戦闘力無さそうじゃ無い?
私は今、階段状に椅子が並んだ巨大な映画館みたいな大講堂で、学院長の話を聞きながら眠気と戦っている。
まだ肌寒い時期だからと大講堂は魔道具で温められているし、学院長の立っている壇上以外は灯りが抑えられ薄暗いから、眠たくて仕方が無いのだ。
私から見える位置だけでも舟をこいでいる人や、アイツ完全に寝てるなって言う首の角度のまま動かない人が沢山いる。
頑張ってあくびを噛み殺していると、隣に座っていたウルシュ君が耳元で囁いた。
「イザベラ、学院長の演説がまとめに入って来たから、そろそろ終わるみたいだよぉ。学院長の話が終わったら、学科の紹介と勧誘が始まるから気を引き締めてねぇ」
「う、うん分かった。出口全部で何カ所だったかな? 」
「右側の前方と後方に二つと、真後ろに一つ。そして左右のステージ脇に一つずつ。出入り口は合計五ヵ所だよぉ。後、今は黒いカーテンで閉め切られていて分かりづらいけど、左右の壁の天井付近に窓があるよぉ」
ウルシュ君に言われて講堂の左右の壁を見ると、灯りを落とされている上に、黒いカーテンがキッチリと閉め切られているせいで見落としがちだが、天井付近に大きな窓が並んでいる。
あのカーテンを開ければ、日中は魔道具の灯りが必要ないくらい明るくなるだろう。
窓の位置を確認した所で、首を回したり、椅子に座ったまま膝を曲げ伸ばしする。
ずっと座っていた身体をほぐした所で、学院長が演説を締めくくった。
『この学院で過ごす日々が、君達がこれからの人生を生き抜いていく為の、武器や糧となる事を願っています。皆さん頑張って下さい。入学おめでとう』
話し終わった学院長が、足早に壇上から降りるとアナウンスが流れる。
『以上をもちまして、入学式を終わります。続きまして、各学科からの学科紹介と勧誘が学院敷地内で行われます。本日の学科見学は15時までです。そのため15時まで学院敷地内が封鎖されます。新入生の皆様は封鎖解除まで希望の学科の見学や校内探索等、敷地内で自由にお過ごしください』
アナウンスが終わると同時に、講堂後方にある一番大きな出入り口が吹き飛んだ。
同時にウルシュ君を抱えて跳躍し、左側の壁、天井付近の窓を目指す。
「イザベラ。中央の窓は駄目だよぉ。ステージに一番近い窓の端を狙ってねぇ」
「分かった!! 」
壁を駆け登りウルシュ君の指示する窓まで来たとき、中央の窓をブチ破って飛竜に伏せる様にして乗った青年が講堂に突入して来た。
騒然とする講堂を背に、入れ替わる様に私はウルシュ君を抱えたまま、カーテンごと窓をブチ破り講堂から脱出する。
跳び出して見た講堂の周囲は在校生に包囲されていた。
私に抱えられたままウルシュ君は、在校生たちに閃光弾を次々と投げつけながら、のんびりとコメントする。
「今年はクリス様やギース様と言ったメンツが居るから、気合が入っているのかなぁ。兄さんから聞いていたより学科の勧誘が過激だねぇ」
「私も入学式の話を、お姉様に聞いてはいたけど、まさかココまでするとは思っていなかった」
「もはやコレは勧誘じゃ無くて新入生狩りだよねぇ」
王国立ロゼリアル魔術学院は既定の魔力量を持っている王国民は、貴族平民関係無く強制的に入学させられる全寮制の学院だ。
毎年入学式では、各学科の在校生が新入生獲得に向けて、血で血を洗うような学科勧誘を行う。
自分達の所属する学科の強さのアピールをかねた、各学科同士の仁義なき戦いは、巻き込まれる新入生からしてみれば迷惑極まりない。
新入生達は勧誘が行われる間、貴族平民関係無く争いに巻き込まれるため、一緒に逃げまどう恐怖と苦労を共にした同級生達で、身分を超えた友情や結束が生まれる事があるとか。
卒業生達は、そうやって身分関係無く結束して国を強くするための必要な行為なんだよ、と勧誘戦の正当性を主張するが、ただ各学科で勝負したい脳筋なだけだし、逃げまどう新入生の様子を楽しんでいる風でもある。
新入生達は、連日の戦いで在校生が疲弊し、争いが鎮火して来るまで逃げ隠れするか、早々に希望の学科の先輩達を見つけ出し、入る学科を確定させて授業が始まる日まで寮で待機するかを選ぶ。
なので、勧誘期間は10日と定められてはいるが、殆どの新入生は期間いっぱい悩む事はほぼ無い。
「ウルシュ君、錬金術科の陣営はどこにあるの? 」
「各学科の陣営は襲撃されやすいから向かわない方が良いねぇ。むしろ校舎内に残って作業している人達を探した方が良いかも知れないよぉ」
「そっか、錬金術科だから引きこもって作業している人の方が、多いかも知れないね」
「それはどうかなぁ? さっき講堂の後面出入り口を爆破したのは、多分錬金術科だよぉ。見た感じ魔法薬で爆破した風だったねぇ。他の科なら魔道具や魔法薬使っての爆破はしないしぃ」
もう各学科が何をしたいのか分からない。
勧誘を理由にして学科ごとに力比べしたいだけじゃ無いのか?
「薬品で出入り口爆破するのも、飛竜で窓ブチ破って突入して来るのも、どっちも同じくらいヤバいわね」
ちなみに、魔術学院の学科は合計五つ
『魔術師科』魔術師や冒険者を目指している人達が多い。魔術馬鹿や脳筋魔術師が所属。
『魔法科』分かりやすく言えば普通科。将来街の片隅で魔法屋さんしているタイプが所属。
『魔法戦士科』魔法剣士と言った、魔術と武器の両方を扱う人達が多い。とにかく脳筋。
『錬金術科』魔法薬や魔道具を創る薬師や職人を目指す人達が多い。一部マッドサイエンティスト。
『聖魔法科』神官、治癒士、聖女を目指す人達が通う科。一部狂信者。
魔法科の『学院の良心』感。彼等にはこの争いから無事に逃げ切って欲しい。
「ところで飛竜で突っ込んで来たのは何科なの? 」
「どっちかなぁ? 魔法戦士科の竜騎士かも知れないしぃ、魔術師科の召喚士の可能性もあるしぃ、分かんないなぁ。どちらにしてもあのサイズの竜であの大きさの窓に真っ直ぐ突っ込める位だから、かなり竜の扱いに長けてるよねぇ」
言われてみれば、竜の大きさは窓のサイズギリギリだったな。
話しながら走り続け、人気のない裏庭の様な所でウルシュ君を降ろすと、物陰に隠れながら静かに移動する。
「アリスちゃん達は逃げ出せたかな? 」
小さな声で問いかけると、私に身を寄せてウルシュ君も小さな声で返す。
「大丈夫じゃないかなぁ。むしろ参戦しそうな勢いだと思うよぉ」
「確かに皆なら、かかる火の粉を消滅させるくらいは出来そうね」
と成ると、私の知り合いで一番身の危険が有るのは、マリエタかな?
いや、大丈夫か。
何十回も学院の入学式から人生を繰り返してるって言っていたから、上手な逃げ方を知っている筈。
そんな会話をしながら、ゆっくり移動していると遠くの方で爆音とカラフルな煙が上がった。
ピンクに黄緑、水色にレモン色。
その煙を見上げて、ウルシュ君は呟く。
「もしかすると、クリス様達が一番苦戦するのは、錬金術科かも知れないねぇ」
「なんで? どちらかと言うと錬金術科って戦闘力無さそうじゃ無い? 」
「そう、相手自体に戦闘力が無いから、大怪我させちゃう危険性が有って下手に反撃出来ないけどぉ、錬金術科は武装しているからねぇ。ほら見てあの煙、状態異常効果や、スキル封じの効果が有るよぉ」
うわぁ・・・。錬金術科厄介。




