まっていると、エルフはシュッと手を伸ばし、パピーを捕まえた。


「エステバン! この子かわいいぞ!!」


 早い! エルフを見た衝撃で反応が遅れてしまった。


 パピーは反応しなかった。害意を感じなかったのかもしれない。傷付けるつもりはないのだろう。


「シェイラ、勝手に捕まえたらダメじゃないか」


 ガサガサと草をかき分けながら、筋肉ムキムキの男が出てくる。こんなにマッチョな人間はゴンズ以来だ。筋肉量バルクだけならゴンズ以上かもしれない。


「ねーねー、シェイラ。あたしもその子なでていい?」


 小人!! エルフよりファンタジーっぽいの出てきた!!! ムキムキ男の胸ポケットから、かわいらしい小人の女性が顔を出していた。


 今まで見たことのない、ファンタジー世界の住人を見てしまった。


「なぁ、アンタ。あの子狼はアンタのペットか?」


 俺が衝撃で固まっていると、ムキムキの男が話しかけてきた。


「ペットじゃなくて、俺の大事な相棒だ」

「そうか……」


 なんかリアクションが薄いな。くそ、こいつイケメンじゃねぇか。リア充オーラ振りまきやがって、気に入らねぇ。


 美人エルフとかわいい小人を連れたマッチョなイケメン。しかも、俺の大事な相棒をペット呼ばわりしやがって、まったくもって気に入らねぇ。


「そう睨むなって。敵対するつもりはないんだ。シェイラとレーレが満足するまで、あの子狼をなでさせてやってくれないか?」

「オレの相棒パートナー、パピーは賢い。パピーに聞いてくれ。もっとも抵抗しないところを見ると、受け入れているようだ」


 回路パスからも、不快な感情は伝わってこない。なでられて嬉しそうだ。パピーが喜んでいるので、俺も嬉しい。少し嫉妬してしまったが。


 このムキムキ男も、外見の割には理知的なようだ。少し態度が気に入らないが、嫉妬からくる悪感情なんだろう。


「なぁ、アンタ。性癖は人それぞれだけど、子供は良くないぞ。狼とはいえ、子供は良くない」


 はぁ? 何いってんだコイツ。突然の台詞に理解が追いつかなかったが、意味を理解した。


相棒パートナーってそういう意味じゃねぇよ!」

「わかった、わかった。性癖は人それぞれだけど、大人になるまで待ったほうがいいぞ」


 コイツ全然人の話を聞かねぇ! ちょっと『いいやつかも』なんて思った俺が馬鹿だった。


「レーレだって小さく見えるが大人だからな。やっぱり子供はいかんよ」


 こいつ、あの小人とやってんのかよ。ガチの変態じゃねぇか! 筋肉ムキムキの変態とか言葉の響きがヤバすぎて笑えねぇよ。


「お前も欲望に負けず、狼が成長するまで待ってやれ」


 なにいい笑顔で俺の肩に手を置いてんだよ。


「さすがに獣とやったことはないな。頑張ればいけるか? ブツブツ」


 なんかとんでもねぇこといい出したぞコイツ。パピーのことも性的な目で見てるんじゃねぇだろうな。


 俺がジトーっとした目で男を見ていると、男が言った。


「おい、俺にそっちの気はねぇぞ」

「ちげぇよ、睨んでんだよ!」


 わざとやってるのか? 狙ってやっているなら煽りスキル高すぎんぞ。


「パピーは大事な相棒パートナーだけど、そういう意味じゃねぇし、俺は男性に性的興奮を覚える嗜好はねぇんだよ」

「うんうん、認め辛いよな」


 なに、俺は全部わかってるからなって顔してんだよ。あーむかつく。コイツ嫌いだわ。


「いい加減にしろよ、このハゲ!」


 イラッとした俺が言ったハゲという言葉。男は別にハゲているわけじゃない。何気なく発しただけだった。


「誰がハゲだ! ふさふさだろうが!」

「いいや、ハゲだね。生え際が怪しい。それに、ムキムキだから男性ホルモンが多いはずだ。将来的にもハゲるね。っていうかもうハゲだね」


 ハゲが男の怒りスイッチだったのか、怒り出した。俺もイライラしていたので、ついつい小学生みたいな煽り方をしてしまった。


 自分もM字ハゲが進行しているのに、相手をハゲいじりしてしまった。


 特大のブーメランが突き刺さりながら相手を罵倒していると、キレた男が殴りかかってきた。


 冒険者は短気な者が多い。殴り合いなんてちょっとしたコミュニケーションみたいなものだ。


 俺は外見から差別されているので、殺し合いに発展することが多い。普通の冒険者たちは、殴り合っても次の日には普通に話していたりする。


 この男もそんな感覚で殴りかかってきたと思う。だけど、体がつい反応してしまった。


 大振りの右ストレートをインサイドに入りながらかわす。鼻にジャブを入れ、動きを止める。ジャブを打った左腕を引き戻しながら、すれ違うように右ストレートを顎に打ち込んだ。


 所謂いわゆるワンツーと呼ばれるコンビネーションだ。


 完璧に顎にヒットしたが、男は倒れなかった。太い首の筋肉が衝撃を吸収したのかもしれない。 


 やっちまった。男はじゃれ合いのつもりだったのに、俺は本気で攻撃してしまった。男は鼻血を流しながら俺を睨む。


 あきらかに空気が変わった。


 お互い武器は抜いていない。殺し合いとまでは行かないが、じゃれ合いの空気でもない。まずいことになった。


 素手での殴り合いで負けるつもりはないが、男の筋肉は見せかけだけではないようだ。完璧に顎を捕らえた右ストレートで揺るぎもしない。


 眼球や睾丸などの重要器官を破壊せず制圧するのは難易度が高い。締め落とすしかないか。俺がファイトプランを練っていると男が飛び込んでくる。


 右手を振りかぶり、突っ込んでくる。パンチングマシーンのスコア狙いかよ。フィジカルは凄いが技術はないらしい。


 俺はさっきと同じように、インサイドに攻撃をかわした。すると男は突っ込んできた勢いそのままに、俺に体当たりをかます。


 パンチは釣り餌か! 見事に引っかかっちまった。


 パンチの空振りした後の不安定な体勢だったため、威力はあまりなかった。ただ、体勢を崩されてしまう。


 体勢が崩れたところを攻撃されると、衝撃を逃しきれないかもしれない。


 崩れた体勢で強烈な打撃を受け流す。そのことに集中していると、俺の意識の隙間を縫うように手が伸びてきた。


 スピードはあまりなく、ヌルっと意識の隙間を縫うように、男は俺の胸ぐらをつかんだ。


 やられた! 打撃を警戒している、意識の隙を突く動き。


 早い動きだと、想定外の動きでも反応できる。だが、ギリギリ体が反応しない、微妙な速度で手が伸びてきた。


 武術の達人が繰り出す、早くもない攻撃を何故か避けられない。そういうたぐいの技術だ。天性のセンスと積み重ねられた経験が必要な技。


 何気ない動きひとつに、エステバンと呼ばれた男のすごみがにじみ出ていた。


 俺は焦りながら、胸ぐらを掴んでいる腕に関節技をしかけようとする。しかし、ものすごい力で強引に引き寄せられた。


 次の瞬間、ゴンという鈍い音と共に、視界に火花が散った。 頭突き! なんて威力だ。一撃で効かされてしまった。


 胸ぐらを掴まれ、釣り上げられているので踏ん張りが効かない。関節技を掛ける隙もない。


 男は慌てる様子もなく、静かに俺を観察した。そして、もう一度頭突きを繰り出そうとする。


 俺は男の左足に右足を足払いのように当てる。だが、姿勢を崩していないので、効果はでない。男は、少しだけ動きを止めた。


 ほんの一瞬。足払いを当てた瞬間の僅かな隙。その隙を突くように、俺は動いた。


 胸ぐらを掴まれたまま、左手で相手の奥襟を掴む。そして、足払いのときに、相手の左足に当てた右足を支点に、斜め後ろに引き抜くように、後ろに倒れながら奥襟を引っ張った。


 体重だけだと、この男は投げれない。右足を相手の足に当てて、支点にする。さらに、奥襟を背筋力を使って引っこ抜くように持ち上げる。


 自重、テコの原理、筋力。その総てをつぎ込み、男をぶっこ抜いた。


 俺に引っ張られるように倒れる男の腰に左足を当て、変則の巴投げのように蹴り飛ばす。しかし、男は胸ぐらを掴んだまま離さない。


 俺は自分の投げの勢いに巻き込まれるように、男と一緒に後方へと転がった。後方には坂があり、お互い掴み合いながら坂を転がり落ちていく。


 坂を転がり落ちた後、意図せず俺はマウントポジションを取っていた。左手で顔面を殴るふりをして、右手の親指を相手の眼球に押し込もうとする。


 だが、男は俺の右腕を掴む。なんて力だ。眼球まであと少しだが、掴まれてから一ミリも動かない。それどころか、右手の骨がキシミを上げている。


 俺は掴まれている腕を回しながら、相手の親指に圧を掛け抜き取る。その隙を突き、男が下から俺を蹴り飛ばそうとした。


 俺は後ろに飛び、蹴りをかわす。


 お互いの距離が空くと、俺はふぅーと息を吐いた。集中力は切らさない。ただ、一呼吸間を置きたかった。


 強い。技術に粗はあるが、肉体が強い。生きる力が強い。生き物として強い。こういうタイプは苦手だ。


 何より厄介なことに、この男は関節技を知っている。そういう技があると意識しているだけで、技は掛けづらくなる。


 ましてや、このフィジカル差だ。


 だめだ、弱気になるな。怯える心を蹴り飛ばし、冷静に相手を見る。打撃は効きづらい、だけど打撃の技術は俺のほうが上だ。そこに活路を見出す。


 ジリッジリッと距離を詰める。リーチは相手の方が長い。遠くから飛び込めばわからないが、隙が多い。相手がその隙を見逃すとは思えない。


 男の間合いに入ると、男は右ストレートを繰り出してきた。最初のパンチに比べると、ずいぶんとシャープな軌道だった。


 だが、この程度なら簡単にさばける。


 俺は最初と同じように、インサイドに入りながら攻撃をかわす。この右ストレートは餌だった。


 男は右ストレートを空振りすると同時に、右膝を抱え込むように上げ、グンと腰を入れ横蹴りを出す。


 近い間合いでの蹴り技。確かに意表は突かれたが、重心から右ストレートがフェイントなのは分かっていた。今度はそっちが釣り餌に引っかかったな。


 横蹴りをかわすと同時に、膝を真っすぐ上げ、脹脛ふくらはぎの筋肉を使いスパンと蹴り上げる。足の甲が男の睾丸を跳ね上げるようにヒットした。


 硬てぇ、股間が鉄でできているのか? 予想外の硬度に、追撃を止めて距離を取る。もしかしたら股間に防具を仕込んでいたのかもしれない。


 だとしたら、ダメージが少ない可能性がある。追撃は危険だった。


 男は顔をしかめ、少し前屈みになった。しかし、目は死んでおらず、強い意志を感じさせる。


「男にここを責められる趣味はない」


 男はそうつぶやくと、腰の剣を抜いた。


 金色に輝く、刃渡り50センチほどの剣。何故だかわからないが、危険だと感じた。あの剣はやばい。


 俺の本能が警報を発していると、男が斬り掛かってくる。

 

 俺は黒鋼のナイフを素早く抜き取ると、角度を付けたナイフで受け流す。ギャリィンと金属がぶつかりながら擦れ合う音が響いた。


 受け流しで、ほんの少しだけ男が体勢を崩すが、攻撃を仕掛けるほどの隙ではない。俺はバックステップで距離を取る。


 受け流した右手が衝撃で痺れている。


 相手の力が強いのもあるが、受け損ねた。驚くことに、相手の男は攻撃のとき、スキルを使用していなかった。


 スキルを使用した機械のように正確な太刀筋ではなく、荒々しくも実戦慣れした生きた斬撃だった。


 スキルによって放たれた、機械のように正確な太刀筋じゃない。完璧に受け流すのが困難だ。


 さらに、男の持っている剣がやばい。少し受け損ねただけなのに、黒鋼のナイフが欠けている。まともに受け止めれば、ナイフごと斬られてしまうかもしれない。


 あれが、うわさに聞くミスリルか? だが、色が違う。金色はオリハルコンを連想させるが、まさか……。


 とにかく不味い。完璧に受け流せない以上、相手の斬撃を受けるのは危険だ。かと言ってリーチ差があるため、こちらから仕掛けるのは難しい。


 いっそ逃げるか? しかし、パピーが男の仲間と共にいる。仲良さげにはしていたが、俺と男が敵対した後だと、どうなるかわからない。


 俺が動揺を隠せずにいると、気配察知から男の仲間とパピーが近付いて来るのがわかった。万事休すか……。


 追い詰められた状況の中、打開策を懸命に探していると、男の仲間とパピーがやってきた。


「こらーエステバン。喧嘩しちゃダメでしょ!」

「わんわん!」


 回路パスからパピーの怒りが伝わってくる。ヤジン、喧嘩しちゃダメだよとパピーが伝えてきた。


「男の子なんだから、殴り合いぐらいはいいけど、武器はダメだよ!」

「わんわん!」


 エステバンと呼ばれていた男は、小人の女性に怒られていた。パピーはエルフの女性に抱かれながら、俺を叱っている。


「でもなぁ、コイツ俺の股間を蹴ったんだぜ」

「その男が俺を挑発してきたんだ」


 俺とエステバンが同時に口答えをする。


「エステバン、悪い子は小人攻めだよ! 白髪になるまでゆるさないからね」

「がふぅ!」

「「ひぃ」」


 小人攻めと聞いたエステバンは、肩をすくめて怯えていた。だが、その瞳には微かに期待の色が込められていた。


 こいつやっぱり変態だ……。


 エステバンに呆れながら、俺はパピーに叱られていた。


 パピーがあんなに太い声を出したのは初めてだ。怒られている恐怖というより、パピーに嫌われる恐怖で俺はすっかり意気消沈してしまった。


 お互い、戦い続けるようなテンションじゃない。


 その後、俺とエステバンはお互いに謝罪し、肩を組みながら仲良しアピールをした。女性陣の怒りが収まる頃には、エステバンとの変な連帯感が生まれていた。


 河原で殴り合って、その後親友。みたいな話は信じられないが、命懸けで戦ったエステバンには不思議な縁を感じていた。


 戦いの理由が、くだらない口喧嘩から発展したからだとおもう。その後、和解も出来た。今までは殺伐とした殺し合いばかりしていた。


 久しぶりに、日本で試合をした後のような爽やかな気持ちになれた。




 合同で昼食を取り、雑談の中でエステバンたちが森に入った理由を聞いた。


 なんでも、アレがデカすぎて恋人のエルフに入らないらしい。この森の植物から、ローション的な潤滑剤が手に入ると聞いてやってきたといっていた。


 ジェラシーで血涙が流れそうになったが、やりたくても出来ないというのも、なかなか辛いらしい。


 俺は、ギルドに依頼された植物を採取しに来ていた。お互い植物採取だが、ターゲットは違うらしい。


 食事を終え、お互いのターゲットに向かう。


 わずかな時間だったが、女性陣(パピーは雌)はすっかり打ち解けており、別れを寂しがっていた。


 町から町へと移動する冒険者に別れは付き物。俺はまだまだ冒険者歴は浅いが、別れには慣れた。


 改めてエステバンと握手をして、短い別れを済ます。


「この森は迷いの森と呼ばれている。ベテランでも行方不明になる危険な森だ。忽然と人が消えるため、異世界とつながっている。そんな伝承もある。エステバン、気を付けてな」

「森はまかせろ! 私はボスケ狩人かりうどだからな!」


 シェイラと呼ばれていた女性のエルフが意気揚々と声を上げた。


「ヤジン、お前も気を付けろよ」


 エステバンがそう言うと、パピーが一声鳴いた。


「パピーの鼻は優秀だ。匂いをたどっていけば、帰り道を迷うことはないさ」

 

 お互い、頼りになる相棒パートナーがいるな。俺たちはそう言って笑い合った。


 別れ際に、レーレと呼ばれていた小人がぽそっと言った。


「ヤジンにも小人攻めしてみたかったな」


 その瞬間、謎の戦慄が背中を突き抜けた。別れは寂しいが、深みにはまらなくて良かった。小人攻めが何かはわからないが、なぜかそう思った。


 楽しい出会いだったが、依頼はまだ完了していない。俺は気を引き締め直し、森の奥へと歩き出した。

小倉ひろあき先生の著書。リオンクール戦記1・2巻が好評発売中です。

好色冒険者エステバンとは違う、ハードな中世戦記物となっています。

野人転生と同じようなハードな世界観なので、興味のある方はチェックしてみてください。

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