1話 僕の就職先、決まりました⑪
前回の続きです。
リビングでの話を終え、丁度昼食の時間になったので食堂にアストリアさんと二人で向かっている。
後ろを歩いていると、立ち止まってこちらを振り向いた。
「あ、そういえば」
「なんですか?」
「こちらをお渡しするのを忘れていました。お嬢様のご両親クラックス様サレン様とケイト様からアデル様にです」
そう言われて手に渡されたのは、上質な封筒に赤い蝋印で封された二枚の手紙と四角い小包だった。
「これは? 」
「私がアデル様がお嬢様のお手伝い役になった事を報告に行ったのですよ。その時にアデル様に渡すように頼まれたものです」
「え!?報告って、確かここからだいぶ離れていますよね?どうやって行ったんですか?」
「んー、秘密です!」
アストリアさんは小首をかしげ、人差し指を唇に当てて教えてくれなかった。
話しているうちに食堂に着いた。
「では、朝食が多少遅かったので軽食で済ませますね。席に座って待っていてください」
僕は言われた通り席に着き、先ほど貰った手紙の封を開く。
まず先にティノンの両親からの手紙を読んでみる。
『イグナート・アデルくんへ
はじめまして、ティノンの父のウインザー・クラックスだ。
今回は娘の手伝い役になってくれたんだったね。ありがとう。
僕はティノンがどうしても一人でやるというのが不安だったんだ。
だからアデルくんがあの厳選張り紙を見つけてくれて少し安心したよ。
あの張り紙に魔法をかけたのは女三人だったからそっちも心配だったんだよ。まったく。
アデルくん、プライドが高くて大変だと思うけど、どうかティノンをよろしくお願いします。
それと、ささやかながら僕らから君へこれからの期待を込めて一つ送り物を。それでは
ウインザー・クラックスと妻サレンより』
女三人っていうのはアストリアさん達のことかな。あははは……
「送り物っていうのはこれかな?」
僕は手紙と一緒に渡された四角い小包を開けてみる。
「うわー!かっこいい!」
小包の中には金と黒を基調としたお洒落な懐中時計が入っていた。
表面には三日月の模様が掘られ漆黒の宝石があしらわれている。無理に飾らず落ち着いている感じがすごくいい。
三日月模様の蓋を開けると中には、金と銀のゼンマイがゆったりと回っていた。
ガラス張りになっており、数字と針にも独自の工夫が施されていた。
「こ、こんな大層な品物を頂いちゃってもいいのかなぁ……」
落としたら怖いので両手で懐中時計を持つ。
僕は感謝の気持ちとこれからの務めを必ず果たす意思を込めて、手紙に向かってお辞儀をした。 頑張ります。
懐中時計を丁寧にテーブルの上に置き、今度はケイトさんからの手紙を読む。
『イグナート・アデル様へ
この度はティノンの世話役を押し付けてしまい誠に申し訳ない。
手紙では事を伝え切れそうにも無いので、近いうちにお会いしましょう。
ティノンをどうかよろしくお願いします。
ウインザー・ケイトより』
短かった。しかし、近いうちに会うのか……どんな人なんだろう、ちょっと緊張するな。
おおらかで思いやりのある方ってアストリアさんも言っていたし、きっといい人なんだろうな。
僕は期待に応えるために精一杯努力しますね。頑張ります!
手紙を入っていた封筒にしまい、頂いた懐中時計を上着の内ポケットに仕舞う。
丁度そこにアストリアさんが昼食を持って来てくれた。サンドウィッチだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
とても恥ずかしいですが、これからもどんどん上げていけたらと思います。
色々勉強したいので指摘(文構成、表現、使い方……)などあったら是非ともお願いします!
水無月 涼