第一話:怪物の住む村
初めまして、初投稿の白滝鴻です。
間違っている所や抜けている所があればご指導をお願いします。
とにかく、完結出来るよう頑張りたいです。
この山奥には昔から物の怪が住むと言われているらしい。と言っても巨大な猪がでるわけでも、山から天狗が下りてくるわけでもない。
だが、この山奥で生まれてくる者たちの何人かは不思議な力を持っていた。特にこの茸山の麓はそういう能力を授かった人が他と比べれば多い方だった。
村の人口は約二千人弱。畑が主な収入源で山からは食べれる草、茸などを採って生活している。山のさらに奥へ行くと太平洋が顔を出し、そこの小さな港で魚を買ってきたりもする。
笹原泰は今年で五年生になり、この茸山の麓での生活に飽きてきていた。全学年が三クラスに分けられる教室で一日の大半を過ごし、同じ顔ぶれに会って、変わらないリズムで繰り返される毎日に泰はやる気を失っていったのだ。
聞こえるものは蝉の壮大な混声合唱とこすれあう木々のざわめき。窓から見下ろす校庭には低学年の生徒がきゃあきゃあと叫びながら、ボール遊びをしていた。 泰は頬杖をつくとため息をついた。デジャブとも思える光景を見たのだ。同じ場面を何回も見てきたからだろう。ここには時間の流れというのが存在しないのかもしれない。
ふと顔を上げるとクラス内には誰もおらず、真夏の日差しが木の床を鈍く反射させる。古くからあるこの学校は今まで一度も改装をされたことがなかった。そのため、あちこちに穴が開いてあったり、冬なんかは壁のすきまから吹く風のせいで嫌な思いをしたことがあるのだ。
時計の針は一時を越えていた。一人ぼっちの少年は重い腰をあげると、もう一度窓の先を見つめた。吸い込まれそうな青い空に気が緩みそうになる。泰は首をぶんぶんとふると、これから起こる戦いに身も心も引き締めたのだった。
泰は村の大人たちから敬遠されていた。それは母親の時から始まっており、理由も明確である。
笹原家は村の中でも一番、力のある持ち主とされている。他の者たちはせいぜい予知をしたり、つむじ風を起こしたりするぐらいだが、泰の母親は偉大な能力者であった。彼女が道を歩けばそこら中の生物が後につづき、彼女が右手を一振りすれば嵐のような風を引き起こした。
嘘のようで本当の話。外から来る人間は全く信じないが、村の人々は実際のことだと知っているので、距離を置いて安全を確保していたのだ。今は母親が他界してしまい、お婆ちゃんと暮らしているが、その立場は変わることがなかった。
目の前には五、六人の少年たちがいる。場所は木造の校舎の裏にある広場だ。泰は
「昼休みにここに来い」と呼ばれていたのだ。
その集団の中からリーダー風な背の高い少年が一歩前に出てきた。人付き合いが全くないため、名前が思い出せなかったが、頭を坊主にしているところを見ると、どうやら野球少年らしい。
泰はこれから何をするのか全くわからない、というような表情をした。相手を煽るためだったがどうやら気づかなかったらしい。野球少年は立派な眉毛を寄せると口を開いた。
「本当に来るなんて馬鹿な奴だ。なあ、みんな?」
周りを囲んでいく少年たちがくすくすと賛同の意を込めて笑った。野球少年の手にはボールが握られていた。その他にいる連中もサッカーボールや石やら投げられる物なら何でも手にしていた。 泰はくすりと笑った。バットではなくボールを持ってきたことが妙におかしかったのだ。
野球少年は気にくわなかったらしく、急に声を荒げた。
「おい、何がおかしい? お前は怪物だろうが! 怪物は倒されるべきなんだ!」
屈辱の言葉であるが泰は別に気にしていなかった。この力を見れば誰だってそう言うだろうし、すでに慣れていた。
野球少年は泰が動じなかったのを見ると
「やれ!」と開始の合図を送った。
戦いはほんの数分で終わった。
泰は体の奥底に眠る力を引き出し、瞬間的に周囲に解き放った。
見えない波動に少年たちは簡単に宙に吹き飛ばされ、草地の上に叩きつけられた。野球少年を除く全員はお腹や腕を抑えながら、のた打ち回った。
唯一残った野球少年は青ざめた顔をしながらも手にしたボールを力一杯投げた。泰は手を振り上げ、迫り来るボールを見えない力の鞭で空高く打ち上げた。 泰の圧勝であった。地面に崩れ落ちた野球少年は呆然とし、どこか遠くを見つめている。
まだ日は高い。泰はふぅとため息をつくと倒れている少年たちを置いて一人立ち去った。