望むところよ
他の錬金術科の先輩達が作業している部屋へと、案内してくれるハント先輩の後を、ウルシュ君の腕にしがみ付きながらついて行く。
くそう。ウルシュ君に今まで女の子として見て貰えていなかったなんて!!
確かに女子力死んでるゴリラだけど、見た目は可愛い(自画自賛)美少女な悪役令嬢だから、多少やんちゃでも、恋愛対象足り得ると思っていたが甘かった!!
幼少期から傍にいすぎて、兄妹や悪友と言った感じの、家族愛や友愛という物が先に生まれてしまい、恋愛感情に移行しないという、残念なパターンを行っていた訳か。
だが、ウルシュ君が私を女の子と意識しだした今なら、軌道修正は出来る筈だ。
ちょっとしたボディータッチを増やして、更に意識して貰うのだ!!
いや、ウルシュ君にはそれだけでは生ぬるいかも知れない、基本『生産職特化系の人』って、研究馬鹿が多く、研究や開発に完全に意識が向いちゃってて、色気で迫っても鈍くて気付かない、なんてパターンは良くある話だ!!
よし!! 肉食系女子を突き抜けた、野獣系女子の方向性で行こう!!
いや駄目だ!! 野獣系女子って、イメージがなんだか世紀末のヒャッハーッ系無法者っぽい!!
押し倒して衣服ビリビリに引き裂きそうなイメージだ。
もはや女子力が死んでるとか言うレベルじゃなく、跡形も無く吹き飛んでいる!!
流石の私もウルシュ君相手に、衣服を引き裂くような破廉恥な事は出来ない!!
野獣系女子は最終手段として置いておこう。まずは肉食女子からだ。
しがみつくように組んでいたウルシュ君の腕を、私の方へと引き寄せ、私自身もウルシュ君に引っ付く。
さて、ウルシュ君は気づくだろうか? 自分の腕が私の谷間に挟まっている事に!!
もし気づいて『(胸が)当たってるよ・・・』と指摘してきた時には、あの有名な呪文『当ててるのよ』を唱えてやるのだっ!! さあ、来い!!
・・・・・・・・・おかしい。いっこうに指摘して来ない。
絶対に気付いているはずだ。あからさまにギュウギュウと押し付けているのだ、さっきのラッキースケベの過剰反応を見る限り、私の育ってきた胸で異性を意識しているのだから、気づくはずなのだ。
なのにナゼ指摘してこない? 本当に気付いてない感じ?
そっとウルシュ君を見上げて様子を窺う。
ウルシュ君。・・・表情はいつも通りだけど、耳が真っ赤になっていた。
これアレだっ!!
気づいているけど、恥ずかしくて指摘出来ないパターンだっ!!
ウルシュ君っ!! 普段は腹黒策士系キャラなのに、恋愛方面になると駄目なのか!! 奥手ピュアになっちゃうのかっ!! 意外!!
やだ、どうしよう!! 私の婚約者って可愛いすぎ?!
ウルシュ君が可愛すぎてニヤニヤと見つめていると、ウルシュ君は若干虚ろな笑顔を私に向けてきた。
「イザベラ・・・楽しそうだねぇ。わざとなのは気づいているよぉ・・・。僕が意識しないよう必死で耐えてるの見て、イザベラはそんなに楽しい? 」
やっべ。久々にウルシュ君の黒いオーラが噴き出してきた。最近無かったから油断してた。
よし。怒られる前に、怒ろう。こういう時は逆切れだっ!!
「いや、気づいているなら指摘するか反応するかしてよ。色仕掛けスルーされるのって結構きついんだからねっ!! 」
・・・・・・・・・ヤバイ。ウルシュ君のオーラが一気にどす黒くなった感じがする。これは選択肢ミスったかも。
注意して見ると、虚ろな笑顔にイラつきも出てきている。
素直に謝っとくべきだったか?!
「へぇ~。僕がスルーしてるの、きつかったんだぁ。その割には楽しそうだったよねぇ・・・。ニヤニヤしてたよねぇ? 本当に反応していいのぉ? 色仕掛けに乗っても良いのぉ? 」
やっべぇっ!! なんでか知らないけど、本気で怒ってる!!
さっきまでのピュアさが、消し飛ぶレベルでキレている!! なんでっ?! 何がまずかった?!
「人が自分の感情の変化に戸惑っている時に、純情を弄ぶような事するの、止めて欲しいなぁ」
「あ、ハイ。すみませんでした」
思春期に悩める少年を、あまり揶揄うもんじゃ無かった・・・。
そうだよね、感情の変化に戸惑っているんだよね。さっきのラッキースケベにも若干の罪悪感も抱いているんだよね。ごめんねウルシュ君。
「ねぇ、イザベラ。なんでそんな事するのぉ? 」
まだ怒りが続いているっ!! これ本当に怒ってるよ!!
「え~と、スミマセン。学院卒業後に結婚する予定である、婚約者のウルシュ君から異性として見られてない事に危機感を抱きまして、はい。恋愛的な意味合いで意識してもらうには、まず女の子として見てもらわなければと、色仕掛けに踏み切りました。今は反省しています」
するとウルシュ君の黒いオーラが霧散した。
若干、ウルシュ君はシュンと落ち込んだようにも見える。
「イザベラが危機感感じる事も、気にする必要性もないんだよぉ。昔からイザベラは『僕の可愛い女の子』だったんだからぁ。ただ、そこに何か違う要素というか、違う感情が加わってきて、僕が一人で戸惑って持て余してるだけなんだからねぇ。だからイザベラが色仕掛なんて事しなくても良いんだよぉ」
「えーと、つまり私を『身近な可愛い女の子』として普通に接して来てて、そこに成長してきたと同時に『エロい感情』が混ざりだして戸惑っていると? 」
話をまとめようとすると、ウルシュ君の額に青筋が浮いた。
「ねぇイザベラ。本当に反省しているのぉ? 」
さっきはちゃんと反省したさっ!! でも話を聞いてて思ったんだっ!!
ウルシュ君は何で戸惑ってるんだよっ?! 何を戸惑う必要が有るんだっ?!
可愛い婚約者がいて、成長と同時にちょっとヤラシイ視線で見てしまうって、普通じゃん!!
「いや、だってそうじゃん! そういう事じゃん!! ウルシュ君ってば、ちょっと潔癖が入っているんだよ! 認めて開き直っちゃえば楽になるんだよ! そして学院生活を全力でイチャイチャして過ごそうよ。残り三年間の婚約者時代がもったいないよ」
私の勢いに押されて、怒りがしぼんできたらしいウルシュ君は、疲れたように大きく息をはいた。
「そんな事言ったって・・・。僕、開き直ったらイザベラに酷い事しそうだし」
「ウルシュ君の考えてる酷い事って、多分、私にとっては酷くないと思う」
「イザベラの前でぇ、素直に全部さらけ出してしまったら、多分僕は凄く嫉妬深い男に成る気がするんだぁ」
「ウルシュ君に限っては、ヤンデレ一歩手前程度ならバッチ来いだから大丈夫。むしろ、そこまで近くなったら、私から束縛される事を覚悟しておいて欲しい」
「ヤンデレが何かは分からないけどぉ、きっとイザベラ以上に僕も束縛するよぉ」
「だったら丁度良いじゃん。お互い束縛し合っているんだから。私はウルシュ君しか見ないから、ウルシュ君も私以外のこの世の女性すべてを、諦めてもらうよ」
それを聞いたウルシュ君は、意表を突かれた表情をした後、照れたように小さく笑った。
「うん。イザベラ以外の女性は全部諦めるよぉ。だからその分、僕の全部をイザベラが一人で受け止めてねぇ」
「望むところよ」
そう言ってウルシュ君の腕に更に強くしがみつくと、耳を更に真っ赤にしたウルシュ君が、小さな声で『だから当たってるよ』と言うので、ここぞとばかりに『当ててるのよ』と返しておいた。
「背後で新入生二人が、痴話げんかした挙句にイチャついてて、なんか切ない」
昨日3/5より、フロースコミック様にてコミック版の連載が開始されました。
書籍の方の内容に沿って話が進むので、こちらの内容とは部分的に違ってくると思います。
興味のある方はコミック版の方も、どうぞよろしくお願いいたします。