27 とある王子侍従のおとうさま
前話の侍従のお父様とその上役の話です
サラの報告書のせいでエライ騒ぎです
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「3男とはいえ自分の息子ならばきちんと管理しておきなさい」
上司であるミストハイド伯爵に呼び出されるなりそう叱られた
<バサッ>
お叱りの言葉とともに机の上にポンと投げ出される書類
<クイッ>
伯爵が顎をシャクった
どうやら中を読むようにとのことらしい
「失礼いたします」
頭を下げた後、書類を手に取り読みだした
そして驚いた
ちょっと前に男爵令嬢が失踪するという事件があった
数カ月もの間、行方が知れなかったという大事件
父親である男爵とその寄り親の子爵は懸命に探したが、まったく手がかりがなかった
そのためにいろいろな憶測が飛び交った
その事件についての報告書であった
私の三男の息子は王子付きの侍従をしている
その王子様の立場はかなり悪くなっている
サラとの婚約を無理矢理破棄したことが原因である
婚約を決めた王妃の顔を潰し
仲介した貴族の顔を潰し
国王派のメンツを潰し
敵対する貴族派を勢いづかせ
庶民くずれの男爵令嬢を婚約させるための格上げの養女の話を断わって提案貴族の顔を潰し
サラからの復讐で婚約破棄の協力者が悲惨な目にあわせ
さらに同じ国王派というだけで貴族に対して香水を売らないというサラからの報復をついでに受ける
これで王子様の地位が安泰なはずがない
そのあおりをくらって侍従も一蓮托生
いや、すべての責任を押し付けられる、ウチの息子はそう思ったようだ
それを回避するためにサラのことを調べたようだ
その一環として、サラが黒幕と思われている誘拐事件にまで調べた及んだ、というわけらしい
たしかに一時はサラの恨みを買っていることから、サラが黒幕ではないかとの説が有力であった
しかし、国王派の有力貴族が調べても何も出てこないという時点で容疑が薄くなった
サラがやるならば商国商人のツテを頼って無法者を雇うはずである
しかし、それならば裏社会とつながりがある上級貴族に何らかの情報が入る
ところが全く情報が無いということから、逆に容疑が晴れた
いや、そこから貴族派が疑われるようになった
・・・サラへの手みやげという説が有力である
早い話、サラが憎んでいる令嬢を、サラに代わって懲らしめることで関心を買う、というやつである
男爵令嬢が失踪した時点でサラが下町の酒場で嬉しそうに酒を飲んでいたという証言から有力視された
さらに男爵令嬢が属国の大通りに朝早く捨てられていたとのウワサが広まった後にも祝杯をあげていたとのことでさらに信憑性が上がった
見つかった令嬢は失踪当時に着ていた服のままであったが、ズタボロに切り裂かれていた
さらに顔から足の先まで ~つまり身体中~ 殴られた痣だらけ、
さらに身体を汚されたのを証明するかのように生臭い匂いが全身から漂っていた
それを肴に祝杯をあげたのだ
疑われない方がおかしい
トドメは貴族であることを示す家紋付きの指輪である
指輪さえなければ「おとしめるためのウワサだ!」と言える
所がなまじ指輪があったせいで誤魔化すことができなくなった
上は貴族のサロンから、下は下町の酒場でも酒のつまみになっていた
おかげで男爵家の名は地に落ちた
一介の平民落ちした貴族令嬢のできる範疇を超えている
それなのに嬉しそうに祝杯をあげたのである
当然、関心を得てさらなる香水を得ようとしていた、そして現に得ている貴族派が疑われる
しかし、国王派と対等に政争をしている貴族派には簡単には手をだせない
手を出したら逆に「証拠もなく言いがかりをつけられた」として反撃がくるのだから
ところが無謀にもどこかの子爵の三男が手を出したというわけである
あまりのことに報告書を持つ手が震えた
言いがかりをつけるための証拠とされてもおかしくないモノであるのだから
いや、そそのかされてどこかで「これが証拠だ!」と騒ぐことだろう
完全に棄てゴマ
我が家もただでは済まないであろう
「安心しろ」
震えている私に伯爵から声がかかる
報告書から顔を上げると伯爵が苦虫を噛みしめた顔をしていた
「私の手の者が気づいて、お前の息子に渡る前に抜いておいた」
そう言って報告書を顎でしゃくった
・・・どうやら首の皮1枚残してだが繋がったようである
「10代だから仕方がないが20過ぎてもこんなことをしているようでは将来は暗いぞ」
伯爵から言われた
私の息子は王子よりも7歳ほど年上である
それを知っていて、この言葉
貴族であり、その当主であるということの重みに潰されそうである




