97 ネックホールダ―男爵の友との和解(その21)
空気と化しているフランツ=スカーフェイス子爵の目線です
宴会で会話に入れないとマジで悲惨なんですよね
2時間が凄く長く感じます
これも男爵様の復讐ですね
判っていてしっかり会話からハブる
男爵様のそこに憧れ、痺れますね
子爵様はただ単に御愁傷様です
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「収穫物の半分を持って行かれます」
男爵がそう言うと伯爵様が驚いていた
男爵が言うには人や馬や牛や羊やロバやヤギの糞を水にドロドロに溶かして地面に撒くことで肥料にする農法ができたそうだ
なんでも作物の収穫量が確実に倍以上になるという画期的な方法だとか
下手したら3倍、4倍はあたりまえ
それがタダでできる
いや契約をしたらクソ集めからクソをまき散らす、種を植える、育てる、収穫する、売るまですべておまかせという全自動
まったくお金を支払わなくても良い代わりに半分を持って行かれる
男爵がそう言っていた
ウソ臭い
何もしなくて良くて、最後には儲かる
詐欺話の典型だ
いやその前に人のクソには虫がいて病気になるだろう
そう言いたい
言いたいが目の前の会話をただ見ているだけの子爵
伯爵と男爵の仲が良すぎてまったく話しに入れなかったんだよ
おかげで酒をチビチビ舐めながら、ただの空気と化していた
同じ寄り子なのにこの違い
一体、何がわるかったのか
微妙に判らん
「いやいやいや、収穫物の半分を持って行くとかありえないだろう」
伯爵様が抗議していたが見たことがないくらいフレンドリーだった
酒のせいか?
それとも男爵に気を許しているのか?
それとも両方が?
つい怨みがましく妬んでしまう
「いえいえいえ、最低でも倍、下手したら4倍くらいの豊作になるそうですよ」
これは男爵
言葉使いは丁寧だが口調は砕けている
いや空気と化して聞いている子爵でもオカシイと思うぞ?
収穫量が倍とか詐欺としか思えない
「実際に王都の近くの貴族の村をまるまる借りて試しにやってみたそうです」
そして商人達がその成果を確認済みだと説明している男爵
なんでもやせた土地で元が酷過ぎるので胡散臭い農法でも収穫量が上がるのだとか言っていた
村は王都の近くだから結構頻繁に確認ができる
それに王都に来る途中の村なので立ち寄る商人は多い
多くの目があるので不正はできない
それに植物はそう簡単に植え換えることができない
つまりは多くの証人がいると言う訳だ
「商人が証人です」
男爵のおやじギャグに
「クックックッ」
と笑う伯爵様
・・・今のどこに笑う要素があったのか問い詰めたい
いやしないけどな、伯爵様だから
「商人達は出入りの貴族領の村を数年単位の長期間で借り受け、くだんの商会にやらせるようです」
ですから早いうちに話を付けておかないと出遅れますよ、と男爵がそう言っていた
重要な情報を惜しげもなく伯爵様に教えていた
おまけに商会には紹介がないと商談ができないそうだ
それを聞いて笑う伯爵様
・・・伯爵様の笑いのツボがわからん
ついでに男爵の笑いのセンスも、だ
学生の頃の男爵はこんなおやじギャグをいうやつじゃなかった
いや歳をとったからなのか
暇すぎる宴会の最中に暇つぶしのためにそう思った
ただ判ったこともある
男爵は例の商会を子爵に紹介する気はないらしい
一度も
「よかったら伯爵様と一緒に一口乗ります?」
と言ってこなかったからな
明日から例の商会を探して奔走しろと言いたいわけだろう
そして多くの商会と競争して苦労しやががれ、ざまあみろ
そんなところだろうなと、子爵は酒に酔った頭でなんとなく思った




