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22 PT2 魔王城への潜入

いえ、ね……。どうしても書きたかったんです。ソリッド・スネークの例のアレを。

本日、7話更新します。

(4/7)

 数日後、夜の魔王城。

 森の中を切り開いて外側に堀を巡らした大きな城である。堀の外側は綺麗に整えられた並木道になっている。けれども今は夜。木々の大きな葉っぱも、どこか不気味な雰囲気をただよわせている。


 一本の木の影に、セシルとロナウドが潜んでいる。身に付けた装備品こそいつもと同じだが、今日は忍者のように鼻と口を黒い布で隠している。魔王城までやってきた2人だったが、結局、潜入することにしたのだ。


「見回りは2時間に1度。……塔の見張りも少ないな」

 外壁の様子を見ていたロナウドが確認するようにつぶやいた。


「都合がいいわね」

「潜入されても大丈夫だという自信があるのかもしれない。油断は禁物だ」

「もっちろん! じゃあ、いくわよ」

 セシルが手のひらに魔力球を二つ載せると、スノーボードのような形の魔力板(マギア・ボード)に変形させた。


 そのマギア・ボードに乗った2人は、さあっと堀の水面に飛び出す。

 ツーとなめらかに水の上を飛びながらも、ロナウドは感覚を研ぎ澄ませて周囲の気配を探っている。


「罠はなさそうだな」

「じゃあこのまま城壁を飛び越えるわよ」

「オッケー!」

 弧を描いて城壁沿いに、そのままブワーッと斜めに駆け上がっていく。


 風を切り裂きセシルのケープがはためいた。プラチナブロンドの髪が風になびき、月の光を浴びてキラキラと輝いている。


 ふと視線に気がついて横を見ると、ロナウドが瞬きもせずにセシルを見つめていた。


 あれ? ロナウドの様子が変だ。


 セシルはいぶかしげに、

「どうしたの?」

「い、いや。なんでもない」

「そう? ……変なロナウド。落っこちるわよ?」


 ボードから漏れた魔力がキラキラと光のかけらとなって尾を引く。

 そのまま2人は、さあっと城壁を飛び越えると、クルクルッと回転して内側の中庭に降り立った。



◇◇◇◇

 ボードから降りた2人は、そのまま壁際を慎重に移動して裏口から潜入することに成功する。


 ところどころで巡回の兵士に遭遇したが、無事に隠れおおせ、いつしか2人は城の深部に近づいていた。

 迷路のように複雑な廊下に、ダンジョンのようにかろうじてマッピングはしているものの、少し心許ない。それでも進むしかない2人が音も立てずに石造りの廊下を進んでいると、突然、早鐘の音が大きく鳴り響いた。

 どこからともなく誰かの声が聞こえてくる。


 ――――侵入者発見! 侵入者発見! 手の空いている者は正面入り口に急行しろ! 繰り返す。手の空いている者は正面入り口に急行せよ!


「どうやらあれも魔導具のようね」

 呑気に言うセシルに、ロナウドが緊張感をみなぎらせていた。


「みつかったみたいだな。急ごうぜ」

 あわてて奥へ走ろうとするロナウドを、再びセシルが止める。


「落ちついて。正面入り口ってことは私たちじゃないわよ」

「む? じゃあ、いったい誰が?」

「わからないけど慎重に行きましょう」


 2人はセシルの「暗黒(ダークネス)」の魔法を身にまとい、廊下の暗がりに入っていった。


 幸運なことに武具庫らしき倉庫を見つけ、なかで魔王軍の鎧を身につける。

 兵士に成りすまして進むつもりなのだ。


 廊下に出て再び奥へと歩いて行くと、突然、開けた場所に出た。

 そこは練兵場のようだ。天井のある大きな部屋になっていて、あちこちにかがり火がともされている。



「お前たち、何やっている!」

 突然、声をかけられあわてて振り返ると、そこにいたのはあの獣王だった。


 ま、まずいわ。……よりによって、こいつに見つかるなんて。


 兜の中で冷や汗を流している2人に気がつかないまま、獣王が近づいてくる。

 緊張が高まる2人。……ここまでか。潜入は完全に失敗のようだ。


「何だ。緊張しているのか? もしかして……」


 探るような獣王の視線に緊張が高まる2人。――しかし、獣王は急に笑い出した。


「がはははは! お前ら新兵だな?」


 獣王は2人の肩に大きな手を乗せた。


「俺さまが獣王ブルーゴだ。俺はよ。堅苦しいのは嫌いだ! もっと気楽に接してくれや!」


 無言でうなずく2人に獣王は顔を寄せてきた。まるでひそひそ話をするように、

「警報が鳴っただろ? ……なんでもマナス王国のアランって奴とライラって奴が入ってきたらしいんだ」


 驚いて獣王の顔を見上げる2人に、獣王は再び笑い出した。


「がはははは! そう心配するな。先日の戦いでちょっとやりあったが、ありゃあ雑魚だ。……あんなのより強い奴がいたんだぜ」


 そして、獣王は励ますように2人の背中をばんと叩いた。


「俺が今から撃退に行くから、お前らは心配する必要は無いぜ。それより、この奥の武器庫で、その練習用の槍を戦闘用の槍に取り替えておけ!」


 歩き去っていく獣王を見送った2人は、ほうっと息をついた。


「び、びびったな」

「そうね。ここまでかと思ったわ」

「……この奥の武器庫って言っていたな」

「そこでちょっと休憩しましょうか」

「だな。このままだとどこかでボロを出しそうだ」


 意見が一致した2人は、獣王が指をさした方角にある扉に入っていった。


 武器が並んでいる一番奥に行き、鎧の兜を取り外したセシルはふぅぅっと大きく息を吐いた。そして、そばの木箱に腰を下ろす。

 向かい側には同じく兜を脱いだロナウドが別の木箱に座っていた。


「獣王は誤魔化せたみたいだけど、兵士の(かっ)(こう)も危険だな」

「尋ねられても答えられないしね」


「それにどうやら完全に迷子になったみたいだな」

「マッピングする余裕もなかったわね」


「おまけに王国軍が来やがったから、絶賛警戒中になっている」

「明るい話は一つもないわね」


 最初は魔王を見るために潜入したのだったが、状況は警報が発令されてから大きく変化してしまった。

 やってくる兵士たちから身を隠すために脇道に入ったりしているうちに、現在地がわからなくなってしまっている。


 ……このままでは脱出すら厳しいわね。どうする?


 すでにある意味では袋小路に追い詰められたようなものだった。


「さっきの練兵場だって天井があったし……」


 どの部屋も窓がろくにない。あっても通り抜けられるような大きさではなかった。ここも明かり取りの小さな窓が高いところに一つあるきりだ。

 通り抜けられる大きさの窓さえあれば、セシルの飛行魔法で脱出はできるのだが……。


 とはいえ、この武器庫にいてもいずれ見つかってしまう。早急に手立てを考える必要がある。


 倉庫内のほこりが窓からの月光に照らされ、まるでスポットライトのようにロナウドを照らしている。

 ゆっくりと光のなかをただようほこりを見つめながら、セシルは考え込んでしまった。


 ……困ったわね。

 そう思いつつため息をついたセシルの目に、ロナウドの腰掛けている木箱が眼に入った。

 表面には内容物を示す焼きごてで「防疫済」「貨物#”%156」「雑貨」と印が押されている。


 あの箱……。

 結構大きいわね。私とロナウドも中には入れそうだわ。

 もしかして身を隠すにはちょうどいいのかも……。


「それ、いいわね」

「え? どれ?」

「その木箱よ」


 ロナウドは立ち上がってじろじろと木箱を見る。「もしかして……」

 頬をひくつかせながらロナウドが振り向いた。セシルはうなずく。


「私たちが隠れるにはちょうどよくない?」



◇ねとらぼにこんな記事があって、思わず笑ってしまいました。→「「潜入するのに重宝します」(ソリッド・スネーク) AmazonのダンボールのレビューがMGSになっていた」

しかも、まだamazonにレビューが残ってる(笑)


警報が鳴る前に書いていた2つのエピソードがあります。長いし、本筋に関係ないからカットしたけど、面白いと思うから掲載します。

読んでニヤリとしていただければうれしいです。


◇◇◇◇

 石造りの回廊にところどころランプが灯り、移動には支障がない程度の明るさが保たれていた。

 静かに進む2人だったが、向こうからカツンカツンと足音がかすかに聞こえた。


 ……誰か来たぞ。

 ……そこの部屋に。


 視線だけで意思の疎通をして、ロナウドが慎重に一番近くのドアを開けた。

 するりと部屋に入った2人は扉を閉める。

 木のドアの向こうを足音が通り過ぎていく。聞こえなくなったところで、2人は短く息を吐いた。


「む? もう食事の時間か?」

 急に部屋の奥に青い炎の玉が二つ並んで現れた。目をこらすと、それはローブを着たスケルトンの両眼だった。


 ……みつかった!

 ……ちょっと待って。


 あわてて戦闘態勢を取ろうとするロナウドをセシルが止める。とても普通のスケルトンとは思えない膨大な魔力を感じる。

「もしかして食事じゃなくて例の件か?」

 だまってセシルがうなずくと、スケルトンがカカカッと笑いはじめた。

「そうか! ブルーゴの奴め。先に連絡をよこせばいいのに。……私がカロンだ。依頼の品は奥にあるから付いてこい」


 よかった。どうやら別の誰かと間違えているようだ。

 ブルーゴという名前に聞き覚えがあるような気がするが、きっと気のせいだろう。2人は油断することなくカロンと名乗るスケルトンについていった。

「よいか? ここは危険な薬品や道具が沢山あるから、絶対に触るでないぞ」

「はい」

 セシルの返事を聞いたカロンがピタッと止まった。


 バレたか?


 2人の間に緊張が高まる。しかし、次の瞬間、


「な、なななな! 反応がはじまっておるではないかぁぁぁぁ!」


 カロンは叫ぶと、あわてて正面の大きなテーブルに設置されたビーカーのところへ急いで行った。


「おおう! 五律背反反応か。……賢者の石粉投入。デスドラゴンの爪。マンドレイクの根。そして、フレイムジャイアントの涙。……あとは魔力を4の強さで注ぎながらゆっくり混ぜる」

 伝説級の素材をビーカーに入れ、ゆっくりとガラスの棒で中を撹拌している。最初は蒼く光っていた液体が、次第に紫、赤と色を変えていく。


「か、カカカカカ! うむ。素晴らしいぞ! この色! この匂い! この粘り! いよいよ完成するぞ!」


 興奮したカロンが笑いながら作業を続けている。

 ロナウドが呆気にとられた表情でセシルを見るが、セシルは無言で首を横に振った。


 ……あれは錬金術だわ。私には何を作っているのかわからないわよ。


 セシルが魔力の動きを見ていると、液体の色が赤くなるにつれ魔力圧が高まっていく。

「む?」

 何かに気がついたようなカロンの声がした。ビーカーが細かく振動をはじめている。

「こ、これはひょっとしてマズいのでは……」

 焦り出すカロンだったが、次の瞬間、液体は大爆発した。爆風に巻き込まれたカロンがバラバラになって転がっていく。


 煙を吸い込んだセシルとロナウドがコホコホと()き込んだ。

 床に転がったカロンのしゃれこうべが、

「カカカカ。すまんな。失敗だ。いや、素晴らしい爆発だ。そうは思わんかね。……カカカカカ」

 そうしている間にも、散らばった骨がひとりでに集まって組み上がっていく。最後にしゃれこうべが笑いながら転がっていき、元の位置にくっついた。

 コキコキと全身の動きを確かめるように骨を動かすと、カロンはコホンと一つ咳をした。

「ウム。みっともないところを見せたな。とりあえず依頼の品を見せよう」


 そういうとテーブルの上の木箱の蓋を開け、中からこぶし大の黒い玉を取り出した。

「よいか。これは唯一の完成品だから取り扱いは慎重にするがいい。……ブルーゴの奴のことだ。これを使って魔王様で遊ぶつもり(・・・・・・・・・)なのだろう」

 思わずぶっと吹き出したセシルだったが、カロンは真剣だ。


「使い方を説明するぞ。……この玉には内側に二〇層にわたって魔方陣を組み込んである。魔力をこめる前に、指定する対象を細かくイメージするのだ。そうすれば効果範囲内にあっても対象外のものにはダメージはない」


 なんの説明かわからないが、効果を及ぼす範囲をイメージ一つで選別できるというのはかなり凄いことのように思える。

 さすがは魔王軍。魔導技術や錬金術は膨大な知識の積み重ねがあるようだ。


「魔王様にこの球を持たせて自爆させ、あののっぺりとした顔にだけ墨を引っかけたいのなら、事前にイメージとともに爆発トリガーを念じるのだ。……例えば、手にした瞬間に爆発、頬にキスマーク。魔力充てん。起動!」


 カロンがそういった瞬間、黒い球が爆発した。

「きゃ!」

 セシルが小さく叫び、ロナウドがセシルを守るように前に跳び出した。

 煙が納まると、頬骨にべったりとキスマークのついたカロンがカカカと笑っていた。


「どうだ。凄いだろう! 儂の手にかかればこういうジョークグッズの作成など、お安い御用だ。研究があるから見届けにはいかんが、後で結果を報告するようにいってくれ」


 セシルが笑っているカロンにおそるおそるたずねた。

「あの。……それって唯一の完成品っていってませんでした?」

「カカカカ――。…………あ?」

 突然、カロンの顎が落ちた。


「あ――っ! しまった! ……す、すまぬ。すぐに作るからもう少し待つように伝えてくれ!」

 そういうと、凄い勢いでテーブルから薬品を集めて作業を始めるカロン。もう何を言っても聞こえていないようだ。

「カカカカカ……」


 セシルはロナウドを連れてそこから離れた。

「よくわからないけど。もう大丈夫みたいね」

「あ、ああ。なんだか拍子抜けしたが……」

「さ、進みましょう」


 2人は入ってきたときと同じようにするりと廊下に出た。


◇◇◇◇エピソード2

 魔王の間にいくには、とある立派な回廊を通り抜けなければならない。


 広めの回廊の両脇には、くみ上げられた全身鎧が武器を持って等間隔に並んでいる。

 どうやら単なる鎧のようだが、その一番奥には迫力のある漆黒の鎧が立っていた。四本の腕を持つ特殊な鎧はなぜか強い魔力を帯びていた。


 実はこの鎧。四天王の一人である魔剣士ゴルゴダである。戦の命令があれば、その巨大な四本の腕で剣を縦横無尽に振るい。暴虐の嵐を巻き起こすのだが……、残念ながら今のゴルゴダは体を動かすことができずにいた。


 その理由は簡単だ。先日、マナス王国へ侵攻した際にゴルゴダが担当したのは東部州の港湾都市だ。海中から上陸作戦を強行し、見事に攻め落とした。……つまりその結果、関節部分がさび付いてしまったのだ。

 なにしろ普段はここで置き物よろしく立っているだけなので、うっかり油を差すのを忘れていることに気がついた時にはもう遅かったのだ。

 動くに動けぬ。しゃべるにしゃべれぬ。不自由な体のゴルゴダであった。


 そのゴルゴダの目の前に、並んでいる鎧人形の間をロナウドとセシルが歩いている。


 ……むう。侵入者ではないか。


 しかし、ゴルゴダは動けない。


 そうこうしているうちに、セシルとロナウドがゴルゴダのすぐ目の前にやってきた。

「すごい立派な鎧だな」

「これ誰の鎧なのかしらね。すごい魔力を帯びているよ」

「そんなことより早く脱出しないと」

「そうだったわね。ここはどこらへんなのかしら?」


「……まずい!」

 ちょうどタイミング良く? 奥から魔王軍の兵隊がやってくる音が響いてきた。


 ……ははは。さすがは我が軍の精鋭だ。ここに侵入者がいるぞ。


 ゴルゴダがそう思っていると、2人はさっとゴルゴダの後ろに隠れた。


 ……おいおい。気がついてくれよ。な? 大丈夫だろうな。


 ゴルゴダの目の前を、10人ほどの全身鎧の兵隊があっさりと通り過ぎていく。


 ……待て! 待つのだ! お前たち、侵入者はここだぞ! おーい! 行くな! 行かないでくれぇ!


 内心で激しく焦りながら、兵隊たちに呼びかけるゴルゴダではあったが、いかんせん体はピクリとも動かなかった。


 ……な、なんていうことだ。


 そのゴルゴダの目の前をセシルとロナウドが何事もなく通過し、奥へとつづく回廊へ入っていった。



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