1話 僕の就職先、決まりました②
前回の続きです
どのくらい間意識を失っていたのだろう。
目が覚めると見知らぬ天井が目に入った。綺麗なシャンデリアが吊り下がってる。
「ここは……うっ、痛っ」
身体を起こすと、後頭部に痛みを感じた。包帯が巻かれている。
森であの謎の生き物に襲われた時に頭を木にぶつけた、恐らくそれだろう。
「あの後僕は意識を失って……でもここは。」
意識を失うまでは覚えている。
しかし、僕が今いる場所は森ではなく建物の中だ。
見た感じどうやらどこかのお屋敷の一室のようだ。
ただ、普通のお屋敷ではないように思える。
収納棚の上の花瓶には、花弁の色が七色に替わるバラが。
他にも、黒一色しか塗られていない絵、腕の形をした燭台など、奇妙で不気味なものが部屋にたくさんある。
それに、壁紙の花模様が時々動いているようにも見えた。なんともおかしな所だ。
部屋を唖然として眺めていると、扉の方からノックが聞こえた。
驚いて声が出なかったが、扉は僕の返事を待たずに開いた。
「失礼致します。あ、お目覚めになられたのですね!」
ドアの向こうから、透き通るような白い髪を背中に流し、露出の少ないメイド服をしっかりと着こなした使用人らしき女性が入ってきた。
彼女は僕の寝ているベッドの側まで足音を立てること無くスタスタと近づいてきた。
「よかったです。一時はどうなる事かと慌ててしまいました。どこか具合の悪い所はございませんか?」
心配そうに眉を寄せ、ルビーの宝石のように綺麗な赤色の瞳で僕の顔色を伺ってくる。とても綺麗な人だ。
「すこっ……少し頭が痛みますが大丈夫です。」
緊張で声が上ずってしまった。恥ずかしい。
「ところで、あなたは?」
「あ、申し遅れました。私はこの屋敷で使用人をしています。アストリア・デモワイトと申します。以後お見知りおきを」
スカートの端を指先で優しく摘み、姿勢を崩さず腰から上を四十五度に曲げる。完璧なお辞儀だ。
「あ、あのー……」
いけない。初めて見るメイドさんの仕草に見惚れてしまった。
「あ、すみません。僕はアデル・イグナートといいます」
僕もアストリアさんに習って小さくお辞儀をする。
僕はアストリアさんに、どうしてここにいるのかを聞いてみることにした。
「あの、僕は森で何かに襲われてそのまま意識を失ったと思うのですが、もしかしてアストリアさんが助けてくれたのですか?」
「はい。森の見回りをしていましたら、アデル様が気絶なされているのを発見致しまして。そのままこの屋敷に運び込みました」
「ありがとうございます!正直もう死ぬかと思いました。なんとお礼を言っていいやら……」
「お礼だなんて……当然の事ですよ」
「いや、お礼をーー」
その時、僕の腹の虫が盛大になった。
「まあ、うふふ。お食事を御用意しておきますね」
「こ、これは……」
「お気になさらなくても大丈夫ですよ。ところでお身体も汚れているでしょうし、一度湯で流されてはいかがでしょうか?ご案内しますよ」
アストリアさんは微笑みながら話を進める。
僕は恥ずかしさを誤魔化すため、その提案に素直に従うことにした。
「お、お願いします」
すると、アストリアさんは満面の笑みで
「こちらです!」
と扉の方へと歩み始めた。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
とても恥ずかしいですが、これからもどんどん上げていけたらと思います。
色々勉強したいので指摘(文構成、表現、使い方……)などあったら是非ともお願いします!
水無月 涼