144 大地の歌商会のお仕事(その7)
大地の歌商会に潜伏しているスパイのリカルド目線です
冷血様は今日も元気です
---------------------------------------------------------
「で、どこの手下?
マクフィアンナ?
その上の副騎士団長?
まさか国王だったりしないよね?」
オーティスが楽しそうに言っていた
雰囲気は完全に友達通しの気楽な会話だ
だが実際は犯罪者と尋問者
見ている方の頭がおかしくなりそうだ
リカルドは思った
天性の加害者
それが冷血と呼ばれているオーティスを見た人間の素直な感想だ
そして今日も楽しそうに尋問していた
・・・友達を辞めようかな、と思うのも当然であった
いや友達ではなく同じ職場の同僚なんだがな
リカルドは内心、自分で自分に突っ込んでいた
話を少し戻す
大地の歌商会がスワンプラット男爵領で仕事をすることになった
仕事の内容は農作物の栽培率向上である
拠点となる村に家を建て商会員が住み込みで働く
ここまでは順調であった
いや仕事自体は順調であった
なにせ前年度に王都近くの村で試して実績を上げて効果を確認済みなのだ
失敗する理由が無かった
まあそこまでは良い
問題はそれ以外である
大地の歌商会が動けばその土地での豊作が約束されているのだ
誰よりも貪欲な貴族の興味を引かない訳が無い
今年はどこの領地で新しく働くか?、ということで熾烈な戦いがあった(らしい)
勝ったのはスワンプラット男爵であった
正確にはその貴族派の派閥が、である
当然負けた方の国王派が黙っている訳がなかった
貴族というのは誰よりも損をするのを嫌うのだ
相手が得して自分が損をするというのにガマンができないというのが貴族であると言って良い
当然、スワンプラット男爵領への干渉が始まった
正確には『クソを肥料にする方法』の奪取である
時には大地の歌商会の人間に賄賂を渡そうとし
時には商会員を拉致しようとし
時にはクソを溜めている穴に近寄って肥料と化したクソを盗もうとし
時には全てを記録した書類をするといったようになり振り構っていなかった
当然のことながら工作員は捕まることになる
なにせ商会員は全員、元スラムの人間だ
おかげ?で工作員は最初っから見下してくる
最初から正体が丸判りであった
食料だとか木材だとかを運んでくる他の商会の人間は商売のためなら元スラムの人間でも平気で頭を下げるのだ
スパイだと判らないはずがなかった
・・・バカすぎね?、というのが商会員の本音である
ここまでバカだとかえって清々しい
元スラムの人間に言われては立つ瀬がないのである
当然のことながら工作員はスワンプラット男爵(の部下)に引き渡すことになる
その窓口となったのがオーティスだった
以前襲撃犯を捕まえた時はスワンプラット男爵の騎士団に引き渡していた
ところが今回からネイトになった
実は学院時代のオレの同級生だ
元は平民なんだが、魔法の才能があったため某貴族家に引き取られた
まあ魔法が使えると言う時点でどこかのバカ貴族のボンボンが平民の女に手を出して生まれた子であるのは明白だ
もっとも父親は名乗り出なかったようだがな
・・・貴族は本当にクズだよな
まあそんな訳でオーティスは血縁で無いため貴族家の力は当てにならない
実力でのし上がるしかなかったという訳だ
ちょっと昔、オーティスが飼い殺し状態になっていたところに国境で騒動があった
隣国からの侵攻である
そこに貴族が派遣されるのは当然である
魔法というのは戦争で使われてナンボのものだからである
まあ大貴族は後ろ手ふんぞり返っているだけだ
あと貴族の当主と跡継ぎも、である
前線で戦うのは男爵や子爵家の貴族ばかりである
最前線ともなればそれらの庶子ばかり
早い話、使い捨ての駒とも言える
高貴な血が流れているならば義務を果たせ
下賤な身でありながら貢献できる幸運に感謝しろ
平気で言われて使い捨てられるのが貴族庶子である
そこでひときわ働いて名をあげたのがオーティスである
冷血
との二つ名が付く程の働きであった
まあまさか大地の歌商会で再会するとは思ってもみなかったがな
リカルドは楽しそうに尋問するオーティスを見て思った
・・・楽しみのために尋問拷問をしているオーティスに給料を支払うのは間違っているんじゃね?
とリカルドが思ったのは秘密である
人間、真実を言うのが正しいとはかぎらないのである




