230 月の雫(その2)~ソフィア=フロスト編~
「なぜわたくしがあの伯爵様に嫁がないといけないのですか?!」
令嬢の悲痛な叫びが執務室に響き渡る
しかし憎悪に満ちた問いかけを投げつけられても父親である子爵は少しも揺るぐことはなかった
「家と領民のためだ」
顔色を変えもせず令嬢には残酷とも言える言葉を繰り返し宣告する
「ああっ」
令嬢は父親からの無情な返答を聞いて床に崩れ落ちた
事の始まりは領地の不作であった
夏の冷害により収穫量が減少しても税の徴収は例年通り行われる
当然のことながら手元に残る金は少なかった
しかし出ていく金は節約しようとも0にはならない
結果として借金となる
これが1年だけならば問題がなかった
次の年から少しづつ借金を返していけばよいのだ
しかし次の年は逆に酷暑となった
あまりの暑さに麦は枯れ収穫は雀の涙ほどであった
そして収穫量減少にもかかわらず徴収される税
不幸なことが2年も続いたおかげで男爵家は困窮した
一度ついた弾みは人の力ではどうしようもなく貧乏に転げ落ちることとなった
さらに不幸なことはフロスト男爵家が王族派であったことでもある
最初の年の冷害は国中の貴族に等しく降り注いだものの貴族派と言われる貴族達の領地では多少の減少はあるものの十分な収穫が得られていた
ひとえに大地の歌商会が勧める有機肥料による地熱の向上が原因である
もっとも化学が発展していない時代のことなので誰も理由が判らない
判っているのはなぜだが『大地の歌商会が手を出している領地は豊作にある』それだけ
だが人々にはそれで十分であった
雪崩をうって大地の歌商会とのコネを求めることとなった
・・・王族派の貴族を除いては、である
なぜだか大地の歌商会は王族を目の敵にしていた
言動は丁重である
だが貴族派に重きを置き、王族派を軽く扱った
どんなに頭を下げても諾とは言わなかった
まあ貴族派の後ろ盾があるのだ
貴族であっても王族派を拒絶するのは難しくなかった
それゆえフロスト男爵家は大きすぎる借金を返す当てもなく途方に暮れていた
四方八方に手を尽くしたが良い手立てはなかったのだがある日、某伯爵家より後妻として招き入れたいとの話が舞い込んできた
もちろん某伯爵家とは貴族派である
大地の歌商会により豊作続きで金だけはある新興の貴族家
貴族の格式だとか伝統など言ったものに全く重きを置かないどころかすべてが金で買えるといった昨今の風潮にドップリ染まっていた
それゆえ若くてそこそこ綺麗なフロスト家の令嬢を金で買おうとしていた
ぶっちゃけ
「借金の一部を肩代わりするから令嬢を差し出せ」
ということである
男爵家の当主としてはこれ以外に選択肢はない
それゆえ心を鬼にして令嬢を差し出すしかなかった
・・・令嬢だけが不幸になればそれ以外の人間がすべて幸せになるという悪魔のような究極の選択
一体だれが考えたことだろう
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もちろん裏で糸を引いているのは主人公のサラです
悪魔のように頭が切れますね
令嬢は過去に一体何をしたんだか(汗)




