よろしくお願いします!!
ウルシュ君達も一緒に付いて来ても良いとの事だったので、4人で王宮に向かう。
王宮の敷地内、政務官の居る棟から王宮の奥に在る白い塔へと続く、人通りの少ない通路を少し外れた場所に、蔦に覆われた今は使われていない石造りの倉庫が、隠れた様にして存在していた。
その倉庫の中、階段の下に隠し通路が有り、その奥に石造りの地下室があった。
ここに来るまでに、等間隔に近衛騎士が立って警護していたが、地下室の中には近衛騎士だけでは無く数人の魔術師達も集まっていた。
その人達に囲まれる様にして、クリス様と王妃様がソファに腰かけて待っていた。
こんな所に豪華なソファが設置されている訳が無いから、わざわざ運んできたのだろう。従者の方々、ご苦労様です。
王妃様はソファに足を組んで座り、背もたれに身体を預けたまま口を開く。
「待っていたよ、イザベラ。私もこんな地下室じゃ無く、街中に出て子爵と対決したかったんだけどね。彼らが煩くて、外に出られなかったんだ。だけど無事に君達で対処出来た様で何よりだよ。聞いた話だと、比較的平和な王都にいる冒険者達の実力も、まだまだ捨てたもんじゃないね。まぁランバート領の最前線に居る冒険者とは比べようが無いけども」
そこまで一方的に語ると、王妃は立ち上がり、地下室の奥で花に囲まれた樽まで歩み寄り、その樽に浅く腰かけ片手で樽を叩く。
「さて、来てもらって早速で悪いんだけど、この樽を鑑定してくれないかな? 魔術師団の高レベルの『看破』持ちも『鑑定』持ちも、スキルを弾かれてしまってね。これが、例の『魂の牢獄』だろうとは分かっているんだけど、確証が取れないんだ。ついでに安全に撤去、浄化できるかも調べて欲しい」
クリス様も立ち上がり、私達の元に来ると小声で話す。
「・・・・・・ボクが見た、ヒルソン子爵の記憶は断片的だったけど・・・・・・多分これが奥さんを入れた『魂の牢獄』で、あの周囲に供えられた花はヒルソン子爵が持って来たもので間違いない・・・・・・でも、ボクのスキルは秘匿される事になっているから・・・・・・樽の正体を証明する証拠にも成らなければ、安全性を証明する事も出来ない・・・んだ」
「安全性の証明もなにも、王妃様、あの樽に腰かけてるじゃない。大丈夫でしょ」
「・・・・・・一応、形式的に、対応できるスキルを持った第三者の確認が必要・・・・・・らしい」
仕方がないわね、と樽の鑑定をする事を承諾する。
念のため、ダブルチェックを兼ねて、ウルシュ君にも一緒に鑑定して貰う事にした。
それでは《強欲王》先生、お願いしますっ!!
『魂の牢獄の失敗作』
人間の魂で創ったエネルギーを閉じ込めた入れ物 ▽
材料▽
生きている人間 1
ユニコーンの角 1
一角ウサギの角 1
循環草 10本
ワイバーンの鱗 100g/粉末
リッチの頭蓋骨 1/歯が欠けて無い物
エルフの右耳 3/200歳以上の物
アルラウネ 1/根の形が少女の姿をした物
エンシェントスライムの酸 用意した『怠惰の棺』の半分を満たす量
怠惰の棺(▽) 1/上記の材料が全て入る大きさ
魚2きれ 半分消化済みの物
野菜数種 半分消化され判別困難
ロールパン2つ 半分消化済みの物
綿のドレス 一着
絹の靴下 一組
綿の下着 一組
バラの花(黄) 5本
バラの花(白) 3本
ユリ(白) 4本
カーネーション(桃)8本
カーネーション(白)5本
兎のヌイグルミ 一個
※魂は完全分解され、エネルギー体へと変換されています。
※スキルの一部が、完全分解されずに残存▽
残存スキル:継承特殊スキル《暴食王の両手》▽
・スキルが『怠惰の棺』により半壊され、効果の鑑定不可能。スキルの完全修復不可能。
・半壊された《暴食王の両手》より《暴食》のレシピを抜き出す事が可能。
・『怠惰の棺』を破壊した場合、スキル『暴食王の両手』が完全に消失する恐れが有り。
こんな所に、『大罪王スキル』の一つが有ったーーーーーっ!!
しかも、半壊状態で『怠惰の棺』を壊せば完全消失とか、不戦勝感半端ない。
いや、不戦勝じゃ無いな。
カラーズコレクターと戦わなければ出現しない、レアスキルと考えても良いかも。
でも、一つ気になるのが・・・
「ウルシュ君、なんでこの『魂の牢獄』は失敗作になったのかな? 」
気になって、ウルシュ君に小声で尋ねる。
すると、ウルシュ君はさも当然の様に答えた。
「レシピに無い材料が入っているからだろうねぇ。シチューを作るときに、レシピに無いブドウやコーヒーを入れたら失敗するのと同じだよぉ。これで何故、呪術師達の創った『反魂の首飾り』が粗悪品に成ったのかが理解出来たよぉ。材料となる魂を手に入れる時点で失敗しているんだぁ」
もう一度、目の前に有る『魂の牢獄の失敗作』を見る。
ドレスや靴下といった物は、リンゼイさんが身に着けていた物だろう。
そう言えば、私もルーシーから服を着たまま樽に入れられたな。
半消化の食べ物は彼女の胃の内容物か。食後あまり時間がたっていなかったのだろう。
花とヌイグルミは・・・きっと、ヒルソン子爵が彼女の為に一緒に入れた物か。
彼女の為に入れた物達が、彼女の魂を分解してしまう原因に成ってしまうなんて、ヒルソン子爵は考えも寄らなかったのだろう。
ウルシュ君は、少し呆れたように呟く。
「ヒルソン子爵は呪術師としては実力が有ったのかもしれないけどぉ、物創りには向いて無いねぇ」
しばらく、『魂の牢獄の失敗作』を眺めた後、王妃に向かって声をかける。
「中に、魂が溶けてエネルギー体に変わったものが有ります。それと、エンシェントスライムの酸も。それに注意して頂ければ、破壊して問題は有りません」
それを聞いた王妃は頷くと、周囲に指示を出す。
「そうか、では派手に粉砕する事にしよう。エネルギー体とやらがどう作用するか分からんから、王宮内で破壊するのは危険だ。王都の外に早急に運び出せ」
すると周囲に居た王宮魔術師が早急に樽の周りにシールドを張ると、運び出す準備を始める。
王宮内に、いつまでもこんな得体のしれない物を置いておきたくない、と言う気持ちが表にありありと出ている素早さだ。
それを見ながら、今まで黙って様子を見ていたギースが口を開いた。
「ここに父上が居なくて良かったです。父上がこの場に居たら、魔術師団の研究施設に持って帰って調査したい、って言い出したでしょうから」
なんだそれは、本当にギースの父親である魔術師団長がこの場に居なくて良かった。
王妃には言わなかったけど、《暴食王の両手》スキルが残存している以上、私としては早急に対処して貰いたい。
そんな事を考えていると、王妃が私達の前に立った。
「君達はどうする? 今回の件に深くかかわって来た君らだ、最後まで見届けたいなら、一緒にあの樽が処分されるところまで付いて来る事を、許可しよう」
その言葉に、私達は飛びついた。
「「「「よろしくお願いします!! 」」」」
王都の外壁を出て、その荒野に着いたのは、日が沈んでしばらく経ってからだった。
荒野の真ん中で私達は、『魂の牢獄』に成る筈だった物が防御壁に囲まれ、浄化の炎で燃えて行く様子を見守っていた。
浄化の炎に耐え切れず壊れた樽の隙間から、桃色がかったグリーンのオーロラの様な物が溢れ出す。
それは、夜空へと階段を作る様に昇っていき、樽が燃え尽きると同時に消え去った。
こうして完全に、私達とカラーズコレクターの戦いに幕が下りた。