1話 僕の就職先、決まりました③
前回の続きです
アストリアさんに促され、廊下を進む。
部屋と同様、廊下にも立派な装飾が施されていた。床は全面赤茶色の絨毯、窓も普通の家の倍くらいの大きさだ。
しかし先程の部屋と同様、何やら不思議な感じがする。
屋敷を拝観しながらアストリアさんの後を歩いていると、壁に掛けてあった肖像画と目が合った。完全に目が合った。
僕は勇気を出してアストリアさんにこの屋敷の事を聞いてみることにした。
「アストリアさん、いくつか話をお聞きしたいのですが」
「はい、もちろんです。ですがそれは少々長くなりますので、お食事の時にでもよろしいでしょうか?」
「え?あ、わかりました」
なぜもちろんなのかはわからないが、まあ、やっぱり何かあるのだろう。僕は素直に食事の時間まで待つことにした。
しばらく歩くと浴場に着いた。途中、食事をする部屋を教えてもらった。ここまで来て思ったがこの屋敷、広すぎる。油断すると迷ってしまいそうだ。
「お着替えはそこの物をお使い下さい。脱いだお洋服はそこの籠へお願いします。洗っておきますので。何か質問はございますでしょうか」
「いえ、大丈夫です」
「私はお食事の準備をしていますので、何かありましたらこちらのベルをお鳴らし下さい。すぐに駆けつけますので。それでは、ごゆっくり」
黒いベルを渡された。こんなもので呼べるのだろうか。
まあそんな事より、お言葉に甘えて、ゆっくり入らせてもらおうかな。
埃まみれの脱いだ服をきちんと籠に入れ浴室の戸をあける。
そこには、僕が昔、行ったことのある旅館よりも大きな大浴場があった。
床は大理石のタイルが敷かれ、壁からは翠色の薔薇が生えている。なんともお洒落。
「うわぁ、すごいな……」
思わず声が出てしまう。
お屋敷というのは僕が思ってるよりもスケールが大きいみたいだ。
シャワーで汚れをしっかりと落としてから、ゆっくりと湯に浸かる。とても暖かく、心が安らぐ。
「ああ、気持ちいい」
すると突然、身体の至る所についた傷が淡い緑色に光りだした。そして、みるみるうちに傷が癒えていく。
「うわあああ!? なんだこれ……傷が……!!」
光が収まると、僕の身体についた傷は完全に全て塞がっていた。
気がつくと湯船には壁に生えていた薔薇の花びらが浮いている。壁には一輪の薔薇も残っていなかった。
もしかしたらあの薔薇に、傷を癒す効果があったのかもしれない。ここは驚くとこばかりだ。
ゆっくりしっかり独り大浴場を満喫し、脱衣場へ戻ろうと戸を開けた。
「ふぅー、さっぱりし……た」
脱衣場には下着姿の女の子が 、きょとんとした顔で僕を見ていた。
ツヤのある黒髪を膝下まで垂らし、前髪も山吹色の瞳にかかる程長い。
寝起きなのか目が少し赤く、所々髪の毛が跳ねている。
身体付きからして十くらいだろうか。
容姿も成長途中の幼さがあり、とても可愛らしい。
無意識にじっくりと見つめていると、頬を赤くし、殺気を放った鋭い視線で僕を睨みつける。
そして若干涙目になりながらも、脱衣場にあった洗濯籠を僕の顔めがけて投げつけてきた。
「見ないでっ……!!」
「うわぁっ!!」
洗濯籠をもろに食らった僕は、痛みを堪えながら慌てて手に持ったタオルで下の物を隠し、急いで浴室に戻った。
「あなた、誰……!?」
きみ、誰……!?とわ言えない。
扉は開けたままなので声は聞こえる。
怯えているのか、女の子の声が震えている。
「その僕はーー」
恐らくだが、この屋敷の子だと思う。
事情を説明しようと口を開くが。
「しゃ、喋らないで!」
発言を禁止されてしまった。
まあ、浴室から知らない男が出てきたらそりゃあ怖いよね。
「あ、このベル……」
どうやらアストリアさんから貰ったベルを見つけたらしい。
そして、程なく脱衣場からリンリンとベルの透き通るように綺麗な音色が響いた。
その数秒後。
「アデル様どうかしまし……あれ?お嬢様?どうしてここに?まだお休みになっているものかと」
脱衣場の方から、アストリアさんの声が聞こえた。
「リア!お風呂に、そこに知らない人がいるの……!!」
「あー、お嬢様?一旦落ち着いてください。あの方はお客様です」
「え、お客?……なんでお風呂にいるの?」
「それはまあ、色々とありまして……とにかくお嬢様、一旦ここを出ましょう」
「うう……」
女の子の腑に落ちない悲しげな声が聞こえてくる。
「アデル様!お嬢様をお連れいたしますので、着替えが終わりましたら途中案内した食堂でお待ちください!」
「は、はい!わかりました!」
「それではお嬢様、行きますよ」
アストリアさんの声が聞こえたと思うと、脱衣場が急に静かになった。
恐る恐る覗いてみると、脱衣場には誰もいなくなっていた。
いきなりの展開に頭が上手く働かない。
「とりあえず、早く着替えて食堂に向かおう」
それにしても、真っ白で綺麗な肌だったなあ……。
違う違う。忘れろ忘れろ。
脱衣場の棚に綺麗に畳んであった服を着る。
僕が着ていたボロ服よりも断然に素材も高価で着心地が良い。
脱いだズボンのポケットの中に入っている物を忘れずに取り出し、僕は急いで脱衣場を後にし食堂へと向かった。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
とても恥ずかしいですが、これからもどんどん上げていけたらと思います。
色々勉強したいので指摘(文構成、表現、使い方……)などあったら是非ともお願いします!
水無月 涼