【閑話】 スネイブル家
ウルシュがイザベラとの南地区デートを終えて商会の本店に戻ってくると、奥の休憩室から真っ白なミニスカワンピースを着た兄が出て来たところだった。
ウルシュの兄は帰って来た弟の姿を目に止めると、自身の白い髪の毛先を指に巻きながら金色の瞳を細める。
「あ、ウルシュおかえりー。今日はイザベラちゃんと一緒なんじゃ無いの? イザベラちゃんは? 」
四歳上の兄の疑問に、ウルシュは真顔で返す。
「イザベラなら、家まで送って来たよぉ」
「えー残念。ウルシュってば僕が何度もお願いしてるのに、ちっともイザベラちゃんに会わせてくれないんだから。この前なんて、やっとイザベラちゃんとお喋り出来ると思ったのに、避けて行くんだもん。お兄ちゃん悲しい」
両手を目の下に持って来て泣きまねをする兄の姿に、うんざりした視線を向けながらウルシュは兄の横をすり抜けて休憩室の方へと足を進めた。
その後ろを、泣きまねをしたまま兄が付いて行く。
ウルシュは後ろをついて来る兄を振り返ると、ため息をついた。
「兄さん、何でついて来るのぉ」
「だって、ウルシュがイザベラちゃんに会わせてくれないから、今日こそは会わせて貰う約束を取り付けようと思って」
「会わせる訳が無いよぉ。だって兄さん、人が大切にしている物ほど欲しくなる悪癖があるでしょ? 」
そう、ウルシュの兄、ウォルター・スネイブルには人の物を欲しがる悪癖があった。
それも持ち主が大切にしていればいる程、彼の欲求は強まるのだ。
ウルシュはこれまで、どれだけの数の持ち物をこの兄に取られたか分からない。
おかげでウルシュは自分の所有物の置き場所や位置の把握に、酷く敏感になっている。
ウルシュが気配を薄くしたイザベラが何処に居ても見つけられるのも、現在地が分かる指輪を持たせて居場所を把握しておこうと神経質になっているのも、すべてこの兄に悩まされて身に付けた性質だった。
「流石の僕も弟の婚約者までは取らないよ。約束するから会わせてよ」
ウォルターの懇願にウルシュは無表情で首を横に振る。
「そんな風にしつこく頼んで来るって言う時点で、兄さんが凄く興味を持っているっていう事だから駄目ぇ。早く兄さんも自分の唯一を見つけてよぉ。そしたら僕も安心できるからぁ」
「僕、そのスネイブル家の特性って言われている、どうしても固執、執着してしまう『宝物』って言うのがイマイチ分からないんだよね。だから他人が大切にしてたり執着してる物が欲しくなるのかな? それが手に入ったらその気持ちが分かるのかなってさ。ねぇ。奪ったりしないからウルシュの唯一を見せてよ。会ったら『宝物』を持つ気持ちが目覚めるかも知れないし」
「イザベラと会って、兄さんにその気持ちが目覚めたら最悪な展開じゃ無いかぁ。嫌だよ絶対」
休憩室でお茶を入れながらウルシュが断ると、ウォルターは拗ねた表情でソファへと身を投げた。
うつぶせでソファに横たわったウォルターは片手をぶらぶらと下げながら、一人分のお茶を入れて飲みだした弟に視線を向ける。
「僕の分は? 」
「ないよぉ。自分で入れてよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・この前、少ししか見れなかったけど、イザベラちゃんの見た目って母さんの好みど真ん中だよね」
「・・・うん。おかげで母さんから、イザベラを連れて来いって言うメッセージが執拗に届くんだぁ」
「連れて行ってくれればいいのに。そしたら僕がこんなミニスカワンピース着なくて済むんだから」
「もう兄さんも十歳に成った事だし、そろそろ母さんの好みから外れるから良いじゃ無い」
「お前は良いよね。見た目が父さんに似て美しくないせいで、女装が似合わないから母さんの餌食に成らずに済んでるんだもの」
「その代わり、愛情は与えられ無いから手放しで喜べないよねぇ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「「あの歪んだ幼児趣味さえなければ、母さんも比較的まともなのに・・・」」
兄弟はどちらかともなく深いため息を吐くと、口をつぐんだ。
しばらくウルシュがお茶を飲む音だけが室内に響く。
耳を澄ませば、表の店内で従業員がお客に商品説明をしているらしい声が聞こえてくる。
ウルシュがお茶を飲み終わり、空になったマグカップを机に置くと、ウォルターがゆっくり身体を起こして、ソファに身を沈める様に深く座り、思い出したように話し始めた。
「そういえばさ、この前地下空間? とかいう所からウルシュ達が救出して来た子達だけどさ、一人を除いて身内の元に帰す事が出来たよ」
ウルシュはウォルターの言葉に、ギースやブライアンと一緒にヒルソン子爵に誘拐されていた三人の顔を思い出す。
アリス達と地下空間を爆破した事情を説明しなくてはいけなくなるので、ウルシュ達は廃工場の地盤沈下の関与を隠していた。
そのためギース達と一緒に地下空間から連れ出した子達を騎士団に預けられず、スネイブル商会の人間がアンデッド騒ぎの最中に保護した事にして、家族を探して身柄を引き渡していたのだった。
「その身内の元に帰せてない一人ってぇ、もしかしてあの子? 」
「うん。あの凄い我儘な橙色の髪の女の子。何か意味分かんない事ばっかり言ってて名前がメリーって言う事しかよく分からないんだよね。どこに帰したら良いんだろ」
「よく分かんない事ってどんな事を言ってるのぉ? 」
「なんか自分は王子の誰かの嫁に成る人間なんだとか、私達は闇ギルドで大切にされているお姫様なんだから、自分に何か有れば闇ギルドが黙っていないからな、とか」
「ふーん」
それを聞いたウルシュは、イザベラが駅から出る時に言っていた言葉を思い出す。
『マリエタが、オレンジ色の髪の子達に気を付けろって言っていたんだけど、何だと思う? 彼女達に私の人生を奪われるって言われたんだけど、もし人生を奪われたらウルシュ君と結婚できなくなるのかな? それは嫌だから、出来るだけ気を付けたいんだけど、何をどう気を付けたら良いのかサッパリなのよね』
暫く考え込んだウルシュは薄く笑って、小さく呟いた。
「そういえば、クリス様に付く双子のメイドが『メリー』と『アン』だったなぁ」
イザベラが前に言っていたではないか、双子の『メリー』の性格はイザベラの兄のダイモンに似ていて、『アン』の方はアマリリスに似ていると。
そして、地下から彼らを救出した際に見た橙色の髪の女の子の持っていたスキル《嫉妬王の心》
「あぁ、あの時、彼女からスキルの『レシピ』を抽出しておいて本当に良かったよぉ。僕を殺してくれたヒルソン子爵には心から感謝しないといけないねぇ。彼のおかげでイザベラの害に成りそうな物を簡単に取り除けるように成ったんだから」
イザベラがアマリリスと衣装を決めて着替えている間に、ウルシュは《嫉妬王の心》からスキルの『レシピ』を抽出し、それを所持していたのだ。
そのすぐ後に、ヒルソン子爵から首を食いちぎられ即死し『反魂の首飾り』によって復活を果たしたウルシュは、それによって一つの重要なスキルを手に入れていた。
【ステー タ ス】
名まヱ:ウるシュ・スNeイブル(6) Lvvvv:3六
咒蔟:秂蔟
Hⓟ:80/8◎
MP⁑685/685
身分:ロゼリアル王kooooooooく スネイブル家 第2子子子死子子
口ゼリアル王国 スネイブル商会 次なン
□ゼリアル王國 錬金術師
■職業スキル
《錬金術師》《鍛冶師》《商人》《魔術師》
《薬師》《毒術師》『呪術師』【賢者】
{縫術師}《治癒士》《神官》[調香師】
■継承特殊スキル
※こ゚のスキルは条件を満たしタタめ、継承性が消失。《絶対鑑定》へ変換され《特殊スキル》へと移行しました。
■特殊スキル
《絶対鑑定》《経験値上昇》《スキル取得率上昇》《嫉妬》←NEW
※《暴食》のレシピを所有中。スキル開放には条件が足りません。
■固有スキル
《MP消費緩和》《魔改造》《魔力付与》《魔術付与》
《HP消費緩和》《魔術発動妨害》
《魔術瞬間発動》《並列思考》
《雷属性魔法》《封印魔法》《爆撃魔法》←NEW
《聖属性魔法》《闇属性魔法》《時空間魔法》←進化
《非接触型MP吸収》←NEW
《接触型MP吸収》←NeW
《氷属性魔法》←NEw
■スキル
《状態異常無効》
《火属性魔法》《水属性魔法》《風属性魔法》《土属性魔法》
《光属性魔法》《全属性耐性》《自動回復》
《武器強化》《魔力強化》《気配察知》《気配遮断》
《魔力察知》《魔力遮断》《品種改良》《武器改良》
《応急処置》《情報操作》《採取》《採掘》《探索》
《解錠》《索敵》《追跡》《隠密》《感知》《直感》
《隠蔽》《偽装》《複製》《修正》《収集》《精製》
《調合》《料理》《細工》《分解》《解体》《抽出》
■称号
《創造者》《黄泉返り》