67 閑話、とある貴族の団欒
薬草入りの旅人を手に入れた貴族のお話です
男爵様、儲けてます
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「お父様、ありがとうございます」
娘が満面の笑みを浮かべながらお礼を言ってきた
「あなた、ありがとう」
こちらは妻だ
同じように笑顔を向けられた
結構苦労して新作の『旅人』を手に入れた甲斐があった
妻娘が幸せだというのはいいものだ
父親まで幸せな気持ちになってくる
「喜んでくれて嬉しいよ」
そういうとさらにニコニコとしてきた
幸せというのは増えるものなんだな
実感した
妻と娘は一通り喜ぶと、扉のほうをチラチラと見始めた
どうやら一刻も早く『旅人』を使いたいらしい
「行っておいで」
そう水を向けると感謝の言葉とともに二人仲良く庭に面した喫煙室に向かって行った
『旅人』というのは結構匂いがつくものだ
天井や床、ソファーや絨毯に至るまで独特の匂いが染み込む
そして少々洗ったくらいではその匂いはとれない
いやかなり洗ってもとれないな
特に天井なんて洗えないから困ったことになる
だから専用の喫煙室を設けるのが貴族としての嗜みだ
他の家に訪ねて行った時に喫煙室があると遠慮なく『旅人』を吸えるのは嬉しいものだ
もっとも今回妻と娘のために入手した『薬草入りの旅人』は味がスカスカだがな
試しに使ってみると煙ではなくて空気を吸っているようなものだった
おまけにス~ッとする気の抜けた独特の清涼感が却って覚醒効果を減らす気がする
もっとも男にとっては、であって女子供ならばあれくらいがいいのかもしれないのかもしれん
あんなスカスカでも実際にダイエットの効果があるらしい
そうだよ、ダイエットだよ
今回の元凶
なんでも知り合いが『薬草入り旅人』でダイエットに成功したらしい
お茶会でその効果を見てきた妻娘
それからが大変だった
自分達で入手しようとしたけれど不発だった
上は公爵夫人から下は裕福な商人の妻まで幅広く争奪戦が始まっていたからだそうだ
そこで諦めてくれればよかった
だが女性の美に対する熱意は凄かった
そこで父親(夫)への懇願となる
以前から『旅人』を使っていたからなんとなならないか
もちろん何とかしたとも
愛する妻と娘の頼みだからな
あまりお金はかけずに、借りも作らずになんとかしてみた
過度に散財したり、苦労を背負うと妻と娘が気にするからな
隠していても何故だかウソがばれるから不思議だ
女の感は恐ろしいとはよく言ったものだ
・・・おかげで結婚してからというもの悪所通いもできやしない
コホン
要らんことを考えた
あぶないあぶない
今ココで扉が開いて妻が
「あなた何か悪い事考えていました」
とか言っても驚かないぞ
家庭の平和のためには黙っているのが一番だ
ついでに妻と娘に
「そんなに太っているようには見えない」
とか
「少しぽっちゃりの方がいい」
とかも禁句だ
いや考えるな、だな
『薬草入りの旅人』を手に入れてくれと頼まれた時につい言ってしまったからな
あのときは酷かった
「わたくしを豚にしたいのですの!?」
やら
「(娘が)結婚できなくてもよいのですか!」
やら
「あこがれのあの方に軽蔑されたら生きていられませんわ」
やら散々言われた
後で娘に思い人が居ることに気がついて夜中に布団から飛び起きたのは悲しい思い出だ
昔は「おとうさまとけっこんするの!」とか言っていたくれたのに、な
パパは悲しいよ
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こんな幸せな貴族家庭をぶっつぶそうとしている主人公
誰が被害者で加害者なのか判りませんね




