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魔女見習いの助手、始めました  作者: 水無月 涼
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1話 僕の就職先、決まりました④

前回の続きです

食堂はとても広々とした場所だった。

中央に置かれた大きく長いテーブルにお洒落な椅子がたくさん並べられている。

テーブルには燭台がいくつか置かれている。火はついていない。

僕は適当な椅子に腰掛け、脱衣場でのことを振り返る。


「アストリアさんが“お嬢様”って呼んでたってことは、やっぱり十中八九このお屋敷の子だ……」


僕は不覚にも脱衣場で、このお屋敷のお嬢様の下着姿を見てしまった。

こんなにも立派な豪邸に住んでるってことは相当の富豪のはずである。

そんな富豪の娘さんの裸をこんな低民に見られたとなったらどうなるか。

脱衣場では冷静になれなかったが今ならわかる。結論はこうだ。


「首が、飛ぶ!」


よし、きちんと事情を説明して理由を聴いてもらおう。

いざとなったら土下座もしよう。何でもしよう。死にたくない!

それにしても、屋敷内がやけに静かだ。

柱時計の振り子の音が静まり返った食堂によく響く。

全く人気を感じられない。食堂に来るまでアストリアさん以外の使用人にすら出会っていない。


「妙だな。屋敷が広いからかな?……ん? あれは」


暖炉の上に可愛く飾り付けされた小さな写真立てが目に入った。

近寄って中の写真を見ると、そこには堅い顔を男と朗らかな顔の女が並んでおり、女に抱かれた黒髪の赤ん坊。恐らく夫婦とその子供だ。

そして男に似た怖そうな顔の老婆とその後ろにメイド服を着たアストリアさんが写っていた。

この屋敷の前で撮られたものなのだろう。背後に屋敷が写っている。


「家族写真か。この子はあの女の子かな?かわいい。……ん?」


奇妙な点が一つ。十年程前と思われる写真だが、アストリアさんの容姿が全く変わっていない。

女性だからか? 容姿のために手入れを欠かさないのが女性である。だが多少の変化は……。

などと、勝手に写真を拝借していたら、不意に声がかけられた。


「それは今から十一年前にここで撮ったものなんです。懐かしいですね」


いつの間に部屋に入ったのだろう、既にテーブルには美味しそうな料理が並べられている。


「わっ!アストリアさん。すみません勝手に見てしまって。十一年前……じゃあ、ここに写っているこの子は」


「はい、先程アデル様とお会いになった、お嬢様でございます」


「じゃあ後ろにいるのはアストリアさんですか?全然変わっていませんね」


「ふふっそれはそうですよ、十年くらいでは容姿は変わらないですからね。それよりまずはお食事を召し上がってください」


「……?わかりました」


十年は結構変わると思うけどなあ。アストリアさんはすごい手入れのテクニックを持っているのか?と考えながら僕は素直に食事の席に着く。


「では、少々お待ちください。お嬢様を連れてきますので」


「えっ」


そう言ってアストリアさんが部屋から出て行ってしまった。

アストリアさんは五分ほどで戻ってきた。傍らには、すごい嫌そうな顔の女の子がいる。


「お待たせしました!さ、お嬢様。お座り下さい」


僕の正面に少女が腰を下ろす。

今はヒラヒラした小さな黒いドレスを着ている。

とてもかわいらしい、が。


「…………」


眉間に眉を寄せ背筋が凍りつくような目で僕を睨んでくる。すごく怖い。


「あの、先程は、その、申し訳ありません。まさか人がいるとは思わなくて……」


僕の声がか細くなる。情けない。


「別に、気にしてないから……」


そっぽを向き、視線だけこちらに戻して、また睨みつける。

いや、絶対気にしてるでしょ!とは言えない。

このままでは許してもらえずに不埒な罪で、首が飛んでしまうかもしれない。

それはいけない。ならば、僕の誠意を見せようじゃないか。

僕は椅子から立ち上がり少女の側に行く。


「…………?」


「アデル様……?」


困惑した顔でこちらを見ている女の子とアストリアさんの前で、僕は、全身全霊を持って土下座を敢行した。


「本当にすみませんでした!!」


「ふぇ……?」


頭上から不意にもかわいらしい声が聞こえた。

僕は気にせず、みっともなく許しを乞う。


「僕に出来ることであれば何でもしますので、どうか殺さないでください」


少し経って言葉が返ってくる。


「殺し、なんかしない。それに……本当に大丈夫だから。そこまでしなくてもいい」


「アデル様、あれは事故ですから仕方ありませんよ! むしろ私の不手際から起こったことですし……」


「そんな事は……ありがとうございます」


どうやら許してもらえたようだ。これで少なくとも首は飛ばない、はず。

僕が席に戻るとアストリアが、「では」と不穏な空気を切り替え。


「ゆっくりとお食事をお召し上がりください」


柱時計は午前九時を指していた。遅めの朝食である。

それぞれで食事の挨拶を交わす。

昨日夜から何も食べてなかったのでつい早食い気味になってしまう。


「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ」


指摘されてしまった。落ち着こう。


「そういえばアストリアさん。ここのことについて聞いてもいいんですよね?」


「はい。もちろんです」


食事の時と言われていたので、今がその時だ。

だから僕は、ずっと気になっていたことを聞く。


「それでは。まず、ここはどこなんですか?見たところ貴族のお屋敷のような感じですが」


僕は元々仕事の面接に向かっている途中だった。

しかし不幸にも森に迷ってしまった。なぜ森に入ってしまったのかはわからないが。

だから助けていただいたこの屋敷の支配人にしっかりとお礼を言い、いち早く目的地へ向かいたい。

そしていつか恩を返す為にも、ここの事を聞いておかなければならない。


「あれ?あ、そういえば伝え忘れていましたね」


首をかしげたアストリアさんが一拍置いて、こう告げる。


「ここは、ウインザー家、貴族の屋敷では無く魔女の屋敷です。もとい、今はお嬢様の修行の場として使っております。アデル様、ようこそおいでくださいました」


アストリアさんは、整ったお辞儀と歓迎の言葉を口にする。


「……えええっ!?こ、ここが魔女の屋敷……修行場!?」


「アデル様が街からいらすのは知っておりました」


「ええ!?」


「あっ、あとアデル様。お仕事ですが採用させていただきます。これからよろしくお願い致しますね」


「ええ!?」


突然の展開に思考が追いつかない。

ええと、整理しよう。ここが当初、目指していた目的地であり、アストリアさんは僕のことと、僕が来ることを事前に知っていてこの屋敷に招き入れ、そして僕は面接をせずに仕事に採用されたと。


「ええ!?」


「さっきからうるさい!」


食事を取っていた女の子に怒鳴られてしまった。


「す、すみません!」


「うふふ、まあ戸惑ってしまいますよね。私がもう少し早くお迎えに行けたら、スムーズでしたのですが」


「いえいえそんな……ええと、すみません。聞きたいことが山ほどあって、どれから聞いたらいいものか……」


「ゆっくりで構いませんよ。お食事をお召し上がってからでも大丈夫ですので」


お言葉に甘えて僕は引き続き食事に手を伸ばし、最低限必要な事を聞けるように、頭の中を整理する。

僕を一喝した女の子は、こちらに見向きもせず黙々と食事に専念していた。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

とても恥ずかしいですが、これからもどんどん上げていけたらと思います。

色々勉強したいので指摘(文構成、表現、使い方……)などあったら是非ともお願いします!


水無月(みなづき) (りょう)



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