1話 僕の就職先、決まりました⑥
前回の続きです。
「最後の質問ですが、僕のここでの仕事内容についてお願いします」
僕の思うところ多分雑用かなにかだろう。魔女というか魔法関係の知識は僕には全く無いのだから、そうなって当然だ。
「では、アデル様のお仕事についてご説明しますね。アデル様には、お嬢様とお友達になっていただきたいのです」
「……は?」
僕があの子と友達?いやいやいやいや。初対面最悪だったし絶対嫌われてるでしょ……。それに 友達になるのが仕事って一体なんだ?意味がわからない。
「ええとですね。張り紙にも書いてある通り魔女の……お嬢様のお手伝いをしていただきたいのですよ。」
「お手伝いって言うのは、身の回りの掃除とか洗濯とかですか?」
「いえ、それは私が致しますので大丈夫です。ですからアデル様はお嬢様とお友達に……」
「ええと、すみません。それで、なんで僕の仕事が友達になることなんですか?」
アストリアさんは表情を暗くし、低い声でその理由を話した。
「実は、お嬢様はこの屋敷に籠りがちで、外で人と関わることをしないのです。それが原因か、お嬢様の魔女の修行が停滞しているんですよ。お嬢様の祖母であり師でもあるケイト様からは『人と関わることで前進する』と助言をいただきました。お嬢様にもお伝えしたのですが一向にここから出たがらず……ですから、アデル様にはお嬢様のお友達になっていただきたいのです」
人見知りなのかな?いやでも随分話せてたような。それともそれに祖母のケイトさんか、覚えておこう。理由は分かった、それなら僕は……
「なるほど。ですが、その仕事を引き受ける事はできません」
「え!?どうしてですか?」
「友達って人からなれって言われてなるんじゃなくて、なろうとか、気づいたらなっていた。そいうものだと思うからです」
アストリアさんは酷く悲しげに顔を伏せた。
「そう、ですね。すみません……」
僕は静かに息を吐き、言葉を繋ぐ。
「ですが、もし僕に他の仕事を与えてくださるのなら、お嬢様さんと友達に……なれるかはわかりませんが仲良くなれるように誠心誠意頑張りたいと思います。仕事とかそういうのでは無く、僕自身の気持ちで、です」
それを聞いたアストリアさんは、先程の暗い顔が嘘のように晴れ目尻に涙を浮かべ太陽のように喜んだ。
「本当ですか!!ありがとうございます!そうですよね、お友達は言われてなるものじゃありませんね。失言でした申し訳ありません」
「大丈夫ですよ。それで改めて僕の仕事は?」
「はい!お嬢様のお手伝いをお願いします!」
僕は座っていたソファーから器用にずり落ちた。
「いやそれだとさっきと全然全く変わってないというか……もうちょっと具体的に違うものをお願いします」
「すみません!ええと、アデル様には私の仕事を多少手伝ってもらおうかと思います。具体的には、お嬢様のおてつ……」
「だから変わってないじゃないですか!」
流石につっ込む。もしかしたらアストリアさんは天然なのかもしれない。
「んー……はっ!まあ、そこは是非仲良くなって聞いてみてください!」
アストリアさんはドヤ顔ウインクでそう言った。かわいい。
「え、あ……はい」
仕事は本人から仲良くなって聞けと、なるほどそういう事か。
なんか上手く丸め込まれた気がするなあ。
結果として最初と仕事内容が全く変わっていない。アストリアさん、天然なのか策士なのか。
とにかく自分で言ってしまったものは仕方ない、有言実行だ。
「では、アデル様。これからよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ですがやっぱり、アストリアさんの手伝いもしたいので是非声をかけてくださいね」
アストリアさんは一瞬、薔薇のように美しい赤い瞳を大きく開らいて驚いた顔をすると、はにかみながら嬉しそうにこう応えた。
「はい!ありがとうございます。お優しいですね、アデル様は」
こんなの初めてだ。でも、嬉しい。
先の不安はあるが、これで僕は無事に就職することができた。
せめてクビにならないよう頑張ろう。……友達に、なれるのかな……?いや、なるんだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
とても恥ずかしいですが、これからもどんどん上げていけたらと思います。
色々勉強したいので指摘(文構成、表現、使い方……)などあったら是非ともお願いします!
水無月 涼