168 ウオリック兄弟(その22)~とある商人の偽善~
予約投稿するのを忘れていました
すみません(汗)
ウオリック兄弟の兄のヒューイット目線です
----------------------------------------------------------
「お願いだ!助けてほしい!」
孤児院の院長から呼び出されたら顔見知りの商人さんが泣き付いてきた
小太りの中年のおじさんに抱きつかれても全然嬉しくないと言いたい
・・・「おばさんならいいのか?」といったツッコミはいらないからな
おばさんならもう間に合っていると言いたい
商人さんの商売は周辺の村からの農作物や桶なんかの日用品を安く買って高く売るというまっとうな仕事だ
でも意外に後ろ暗いこともなんとなく知っている
だって行商をすると盗賊とか強盗とかに出会うのは必須だ
それなのにこの歳まで大けがを負わずに商売しているんだ
「危険を回避するのが商人としての腕の見せ所」とか言っているけど絶対に後ろ暗いことがあるはずだと子供の頃から確信している
詳しく聞こうとすると笑顔なのに目が笑っていないからな
まあそんな後ろ暗いことがあったとしても
「仕入れた食糧がそろそろヤバいから」
とか言って昔から孤児院に干し肉だとか漬物だとかを持ってきてくれる
しない偽善よりする偽善
多少後ろ暗くても食べられればいいんだよ
だから言わないでおいた
そんな同じ鍋のシチューを食べた仲の商人さんが困って泣き付いてきた
お貴族様が貸した金を返してくれない
そういうこと
早い話、
「商売が繁盛しているようだな?ちょと金貸せや!(意訳)」
と言って無理やり金を借りて行ったそうだ
貸すまで帰らん、と居座ったんだとか
・・・貴族ってクズばかりだよな
そんな訳で泣く泣く貸したんだが全然返してくれないそうだ
必死に頼み込んで借用書を書いてもらったのだが
「借用書なんて知らん!」
と権力をタテに拒否されたとか
他に貴族の知り合いはいない
いやいるけどみんな借用書仲間
当てにはならなかった
そんな訳で一縷の望みを持ってオレ達兄弟に縋ってきたんだとか
・・・貴族夫人の玩具のオレ達なんて水に浮いた藁屑みたいなもんなのにな
まあそれだけ切羽詰まっていたと言う訳だ
とりあえず昔何度かご飯を恵んでもらった恩がある
あと
「食い物を差し入れするくらいなら13歳になって孤児院を卒業する兄貴に仕事をまわせや」
と心の中で罵った罪滅ぼしもある
実際に人を雇うってのは大変なんだよ
そんなことも知らない子供がよく言ったものだ
思い出すだけで羞恥で死ねそうだ
いやね某男爵家のことなんだけどさ
碌に働かないメイドとか下男とかゴロゴロしていたんだよ
よく潰れないなと思っていたらある日潰れていた
正確には潰れたんだけど貴族は立派なので潰しちゃダメと言う不文律のためギリギリ残っている
そこで思ったね
金は大事だ、って
子供一人を雇うためにどれだけ物を売れば良いのかってことだ
おまけにその子供は素人なので戦力にならない
そりゃ雇うなんてできないわな
それなのに内心で
「雇えや、この商人」
とか結構言っていたオレ
もしも口に出していたら本当に羞恥で死ねたかもしれん
よく言わなかったものだと過去の自分を褒めたい




