クリスマスSS 野人転生IF
クリスマスに投稿したSSです。
「主! 起きるのじゃ主!」
誰かが俺を揺さぶりながら声を掛けている。うっすらと目を開くと、まるで作り物のように容姿の整った少女がそこにいた。
「やっと起きたのか主。お寝坊さんなのじゃ」
「あれ? 君は……」
「まだ寝ぼけておるのか? まったく仕方がないのう」
そうか、思い出した。彼女はハイエルフのリーファ。見た目は幼いが100歳を超えている。CGで作り出したかのような、完璧に左右対称な整った容姿。
窓から入り込んだ朝日に金糸のようなブロンドの髪が輝き、特徴的な長い耳も相まって神秘的な美をたたえている。
大森林を冒険していたとき、偶然彼女が封印されている遺跡を発見した。偶然封印を解いてしまい、それからはなんやかんやあって一緒にいる。
そんな彼女が、あどけなさの残る顔をしかめ俺を見ている。
「ごめん、少し寝ぼけていたよ」
「まったく、主は妾がおらねばどうしようもないのう」
「そうだね、ありがとう」
俺はそう微笑むと、リーファの髪を優しく撫でた。絹のような滑らかな手触りが伝わる。
俺に頭を撫でられたリーファは、顔を真っ赤に染めて下を向いた。
「か、かってに妾の頭を撫でるでない!」
「はは、ごめんごめん」
俺がリーファと会話をしていると、ベッドのシーツがもぞもぞと動き出す。いぶかしげに見ていると、俺の前にぴょこんとシーツから犬耳が飛び出した。
「ご主人様! ミーも! ミーも撫でて欲しいのです!」
突然ベッドのシーツから頭を出した彼女はミーシア。古狼族の獣人で、奴隷として売られていたのを俺が購入した。
どこか控えめに、それでも一生懸命撫でて欲しいアピールをするミーシアにいじらしさを覚え、優しく頭を撫でる。
「えへへ、ご主人様の手、あったかいです」
調子に乗った俺は、耳の付け根をコリコリしだした。
「あう、コリコリはダメなのです、エッチなのです」
顔を真っ赤にしながら、まんざらでもなさそうなミーシアを愛でていると、突然せなかに何かがポフンとぶつかった。
俺は手を止め、後ろを振り返ると、そこには雪のように白い肌をした、オッドアイの少女が立っていた。
「マスターの周囲を嗅ぎまわっていた商人の不正の証拠。これを役人に突き出せばアイツは終わり」
「ありがとう、アーリア」
彼女はアーリア。アルビノでオッドアイの少女。アルビノは目が赤くなるのだが、彼女はオッドアイだった。
右目に膨大な魔力が宿っており、そのせいで色が変わったのだ。彼女には暗殺者の適性があり、俺の気配察知でも認識できない隠蔽能力を持っている。
以前、スラムの大物と揉めたとき、暗殺者として送られてきたのが彼女だった。死闘を経て仲間になった。最初はなかなか心を開いてくれなかったが、最近では笑顔を見せてくれるようになった。
「ん!」
アーリアが俺の胸にぐりぐりと頭を押し付ける。俺はアーリアの頭を優しく撫でた。
「いつもありがとね、アーリア」
「マスターのためなら頑張る」
アーリアに感謝の気持ちを込めて撫でていると、ドアが乱暴に開けられた。
「いつまでくっちゃべってるんだい! アタイは腹が減ったよ! ご飯を作ってくれよ野人!」
乱暴に扉を開けた彼女はアマゾネス族のアニタ。間違えてアマゾネス族のテリトリーに入ってしまった俺は、彼女たちに襲撃された。
なんとか撃退することに成功したのだが、強い男の種を貰うと、族長の娘であるアニタが強引について来た。
180cmを超える長身、スラリと長い手足。豊かな胸とお尻。うっすらと腹筋のついた細いウエスト。まるでスーパーモデルのようなスタイルと、健康的な褐色の肌。
露出が多いこともあり、俺の理性が崩壊しそうになる。だが、彼女はまだ14歳らしく、俺の倫理観ではアウトだ。
日本では女性は16歳で結婚できるので、それまではと我慢している。彼女もまだ、色気より食い気といった感じなので、夜這いなどの行為はない。
そんなことを考えていると、ふと気が付いた。
「今日はクリスマスか」
「クリスマスとはなんじゃ?」
「クリスマスです?」
「クリスマス……」
「クリスマスってのは何だい?」
「俺の出身地のお祭りさ、家族や大切な人と集まってごちそうを食べたり、プレゼントを交換したりするんだ」
「「「「ごちそうだって!」」」」
「そうだね、プレゼントは用意できないけど、今日は腕によりをかけてごちそうを作るよ」
「なんじゃと! 妾は甘味を所望するぞ!」
「お肉! お肉なのです!!」
「マヨネーズこそ至高」
「アタイは久しぶりに魚が食べたいねぇ」
みんなでワイワイと楽しみながら部屋を出る。あぁ、楽しいな、ずっとこんな風にみんなと笑って過ごしたい。
俺は幸せを噛み締めながら料理の献立を考えるのだった。
気配に反応した俺は、ナイフを抜きながら飛び起きる。
あれ? みんなは? ここはどこだ? そう思っていると、灰色狼が飛び掛かってきた。
危なげなく灰色狼を仕留め、みんなを探す。
そして気付いた、夢だ。
周囲を見渡すと粗末な小屋と自分しかいない。
一応、股間に手を当てて確認するが、夢精はしていなかった。
領軍に追い立てられ山奥に潜んでいた。常に緊張感があったので、あんなにしっかり夢を見るほど熟睡できていなかった。
久しぶりに夢を見たな、クリスマスの夢だった。もしかしたら今日はクリスマスなのかもしれない。
あー最高の夢だったな、チーレム物の主人公ってあんな感じなんだろうな。
急に独り身の寂しさが押し寄せてくる。
俺は灰色狼の死体の処理と、武器の手入れを済ませ、再び眠りにつく。
出来れば、さっきの夢の続きが見られますように。
メリークリスマス。