41 騎士団長の後悔
前話の騎士団長目線です
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「あの女狐を成敗しましょう」
息子が私の部屋に押し掛けて言ってきた
私はどうやら子育てを間違えたようだ
元々、騎士団というのは政治とは一線を画してきた
盗賊や隣国からの侵攻に対して、貴族の好き嫌いで行動していたら国がボロボロになる
どこの貴族領地に対しても同じように軍事行動をする
それがポリシーである
もっとも政治にかかわらないというのは予算の面で冷遇されるということである
装備が壊れたら修理
修理に次ぐ修理で限界になっていても使う
日々の食事、演習場での昼食は味は二の次、量重視
遠征での三食はすべて携帯食
温かいモノは食べたことがない
たとえ近くに村や町があっても買えない
給料は普通
ただし文官と同じなので命がけの分、損している
そんな割が合わない仕事であるのにもかかわらず国を守るという誇りだけを拠り所に皆が頑張っている
たとえ、戦うことしか能がないと日々バカにされていようとも、である
もっとも、盗賊が出て、追えば隣の領地に逃げ込み、引けば手薄になったところから襲撃して根こそぎ盗むともなればこちらのものである
予算が不足しているので装備の準備に時間がかかるとか、干し肉等の食料の準備に時間がかかるとか、怪我をしていて治療に時間がかかるとかいろいろな理由でゴネる
すぐにでも動いて欲しいというのを逆手にとって、自腹を切らせる
予算を削ってくれた仕返しだ
くやしそうな顔をするならば最初っから騎士団に予算を割り当てればよいと思うのだが、そうはいかないらしい
目の前に金があれば、適当な言い訳をしてネコババしなければ気が済まないんだとか
そのせいで、後にネコババした分の金を分捕られた上に、悔しい思いをしなければならないのなら最初からしなければいいのでは?とも思うが、そんなことは頭にないらしい
人のことを脳筋だとか言っておきながらコレである
どちらの頭が悪いのか?
そう聞いてみたく思う
・・・ろくでもない結果しか出ないと思うので、聞かないが
しかし昨今の若者はそんな事情が許せないらしい
だから政治にすり寄ろうとする
我が子が王子にすり寄ったのもそのせいだ
・・・多分、である
我が息子を見る限りそんなことを考えていなさそうである
王子の口車にのってひと騒動起こしたところを見る限り、3秒後くらいしか考えてなさそうである
これを食べれば美味しい
女を見ればヤれば良い
そんな感じがする
今日も休みだというのに持ち帰った騎士団の書類を呼んでいると押し掛けてきた
おまけに貴族の間の噂をそのまま信じ、天誅を与えようとする
前回は間違えましたが、今回はうまくやりますよ
・・・その根拠はどこからくるのだ?
私が若い頃はよく「最近の若い者は・・・」とよく言われた
きちんと通りを通しているし、貴族の慣習を守っているにも関わらず、である
その時は不当だと感じていた
多分息子も理不尽だと思っていることだろう
しかし断言できる
私はここまで酷くはなかった
いや酷過ぎる
これが自分の息子だとは信じられない、いや信じたくない
取り繕っても仕方がないな
どうやら私は子育てを間違えたようだ
ここは腹を括って認めるしかないようだ