117 スワンプラット男爵の苦労(その2)
大地の歌商会の会長のサード目線です
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「さっさと渡せっ!」
そう言ってテーブルを蹴る御貴族様
実に懐かしい光景だ
数年前のオレを見ているようで懐かしかった
みなさまお久しぶりです
大地の歌商会の会長のサードです
現在、御貴族様の会談に引っ張りだされているのでいつもより上品に話しています
・・・疲れるからもうやめていいよな
いやね、いつも通り村の畑にクソを撒いていたんだよ
もはやこちらの方が本職と言っても過言ではなくなってきたような気がする
街で恐喝や盗みをしていた頃が懐かしい
・・・本当に懐かしい
今では失敗したら魔女に殺される日々だからな
命の危険がないというだけで幸せだと思う
人間、失ってから本当のありがたさが判るというものだ
ほんの数年前のことなのは今でも驚きだ
あの時アマン商会に手を出さなければ、と後悔している
もうすでに遅いがな
・・・本当の遅いのだから笑えない
まあグチはさておいて
クソを育てて畑に撒いていたら男爵様からお呼びがかかった
「ちょっと顔貸せや(意訳)」
・・・人生って理不尽だ
もちろん従った
貴族には「はい」の返事しか許されないからな
そんなわけで男爵様の館に行ったら見知らぬ御貴族様がいた
それが机を蹴るのが趣味のバード=マクフィアンナ殿だ
・・・御貴族様の趣味は本当に変わっているな
しかし、バード殿はなんでわざわざ大地の歌商会に食いついてくるのかね
ミエミエのエサなのが丸判りだろうに
ちょっと前に大地の歌商会は騎士団長派の貴族からの依頼を断った(らしい)
騎士団長家は魔女の敵だから知らないうちに魔女が断っていた(らしい)
後になって言うなと言いたい
いや言えないけどさ
当然騎士団長は激怒したらしい
思い通りに行かないと怒るのは貴族の習性なのかもしれん
だが関係のない大地の歌商会を撒きこむな、と言いたい
・・・もちろん言えない(以下同文)
そんな怒っている団長殿の耳に大地の歌商会がテクテク歩いて某男爵領へ移動したと吹き込んだヤツがいたらしい
いやヤツではないはずだ
魔女だからな
まあ実際に団長殿に吹き込んだのは手先の男だろうからヤツであっているのかもしれん
御貴族様を嵌めるためにわざわざこんな遠い所まで歩いているオレ達もオレ達だが引っかかる方もどうにかしていると言いたい
少し考えれば判るだろ?
馬車も使わずノロノロと歩いて村があるたびに泊まっているんだ
少しはオカシイって思えと言いたい
いや、こんなミエミエの手にひっかかるなと言いたい
・・・騎士というのはホントに脳筋だな
まあ実際にひっかかったのは団長殿ではなく手下の御貴族様だ
団長殿が動くはずはない
偉い人間は自分で手を汚さないからな
なんでも手下まかせ
・・・どこでも下は苦労するな
ああ、そういえばスワンプラット男爵様使用人が言っていたっけ
バード殿は母親が平民の庶子だ、と
・・・トイレに行く時に立ち話を聞いたんだよ
そりゃ無理だわな
息をするように人を陥れるのが貴族と言うものだ
平民風情が逆立ちしたってできないだろう
当然元スラムで現平民のオレだってできないぞ?
陥れるレベルが違うんだよ
平民はせいぜい殴るか、物を売らないように手を回すのが関の山
だが貴族はもっとエグイ
え?
どんなだ?
言えないよ!
バレたら何されるか判らんからな!




