照れてしまって・・・
「まぁ、『スキル封じ』と『状態異常』くらいだったらぁ、アリス様には良いハンデに成るんじゃないかな? むやみやたらに爆破されたら校舎が壊れちゃうしぃ」
「校舎が守れるなら良いかもしれないわね。ただでさえ先輩達によって校舎が壊れているし」
修繕費は誰が払うんだ。
「イザベラ、錬金術科の学科棟は、次の角を右ねぇ」
「分かった、次の角をみ・・・・・・ぎ。・・・ウルシュ君。学科棟の前で、装甲車とケルべロスみたいなのが睨み合ってるんだけど」
「え? 」
「装甲車とケルべロスが睨み合ってるんだけど」
「いや、うん。聞こえてたんだけどぉ、ちょっと内容が頭に入ってこなかったよぉ。ごめんねぇ」
二人で建物の角から、そっと頭を出す。
うん。国会議事堂みたいなデザインの錬金術科の学科棟の前で、やっぱり砂漠色みたいな装甲車と、三メートル位の頭が三つある黒い犬が睨み合っている。
乙女ゲーム設定、仕事しろよっ!!
こんな入学式じゃ、走っているマリエタがクリス様とぶつかって支えられても、ときめけない!!
あちこち爆破され、ケルべロスが解き放たれてる校舎内で、ぶつかった相手の顔見てる余裕なんて、どこにも無いよ!!
っていうか、あのオープニングシーンのムービーで主人公が走ってた理由、避難してたのかよ!!
「ケルべロスはぁ・・・魔術師科の仕業だろうねぇ」
「私、ケルべロスが解き放たれて、装甲車が出撃する入学式とか初めて聞くんだけど」
「聞いただけじゃなく、目撃出来たねぇ。レアイベント解放おめでと~」
「こんなレアイベント嬉しくない。ねぇ。私、どういう選択肢を取れば、錬金術科と魔術師科の好感度を下げずに、このイベントをクリア出来るの? 」
「時として撤退するのも、戦略の一つだよぉ。イザベラなら素手で両方倒せるけどぉ、変に興味持たれないほうが、穏やかな学園生活を送れるんじゃないかなぁ」
私とウルシュ君は、そっとその場から離れて、錬金術科の裏から入る事にした。
移動の際、空気が震えるような咆哮と、砲撃音が聞こえたけど、全力で無視をする。
さて、錬金術科の裏手に回ったまでは良い。
そこに広がる裏庭は、もともと在ったであろう芝生が掘り返され、土が耕されている。
「これ・・・絶対、地雷原になってるパターンだ」
「雑だねぇ。芝生を剥がして、その下に地雷置いて再度芝生を敷かなきゃ。コレじゃ下に罠があるよって言っているようなもんだよぉ」
とりあえず《色欲》を発動しながら地雷原を抜けていく。
次に校舎に入る方法だけど・・・絶対何か仕掛けてある。
窓が閉まっているので叩き割ろうとすると、ウルシュ君に止められた。
「これから僕達が使うことになる校舎だしぃ、壊れる物品を最小限に留めよう? 」
そう言って、ウルシュ君は《物体透過》スキルを使って、片手だけ窓ガラスを通り抜けてカギを開ける。
これは、私の専属メイドのアンが持っているスキルなんだけど、ウルシュ君はそのスキルを《嫉妬王》スキルで手に入れていた。
そう、ウルシュ君てば知らない間に《嫉妬王》スキルを手に入れていたんだよ。
もともと《スキル取得率上昇》とか言うスキルを持っていたのに、《嫉妬王》まで!!
《嫉妬王》様、《嫉妬》と違い、特殊スキルも手に入れられるから恐ろしい。
他にも触れた相手の声と見た目をコピー出来て、その人に三時間限定で変身出来るそうです。壊れスキル感が半端ない。
とにかくウルシュ君のチートスキルで、窓を壊すことなく侵入できた私達は、先輩たちが居る部屋を目指す。
「ウルシュ君、ストップ。なんか角から来る」
立ち止まって様子を見ると、カツカツと足音を立てながら、廊下の角から陶器で出来たシャーベットカラーのユニコーンが姿を現した。
陶器が動いて居るのは不気味だが、デザインはポップで可愛い。
つぶらな瞳でこちらを見て、首をかしげる。その動きも可愛い。・・・が
「ウルシュ君っ!! 伏せて!! 」
慌ててウルシュ君を廊下に押し倒すと、私達の上を、虹色のレーザー砲が通り抜ける。
その衝撃で廊下の窓ガラスが全て砕け散った。
「あはは~。せっかく割らずに開けたのになぁ」
私を上に乗せたまま、ウルシュ君は楽しそうに笑う。彼はちゃっかり私の身体を抱きしめていて、善意が無駄に成ったのに、機嫌がよかった。
「ウルシュ君。抱きしめられて凄く嬉しいけど、ユニコーンがこっち来てる。やばい」
「そうだねぇ。本当は錬金術科の校舎は壊したく無かったんだけどぉ。もう少しこの体勢をキープする為には仕方がないねぇ」
そう言ってウルシュ君は、私達の周りに防御壁を張ると、ユニコーンに向かって青いビー玉みたいな物を投げた。
ビー玉が床に落ちた瞬間、視界が真っ白になる。
次に視界が戻った時には、天井が無くなり青空が見えた。
五階建ての棟だが、上の階すべての廊下と天井、外壁。教室と廊下を区切る壁が、まるで綺麗に切り取ったみたいに『灰も残らず』消失していた。
「ウルシュ君・・・上の階に人は」
「居たら発動しない。あれ、非対人用だから、効果範囲に生体反応あったら不発に成るんだぁ。僕達みたいに、あれの威力を完全に上回る防御壁で覆われていて、感知出来なければ別だけどぉ。ただ、その時は発動しても無傷だろうねぇ」
「あれは何ていうマジックアイテム? 」
「まだ名前付けてないんだよねぇ。生体反応で不発になるから、魔物や魔獣にも使えないから商品化しても売れないしぃ。完全に趣味で創ったんだぁ」
う~ん。趣味っていうけど、使い道は結構有りそうだけどな?
っていうかウルシュ君、あったかい。なんか良い匂いするし、眠たくなってきた。
「ウルシュ君、眠たくなってきたから降りていい? 」
「寝てて良いよぉ」
「ダメでしょ、こんな戦地最前線みたいなところで」
私がそう言うと、ウルシュ君は私を抱きしめたまま、上半身の力だけで起き上がった。
そのまま私を抱えて、立ち上がる。
「ウルシュ君、重いから降ろして良いよ」
「重くないよぉ。さっきは僕が運んでもらったから交代ねぇ。僕も、イザベラを抱えて運べる位に大きく成ったんだよぉ。だから、今度は僕が運んであげる」
そう言ってウルシュ君は私を・・・肩に担いだ。
ウルシュ君。なんかちょっと違うよ? この運び方、なんか違うよ?
『婚約者』っていうより『荷物』みたいな運び方だよ?
「ウルシュ君、もうちょっとロマンティックな運び方を所望したい」
「お姫様抱っこは無理だよぉ。顔が近くなると、何かしたくなるからねぇ」
「何かって何!? 」
「何かは何かだよぉ」
ぼかすなよっ!! はっきり言ってよ!!
色っぽい感じの意味なら嬉しいんだけど、っていうか内心そういう意味じゃないかと期待してるんだけど、ウルシュ君の場合、本当に分からないから!!
「僕、思春期だから、婚約者の顔が近いと照れてしまって・・・」
「照れてしまって・・・」
「発作的に頭突きするかもしれない」
なんでだっ?!
いや、可愛いよ?!
内心、ワーーー!! って成っちゃって、照れ隠しに頭突きするウルシュ君も可愛いよっ?!
っていうか、ウルシュ君からの頭突きなら痛くも痒くもないし!!
多分、ウルシュ君の方が痛いねソレ!!
でも、そこまで言えちゃうなら、もう良いじゃん!!
そこまで言えちゃうなら、もう恥ずかしくないじゃん!! なんで照れるの!!
天然ピュアキャラかよっ!!
ウルシュ君、腹黒なのにピュアって!!