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ミイラレル

「ミイラレル」


突然だが、皆さんは中二病という病をご存知だろうか。


この病が有名になった昨今、もはや詳しい説明はいらないだろう。


先人達の例に漏れず、私も思春期には中二病を発症していた。

邪眼や右手が、と言った感じではなく、「不思議なものが好き」そっちの方向に進んだ。


わかりやすく言うならば、魔術とか陰陽師、とかである。


ビデオテープに録画したなんでも鑑定団、というテレビ番組を母と一緒に見ていた中学生の頃、一つの刀剣が出てきた。


鋼やダマスカス、日本刀のあの模様が好きだった私は「間近で見てみたいなぁ」「ああいうの欲しいなぁ」と何気なく呟いた。


すると母は静かに、こちらを見ずに言った。


「日本刀だけは駄目」

「なんで?」

「ミイラレル」

「は……? じゃあ海外の剣は?」

「海外なら可」


なんだその理屈は。

そう思った。


ミイラレル。


折々不思議なことをいう母であるが、私の中二趣味は嫌なようで、

一度関連の本全てゴミに出されたことがある。


「後で教えてあげる」


あととはいつなのだろう、と思いながらもその話は終わり、後日、修学旅行で購入した刃物で有名な老舗の刃物を没収された。


どうでもいい話であるが、さんざん身内限定の不思議体験をしておきながら、修学旅行中に死んだ祖父の死は虫も知らせてくれなかった。


時折お供え物の催促をしたりする曾祖母も、やはり距離があると声を届けてくれないのかもしれないな、と祖父の葬儀の席で思ったのだった。


ディズニー帰りでルンルンのガキンチョは、空港から学校までの帰りのバスで家の前を通った時に訃報を知るのである。

携帯も持っていない田舎の中学生は度肝を抜かれたとしても仕方がない。



ちなみに、修学旅行に行くまでピンピンしていた祖父の死因は誤嚥嚥下性肺炎、と手書きの書類にあった。


座椅子をギリギリまで倒し、テレビを見ながらリポDとお菓子を食べる祖父の姿が目に浮かぶ。

同時に、よく気管に「ほつっと入った」と噎せて咳き込んでいた姿も走馬灯のように思い浮かぶ。


恐らく、寝ながらダラダラと飲み食いをし、気管に入った食べ物で肺炎を起こし、体力のない高齢の祖父はポックリと逝ったのだろう。




さて、ミイラレル話に戻そう。

「あとで教えてあげる」

そう言った母に修学旅行で購入した刃物を没収され(ちなみに修学旅行の、小遣いの3分の2をつぎ込んだ革のケースに収められた刃物。今は私が成人とともに嫁に行ったので刃物は手元に返還された)


高校生になった私は、彼岸の墓参りに母と母の実家を訪れていた。

田舎の国道を15分車で走れば着く距離だ。(時速60キロがデフォの地域)



ここから見える田んぼと山は全部ウチ。


そんな母の実家はところどころ改装をしているがとても古い。


今でも毎年娘を連れてお盆に挨拶に行く。

その度にどこかしら改装されていて、去年ついに「そこ」が無くなったので書いてみようと思う。


高校生の私が連れていかれたのは祖母の家の近くの自分たち用に育てている野菜の畑。

その端にある木造の小屋だった。



母は古めかしい錆びついた錠前に鍵ではなく金属の棒を差し込み回した。

母いわく、鍵が馬鹿になっていて、鍵穴に最後まで入って回ればなんの棒でも開く、とのことだった。


その小屋の中、何があるのかは想像に難くない。

古い木戸を開けると、中にはもう使っていない古い、それこそ歴史の教科書に出てきそうな農具が壁にたくさんかけられていた。


その中、奥の右側だったと思う。

錆びた金具で打ち付けられている布に包まれた細長いものがあった。

恐らく刀と、もう一つ、もっと長い何か。


「戦時中に鉄を出せと言われて、お役人が来た時に、出したんだって。

したら、溶かされずに戻されたんだって。ホントかどうかはお母さんもわかんない。ばあちゃんが嫁に来たあと、百ばあさんから聞かされたって話」


百ばあさんとは私から見て母の母(祖母)の母(曾祖母)の母(……百ばあさん)である。

百歳を越したので百ばあさん。

私が母のお腹にいる時に亡くなったので面識はない。


「なんかねぇ、人を切ったらしいの。それで切った人もそのまま自殺。

集められた金物はその後も盛岡の方に運ばれる予定だったらしいんだけど、途中でまた死人が出て、刀が抜けないようにぐるぐる巻にされて帰ってきたんだって。

でも、惜しまずに役人に出したのはとっくにサビが回っててなまくらで、鞘からもスムーズに抜けないくらい……当たり前だけど人を切れるような切れ味じゃなかったはずって……」


私と母は小屋には入らず入口からそのホコリをかぶって壁に打ち付けられた長いものを見た。


「だから、お手頃価格の刀剣があっても買うなよ。日本刀は駄目」

「おねぇが買ってた日光山の木刀と刀のペーパーナイフは?」

「あれは刀剣じゃないからいいんじゃないの」


(当時姉はる〇うに剣〇にハマっていた)


その小屋の中の雰囲気も相まって、中身を見たいと言い出せず、中にも立ち入らず、

そのまままた小屋に鍵をかけ母屋に戻った。



今はもうその小屋はない。

あの刀剣?がどうなったのか私は知らない。


ただ、私の従弟にあたるそこの長男坊が刃物を研げるという話を聞いて、なんとなく線が繋がり思い出した、そんなお話。

特に落ちもなくてゴメンナサイ。


ただ、中二病を発症した従弟が研いで復活させていたらハナシ的には面白いのだろうけど、ね。


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