6 男爵令嬢の嘆き
「悪いが娘との件はなかったことにして貰いたい」
おじさまが真面目な顔でおっしゃいました
その途端、我が家の応接室の空気が凍りました
・・・予め予想していたことですが事実となると心が重くなりました
私のせいですわね
ごめんなさい、お兄様
私のせいで婚約者をなくしてしまいましたわね・・・
もしもよろしければ少し私の話を聞いて下さいますか
何か話していないと気がおかしくなりそうなので・・・
私はバーバラといいます
カーライル男爵家の長女です
御存じでしょうが男爵家の娘ともなると結婚相手を探すのに一苦労です
兄の場合、選んだ人が次期当主の本妻になれるので簡単に見つかりました
よりどりみどりの中から一番気立てが良くって美人を選んでましたね
チッ
話が決まった時、嫉妬で思わず人知れず舌打ちしましたわ
・・・少々言葉使いや態度が悪いのはお許しください
男爵なんて所詮そんな存在ですから
コホン
話を戻します
一方の私はというと、数ある中から選ばれる立場です
個人的な舞踏会に、お年頃の息子がいる夫人のお茶会へと渡り鳥のように次々に参加しておりました
舞踏会では目当ての殿方へ紹介して下さる人を探します
もちろん良い方がいればアピールして踊ったりもしますわ
笑顔で踊りつつ興味を持って貰うような会話をします
皆考えることは同じなので話題が他の人とかぶらないようにと気遣いが大変でした(涙)
踊って頂いた方にはまた会える約束を得ようと必死でしたわ
自領での狩猟~殿方が行い、婦女が離れた所で待っている~や、
姉妹がいらっしゃれば御呼ばれするように頼んだりとかですわね
本当にあの手この手を考えたり、実際にやったりで大変でした
その苦労といったら今思い出しても寝込みたくなるほどです(涙)
もちろん学園に入ったのも、婚約者探しがメインですわ
・・・勉強をする所だとわかっていますわよ?
でもそれが考えられないくらい切羽詰まっていたのですわ
ところが学園に入って親しくなった伯爵家令嬢は私とはまるっきり違っていましたわね
なんと伯爵家の令嬢であるにもかかわらず跡取り娘なのです!
正妻の弟、つまり自分の弟がいるにもかかわらず、です
なにそれ?
初めて聞いた時、思わず唖然としまいたわ
さらに婚約者までいたのです!
それがまさかの王子様!
ふざけてる?
なんかあぶない薬でも使ったのかしら?!
初めて聞いた時、またもや、あまりのことに耳を疑いましたわ!
まあ、あまりにも地味すぎて王子様に見向きもされてませんでしたが・・・(笑)
それを見て気分が良くなりましたわね
だからでしょうか
常に一緒にいるようにしました
伯爵家といっても所詮こんなもの
私よりも酷いじゃん!
自分よりも下の人間を見て安心する、というやつでしょうか?
ゲズですね
今なら判りますが、当時は判りませんでしたわ
・・・頭が壊れていたのでしょうか
学園いられるのは3年間です
昔ならばいざ知らず今ならば勉強をしなくても卒業できます
いわゆるお見合い学園ですわね(苦笑)
ですから学園生活のすべてを婚約者探しに費やしましたわ
ところがまさかの惨敗!
卒業まであと数カ月なのに相手が見つかりませんでしたわ!
一緒にいた他の二人も同様です
この国は貴族の人数が多すぎるのです(涙)
そこてつい伯爵家の令嬢に対してちょっとしたイタズラをしてしまいましたわ
ほんの小さな嫌がらせですわよ?
相手がちょっとでも傷ついた顔をすれば気が晴れる
そんな軽い気持ちで、です
嫉妬してしたからといってとんでもないですわね
おかげで大変なことになりましたわ(涙)
まずウチの家名が地に落ちましたわね
そしてお兄様の婚約者(の御当主)から婚約破棄が言い渡されましたわ
それが冒頭のセリフです
小さいころから優しかったおじ様は厳しい顔です
ウワサではウチの縁者とみなされて厳しい立場にいるんだとか・・・
ウチと同じように親戚中から総スカン
あと出入りの業者からも取引を当分ひかえさせてくれ、とのことだそうです
私だけが罰を受けるのならどんなことも甘んじて受けますわ
ですが、家族や家族同然だったおじ様まで被害にあっています
あまりのことに心が張り裂けそうです
いったい何時までこの苦難が続くのでしょうか・・・