表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は、庶民に嫁ぎたい!!  作者: 杏亭李虎
カラーズコレクターと七大罪スキル
86/145

繰り返す者

混雑した騒めく王都駅のホームを、ウルシュ君と歩く。

歩きながら、この前から気になっていたけど聞けなかった疑問に対して質問する事にした。


「そう言えばウルシュ君、あの地獄門ヘルズゲートの時の演出と言うか、小芝居は何だったの? 」


「あぁ、アレねぇ。ああする事によって、地獄門が数人がかりでないと召喚出来ないんだと、周囲に思わせたかったんだぁ。イザベラが一人でアレが召喚出来ると周囲に知られたら、僕との結婚に横槍が入るかもしれないからねぇ」


成る程、確かに余り規格外を知られるのは不味いな。そこまで頭が回らなかったよ。

アリスちゃんやギースを混ぜる事によって、召喚者として注目される人間を分散したんだね。

ギースは魔術師団の団長の息子だし、アリスちゃんはあの騒ぎで爆撃魔法を連発しているから、魔力や魔法の才能が有る事が周囲に知られている。

ウルシュ君はスネイブル商会のマジックアイテムを創り出す、天才錬金術師として一部で有名だし、私はいつぞやの鬼ごっこで規格外として有名だ。

その四人がかりとなれば、地獄門を召喚しても納得されそうだ。


さらに、召喚方法を聞き出そうにも、身分が公爵令嬢に侯爵令嬢、魔術師団団長の子息に、平民だけど何だか敵に回すと怖い、スネイブル商会の息子と来れば、強引に聞き出す事も出来ない。

四人全員に聞き取りをするのは難しいだろう。王族でない限り。

王族は何となく気が付いているけど、クリス様のスキルの隠匿の件も有るし、私も元王女の娘で王族の一人だから、と言う事で、何も聞かずにいてくれている。


ちなみに、王妃からランバート家に嫁に行かないか? と言う話が来たけど、バッサリ断っておいた。

王妃は未だに冒険者をやっている変わり者なだけあって、結構気安いやり取りが出来るのに気付いたので、最近は遠慮なく話が出来る。

ランバート家への縁談を断っても、王妃はあっさり引いてくれて「そうだと思ったんだ。一応、聞いておいてくれと実家から言われたもんでね。確かに声はかけて置いたよ。これで頼みは聞いた事になるからそれで良い」と笑っていた。


ところで今日、王都駅にやって来たのは、ランバート伯爵領の隣に在る、シシム子爵領へと旅立つ”ある人”を内緒で見送りに来たのだ。

実は見送りに行ってはいけない事に成っているのだが、どうしても見送りたくて、ウルシュ君にお願いして連れ出して貰った。

遠くから見るだけで、決して声をかけてはいけない。と言う条件付きで、お母様もコッソリと許可を出してくれている。


彼が汽車に乗り込むのを、ウルシュ君と一緒に、離れた所で見守る。

もう、二度と会えないかもしれない事に悲しく成っていると、ウルシュ君が背中を撫でてくれる。

彼の姿が見えなくなると、ウルシュ君の胸にしがみ付く。

ウルシュ君は私の背中に手を回して、そのまま私が落ち着くまでギュッと抱きしめてくれてた。


お元気で、トレヴァー兄様。

どうか無事に、生きて帰って来て下さい。

見送りに来れなかったけど、お父様もお母様も、ダイモン兄様も、貴方が無事に戻って来る事を願っています。



◇◆◇◆◇◆◇◆



王都駅に停車した蒸気機関車の最後尾車両。

そこに、元トーランド伯爵令嬢のルーシーは、拘束され乗せられていた。

行き先はシシム子爵領駅、そこからランバート伯爵領へと向かう。

その地に在る、このロゼリアル王国最大のダンジョン『ゼルバンダム』は、3年前に45層まで在る事が確認されている。

それから3年間、46層まで到達する事が出来ず、ダンジョンの探索が停滞していた。

彼女は今回の事件の関係者として罪に問われ、そのダンジョンの最前線の45層へと5年間、地上に出る事は許されず、未到達とされる層への戦力として送り出される。

彼女のダンジョンでの生存率は、高く見積もって一年間で25%、二年目で7%だと言う。


本来ならルーシーは処刑されるところであるが、王家の人間が持って生まれて来ると言う、特殊スキル『宣誓魔法』を使っての取り調べの結果、ギースの誘拐・殺害計画と、イザベラの誘拐・殺害計画にしか関わっていない事が証明され、そのどちらも未遂に終わり、被害者のイザベラとギースが身内で有る事を理由に、訴え出なかった事で減刑された。

減刑された彼女は、ダンジョンで5年間生き残る事が出来れば、自由の身となる。

減刑とはいえ、ダンジョン45層行きは事実上の死刑と変わらない。

5年後に無事生存して戻って来る確率は、絶望的だった。


拘束され床に座り、汽車が発車するのを待つルーシーの乗る護送車両に、トランク片手に帽子をかぶった長髪の男が乗り込んで来た。

その男の姿を確認したルーシーは、驚きで目を見開く。


「まさか・・・・・・トレヴァー? そんな、何故? 何故ここに? 」


トレヴァーと呼ばれた無精髭の男は、帽子を片手にルーシーへとウインクを投げた。


「大事な婚約者を一人で旅立たせる訳がないでしょ? 私も一緒に連れて行って貰おうと思ってね? 補助や支援しか出来ないけど、手先が器用で、その場で色々作れる便利な男だよ、私は」


「何言っているの? 私は、トーランド家から勘当された身よ。婚約なんてとっくに破棄されているわ。それに貴方は公爵家の長男でしょ、私と一緒にダンジョンに潜って良い訳が無いわ」


その言葉にトレヴァーは首を振りながら、床に座る彼女の前にひざまずく。


「私は婚約を破棄した覚えはないよ。それに、両親に頼んで廃嫡して貰って、君と同じに勘当されて来た。ねぇルーシー。5年後、無事に役目が終わったら、小さな可愛らしい教会で君と式をあげたい。君の望んだ当主の座(もの)は与えられなかった私だけど、君へ沢山の愛を贈る自信はあるよ。だから、私と結婚してくれませんか? 」


「・・・・・・貴方って、本当に馬鹿ね。・・・本当に、救いようのない馬鹿よ」


ルーシーは泣きながら何度も頷き、トレヴァーの胸に額を擦り付ける。

泣きながら馬鹿だと呟き続ける彼女の頭を、トレヴァーは強く抱きしめ長い間そうしていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆




ホームの騒めきの中落ち着いて来た私は、ウルシュ君の腕から出る。


「じゃあ、そろそろ駅から出ようかぁ。駅周辺は輸入品とかの珍しい物が有るんだよぉ、良ければ少し見て帰る? 」


「もちろんっ!! 喜んで!! 」


ウルシュ君との南地区デートに、落ち込んでいた心が浮上してくる。

私の幸せは、ウルシュ君と過ごす日々に有ると言っても過言では無い。


そんな浮かれ気分で、ホームを歩いていると、知らないオジサンがウルシュ君に話しかけて来た。

どうやらスネイブル商会の、取引先の人らしい。


「イザベラ、僕がお願いして頼んでいた物が、何か行き違いを起こしているらしいんだぁ。すぐに話を切り上げるから、あそこのベンチで少しだけ待っててくれる? 」


「良いわよ。時間はまだ沢山有るから、慌てなくても良いからね」


そう言って、ウルシュ君から離れてベンチに座る。

しばらくオジサンと話しているウルシュ君を眺めていると、横から驚いたように女の子が声をかけて来た。


「えっ?! もしかして、イザベラ? イザベラなの? 」


その声の方に視線を向けると、胸辺りまでサラサラのピンク色の髪を伸ばした、清純派系の可愛い女の子が、私に向かっておそるおそる両手を伸ばすようなポーズで立っていた。


「えっと・・・・・・。はい、そうですけど」


この子、誰だっけ? と内心首をかしげながら彼女を見ると、今度は彼女は驚いたように、自身の両手を見ていた。

一体何なんだ? この子。


「そんな、魔術学院の入学式じゃ無い・・・。こんなに早く、子供の頃に記憶が戻るなんて、初めての事だわ」


何か一人でブツブツ言い出した彼女を不審な目で見ていると、彼女は急に勢いよく顔を上げ、私に詰め寄って来た。


「そうだっ!! イザベラ、貴方は今、何歳? 」


「ろ、六歳だけど・・・えっと、どちら様? 」


そう答えると、彼女は私の両手を掴んで喜び出した。


「よかった!! まだ6歳なのね?! 私はマリエタ。マリエタ・プレアよ!!」


マリエタ・・・。どこかで聞いたな、誰だっけ?

マリエタ、マリエタ、マリエタ嬢・・・・・・

あ!! 『ラブ☆マジカル』のヒロインだよっ!!


ん? でも何で、まだ面識の無いマリエタが、私イザベラを知っているんだ?

そう言えば、さっき変な事呟いていたな、『魔術学院の入学式じゃ無い』とか『記憶が戻る』とか。


まさかっ?! ・・・・・・彼女も私と同じ転生者か?

考えても分かんないから、単刀直入に本人に聞いてしまえっ!!


「あ、あの。 もしかしてマリエタは前世の記憶が有るの? 」


すると、マリエタはキョトンとした表情で首をかしげる。


「ゼンセ? 」


「えーと。前世だよっ!! 今回生まれて来た人生の、その前の人生の記憶が有るか聞きたいの!!」


すると、マリエタはパッと表情を明るくした。


「貴女も? 貴女も前回を覚えているの? 貴女も繰り返して戻って来てくれたの? 嬉しいっ!! 私は諦めていたのに、貴女は約束を果たしに来てくれたのね!! 」


ん、んーー? 

なんか若干、話が噛みあって無い気がするんだけど、何が行き違っているのかサッパリ分からない。

そんな中、マリエタは私の前ではしゃぎ続けている。


「一人ぼっちで終わらない繰り返しの中、貴女だけは助けに来てくれたのね」


そう言って彼女は、喜び笑いながら涙ぐんだ。

私はマリエタに、『貴女、多分何かを勘違いしていますよ』と言い出せず、黙って彼女を眺め続ける。


「そう言えば、これまでと状況が全然違うわっ!! 叔母さんが無事に、それも入学前に戻って来て居るし、今も汽車に乗って王都から離れる事に成っているわ。イザベラ、貴女が未来を変えてくれているのね」


そんな中、離れたところからピンク色の髪の女性が二人、マリエタを呼ぶ。


「あ、あぁ。もう汽車が出るわ。私、もう行かなきゃ」


そう言って、私の前から汽車へと向かうマリエタを、私は追いかける。


誤解を解かなきゃ!!

何が誤解なのかはよく分からないけど、今すぐ誤解を解かないと、後日話がややこしく成る気がするっ!!


彼女の横を一緒に歩きながら、彼女に話しかける。


「えっと、マリエタ。きっと貴女は誤解しているわ。私の言っている前世の記憶って言うのは、ココとは違う別の世界で、別の種族の人生を生きていた記憶の事を言っているの。だから、貴女との約束? とか何の事だか分からないの」


それを聞いて、彼女は足を止めないまま、驚き、悲しそうな顔をする。


「違うの? 私とは違うの? 」


「ごめんなさい。どうやら違うみたいよ」


そのまま、悲しそうに母親と叔母らしき女性と汽車に乗り込むマリエタ。

車両の座席へと移動していくマリエタを、窓越しに見つめ合いながら追いかける。

ようやく、窓際の座席に座ったマリエタは、窓を開けて私に声をかけた。


「繰り返してないなら、貴女は知らないわね。7歳に成った時、オレンジ色の髪の年上の女の子に気を付けて。貴女は彼女達・・・に人生を奪われるわ」


「それは、どういう意味? 」


「私の言う事を信じて貰えないかもしれないけど、その事だけは覚えていて。私は・・・私はこの世界を何十回もやり直しているの。何度も世界が滅んで、死んで、15歳の魔術学院入学の日へと戻っているの」


それって、ループしているって言う事か?

真剣に彼女と向きあう。

ちゃんと、彼女の話を聞いていた方が良い気がする。


「どうして、世界が滅ぶの? 」


「それが、何度繰り返しても分からないの。私は何度か立ち向かわずに逃げたりしたから、繰り返しの人生を無駄に過ごしたのも有るし、それに滅ぶ理由も同じだったり違ったり。でも、そこに一人の大賢者が関わっている事だけは、前回の人生で掴めたわ」


世界滅亡に関係する大賢者。知らないな。

ゲームでそんな物騒なキャラとか、会話にすら出て来なかったぞ。


「ねぇ、イザベラ。どうか、どうか私を信じて。ゼンセの記憶を持つと言う貴女は、今までの繰り返しで出会ったどの貴女とも違うわ。今、私の希望は貴女しか居ないの」


そう言って彼女は、大きな瞳から綺麗な涙の粒をポロポロと零し始めた。

その時、汽笛が鳴り響き、ゆっくりと汽車が進み始めた。

汽車の動きに合わせて歩きながら、マリエタの綺麗な淡いグリーンの瞳をしっかりと見上げる。


「分かったわ。マリエタ、貴女を信じる。そして大賢者とやらに世界を滅ぼさせたりしない。私は結婚したら一緒に世界中を旅しようって大切な婚約者と約束しているの。私のその望みの為にも、貴女に協力するわ」


少しずつ速くなる汽車の動きに、走って並走する。

マリエタは窓から身を乗り出して私を見下ろし、とめどなく涙を流しながら頷く。


「ありがとう。ありがとう、初めて会うイザベラ。お願い、一緒に世界を助けて!! 」


スピードを上げる汽車に、見送りに並んだ人達を避けながら走り、叫ぶ。


「えぇ!! 約束するわ!! 前の私との約束じゃ無くて、今の私との新しい約束よ!! 任せて、マリエタっ!! 」


ホームの端が来て足を止める私に、マリエタも汽車の窓から叫ぶ。


「イザベラっ!! お願い、私を、この終わらない世界から救い出してっ!! 」


【ステータス】

人族:マリエタ・プレア(7) Lv12

HP:30/30

MP:41/41


■身分:

ロゼリアル王国 プレア家 長女

ロゼリアル王国 市民


■職業スキル 

《魔術師の卵》《剣士の卵》《料理人》《聖女の卵》

《治癒士》《神官》


■特殊スキル 

《祝福》《転移》《転送》


■固有スキル

《HP消費緩和》《HP回復強化》《MP消費緩和》《MP回復強化》

《雷属性魔法》《氷属性魔法》《聖属性魔法》《育成強化補正》

《空間魔法》《時間魔法》


■スキル  

《風属性魔法》《土属性魔法》《光属性魔法》

《風属性耐性》《土属性耐性》《光属性耐性》

《料理》《採取》《洗濯》《自動回復》《忍耐》


■称号

繰り返す者(リプレイヤー)





私は、いつかのウルシュ君の言葉を思い出していた。


『あの男がイザベラを狙って前世に干渉したから、それが原因でイザベラの情報が出て来るゲームが有るのはまだ良いよぉ? でも、何で主役がマリエタ嬢なんだろう? って思ってねぇ』


あの時の疑問の答えが、コレだったのかもしれない。

これにて、2章が終わりです。

あと、書籍化します。詳しくは活動報告にて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 単なる乙女ゲームをちょちょいのちょいでこうすると〜? あーら不思議…………半分くらいホラーなんですけども???
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ