39 とある隠された伯爵令嬢の憂鬱
王子のスペアとして待機している令嬢の話です
王家に近い血筋なので王子様と似たような顔をしています
髪を切り、胸を締め付ければ王子の身代わりの出来上がり
普段は某伯爵の妾の令嬢ですが、もしも王子が死んだりしたら身代わりをさせられます
例えるなら影の公爵か、身代わりの一族ですね
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「じい、あやつらは何を考えておるのじゃ?」
思わず聞いたわらわは悪くない
ただでさえ(貴族派に対して)劣勢になっているのに、わざわざ勢力(国王派)を二分したのじゃ
それ相応の考えがあると思うのが普通じゃ
わらわはそこそこ賢いとは思うが、どう考えてもわざわざ劣勢になった理由がわからんのじゃ
かなり昔のことじゃが、亡くなった王の年若い息子と、おじの公爵が王座を争ったことがあったわい
お互いの派閥を含め、至る所で口汚く罵り合っていたそうじゃ
挙句の果てに流血沙汰が多数起こったとか
その時、両派閥の良識ある者達が袂を分かち、中立を宣言したそうじゃ
さすがに共倒れしたところに、他の王位継承者を持ち出されることが簡単に予想されるとなれば和解するしかない
王位は息子に、おじは摂政に、としぶしぶ権力を分割したそうじゃ
しかし今回は国王派からだけの分割じゃ
これでは道理が、いや過去の歴史が通じないわい
別れたふりをして実は裏でつながっている、と思ったのじゃが、明らかに断絶しておった
お互いに刺客を送りあって、貴族に死者は出ていないものの、重傷を受けた者がいる始末
ここまでやるか?とも思うが反対に、ここまでやるか!とも思う
一体何がやりたいのじゃ?
貴族なんてものは、他人を傷つけるのはかまわないが自分が傷つくのは許せない、じゃぞ?
あ、あと、他人の利益を言葉巧みに掠め取る、もぢゃな
それなのに同じ派閥内で骨肉の争いをしておるのじゃ
だから余計に判らんわい
・・・言っておくが、一応は中立派としての立場で両派閥のお茶会に出たりして調べたのじゃぞ?
過去にあった類似の事件についても書物で調べたりもしたわい
でもどうしても判らんのじゃ
これが経験が足りないということなのじゃろう
だから、お目付け役の『じい』に聞いたのじゃ
「御嬢様、まだまだですね、もう一度考えてみてください」
といつものセリフを言われるかと思ったのじゃ
「おそらくですが、何も考えていないと存じます」
しかし、じいからは意外な返事が返ってきたのじゃ
『最近の若者は』とは『じい』がよく使う言葉じゃが、わらわはここまで酷くはないぞい?
目の前のことに精いっぱいで余裕がないといえば聞こえがいいが、要は阿呆じゃ
しかしアレに何かあったら混乱をさけるため、わらわがアレの身代わりをするのか?
とてもではないがアレはどうやってもマネできんぞい?




