1話 僕の就職先、決まりました⑤
前回の続きです。
そんな少女を横目で見ながら僕も改めて食事にありつく。
朝にしては豪勢な食事だった。
アストリアさんは食べ終えた食器を片付けている。
僕も手伝おうとしたが、大丈夫ですと断られてしまった。
前席にいた少女は食事を食べ終えた後、早々に食堂を出ていってしまった。
まだ名前も聞いていないのに。
アストリアさんが食堂の扉の向こう、調理場と思われる一室に食器を片付け終わったところで、 僕は話を切り出した。
「えーと、アストリアさん。話をしても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。ですがここは食堂ですので、応接間に行きましょう。こちらです」
断る理由もないのでついて行くと、小さな応接間へと通された。
窓から光が差し込み部屋を薄く照らしている。
アストリアさんが軽く手を叩くと、ボッと天井のシャンデリアのろうに火が灯る。
テーブルを間に挟み、向かい合うソファーにお互い席に腰掛ける。
「お茶です」
「あっ、ありがとうございます」
「それではお話を始めましょう、アデル様」
「はい。ではまずここが魔女の屋敷、もといこの貼り紙に書いてある魔女の修行場であっているんですか?」
僕は街から持ってきた貼り紙をポケットから取り出し、見せる。
「はい。ここはお嬢様の魔女修行の屋敷です」
「この絵と全然違う気がするのですが……」
「そうですか?そっくりに描いたつもりなのですが」
アストリアさんは可憐な容姿で可愛らしく首を傾げる。
「……アストリアさんが描いたんですか?」
「はい!頑張りました」
なんで写真にしなかったんですか……
「…………なるほど、わかりました。次に僕がここに来ることが分かっていた、ということについては……」
「それは、私がその貼り紙に魔法をかけたからですね」
「魔法って、アストリアさんも魔女なんですか?」
「いえ、私は代々ここに使えている悪魔ですので魔女様ではありませんね」
なるほど、悪魔か。ん……?あくま……
「悪魔!?」
当然のことように、『自分は悪魔だ』というので少々理解が遅れてしまった。
「は、はい。それがどうかしましたか?」
「いえ、ただ人間以外の種族と会うのが初めてでして……」
「そうだったのですか。……あの、悪魔は、お嫌いですか?」
アストリアさんは、眉を寄せ上目遣いで聞いてきた。
僕の聞いた噂では、都会の方では多種多様の種族が人間とともに生活している、というものだ。
獣人、エルフ、妖精、悪魔……僕はまだ亜人に出会ったことが無い。
だからアストリアさんに出会えたことは
「いえ、全然!むしろ出会えて光栄です!僕他種族に会ったのが初めてで、緊張してしまいました」
「本当ですか!よかった、光栄だなんて、とっても嬉しいです。ありがとうございます、アデル様」
アストリアさんは胸の前で手を合わせ、安心したかのようにぱぁっと明るい笑顔を見せた。
「いえ、そんな……。でも悪魔ってもう少し特徴があるものかと思ってました。よく神話に書かれてるような、赤や黒の皮膚で爪と牙が鋭かったりとかそんな感じのを」
「あ、実はそんな感じですよ。私は白い肌で尻尾とか角とかありますよ。ですがあの姿だとこの世界では生活しにくいので私は変えてます」
「そうなんですか。ちょっと見てみたい気もしますね……」
若干の期待を込めて言ってみた。見てみたい。
「……ダ、ダメです」
残念。
「その、恥ずかしいのです。ここ数百年この姿なので……あと、とても醜いので……」
アストリアさんの声のトーンが小さくなって行く。
人には人のコンプレックスがあるように、もちろん悪魔にだってそれはある。
無粋な発言だった。
「アストリアさん、すみませんでした。そんな事とは知らず……」
「お気になさらないでください、大丈夫ですから」
聞き流したけど数百年って……やっぱりすごい長命なんだな、悪魔って。
「……本当にすみません。では、気を改めて次の質問を……」
僕はこのあと立て続けに三つの質問をした。
一つは仕事の合否についてだ。
知らぬ間に目的地に着いて、何もしないで合格というのはやっぱりおかしい。
何か裏があるのかと思い聞いてみた。
これもまたアストリアさんが掛けたあの張り紙に理由があった。
なんでも、魔法でこの仕事に適性がある人にしか張り紙が目に入らないようになっているそうだ。
しかも適性条件を厳しくしすぎたせいで、張り出してから今日までの丸二年、適性者が現れな かったそうな。「だから、即採用なんです」と指を立てながらアストリアさんが少しばかり興奮気味で言ってきた。
どんな条件かはわからないが、かなり嬉しかった。今までそんな事を言われたことがなかったからとびきりだ。
二つめはここの支配人と使用人についてだ。
屋敷を歩いている時に、アストリアさんと少女以外に出会わなかった。
食堂でも一切の人気も感じなかった。
僕はまさかと思い尋ねてみると、もともとウインザー家はごく一般的な魔女家系なので、貴族のように多数の使用人を雇う必要はないという事らしい。だからここには少女とアストリアさんだけらしい。
こんなに広い屋敷で二人暮らしとは全く想像できなかった。掃除とかどうしているんだろう。
それと食堂の写真に写っていた少女の両親と祖母らしき人がこの屋敷の主かと思ったが、違ったようだ。
どうやら彼らは、ある国で魔法道具屋を営みながら暮らしているらしい。
娘の修行場に屋敷一件使えちゃうなんて、何が一般的な魔女家系だ。すごすぎるよ。
屋敷の成り立ちはまた今度聞こう。
そして三つ目は――――
ここまで読んでくださりありがとうございます!
とても恥ずかしいですが、これからもどんどん上げていけたらと思います。
色々勉強したいので指摘(文構成、表現、使い方……)などあったら是非ともお願いします!
水無月 涼