馬鹿めっ!!
「まずは、子爵を建物の多いここから引き離すわ! ウルシュ君、どこかこの辺りに開けた場所が無いか知らない? 」
こんな街中で広範囲攻撃をする子爵とドンパチやってたら、中央地区の被害が大きくなると考え問うと、ウルシュ君は周囲を見渡した後に西方向を指さした。
「王宮の西側、魔術学院と騎士学校へと向かう大通りに沿って、都立公園が有るよぉ。まだ明け方だし昨夜の騒ぎも有るから人も少ないんじゃないかなぁ? 」
「あぁ、あの水着姿で日向ぼっこしている人達が転がっている公園ね」
「最近、水着で日光浴は禁止されたらしいよぉ。この前行ったら禁止の看板が立ってた。騎士学校の生徒が訓練したり周囲を走ったりしてるんだけどぉ、その妨げになるからって事だろうねぇ」
なんで水着で日向ぼっこしたら、訓練の妨げになるのかしら。言いがかりじゃ無い?
疑問に感じていると、再び眼下で子爵の広範囲攻撃が炸裂する。
冒険者達の中に、シールドを得意とする魔術師がいたようで、子爵の攻撃を防ぎながら距離を詰めて行っている。
このままだと街中の被害が大きくなるし、下手をすると子爵が倒され、次の身体へと逃げられてしまう。
私はウルシュ君と短く作戦を相談すると、キックボードから飛び降り、すぐ下にあった建物の屋上へと着地する。
そのまま建物の上を飛び移りながら移動し、子爵の前へと着地し立ち塞がった。
明るくなって来た空の下で見る子爵は、すでにボロボロだった。
瓦礫の下から這い上がってくる間に、両手は土や血で真黒になり、全身土埃で汚れている。
既に豚マスクは引き裂けていて、頭に被っていると言うより、頭にまとわりついていると言っていい状態だ。
だけどそのマスクの隙間から見える両目は、不気味なほどギラギラとしていた。
[強欲王]発動。
《ステータス》
人族:アーロン・ニック・ヒルソン (33) Lv:32 + 213
HP:0/35 + 22880/45445
MP:0/146 + 13001/19882
身分:
ロゼリアル王国 ヒルソン子爵家 当主
ロゼリアル王国 政務官
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《称号》
[外道][魂喰い][嘆く者][子殺し][愛妻家]
ウルシュ君が言う通り、名前が二重に成っている。更に名前だけじゃ無くて、年齢も。
レベルやMP・HPがプラスされているけど、身体の持ち主のアーロンさんの分にライアン分が上乗せされているって言う事だろうな。
身体の持ち主だったアーロンさん、政務官なのにレベルとMP・HPが高いな・・・アリスちゃん以上だよ。
珍しいスキルとかは持って無いみたいだけど、ライアン分のHP・MPの高さが厄介。
代々乗り移って行って、長生き(?)しているとは言っても、私みたいなチート転生無しでココまで高くなるものだろうか?
流石にHPは私の方が多いけど、MPは子爵の方がかなり上。コレは普通だったら削るの大変だわ。
ゲームでなかなか倒せなかったのも納得の強さ。
ただし、今はゲームと違ってかなり有利な点がある。
さっきの爆撃で豚マスクはボロボロになり、魔核が壊れたのかマスクが機能していない。
つまり攻撃魔法を吸収しての、MP回復が出来ないのだ。
さらにもう一つ、私にはチートなスキルが有るから、魔法攻撃をして貰えれば、MPを削るのは容易い。
子爵のギラついた目を正面から見返し、不敵に見える様に笑顔をむけて言い放つ。
「奥さんの命を助けたければ、私を倒して行きなさい!! 」
あ、なんか違う。この言い方じゃ、私が悪役みたいだわ。
私の挑発に乗ったのか、すぐさま子爵はお得意の広範囲攻撃、その姿が見えなくなる程の魔弾を自分の周囲に噴出した。
って・・・この攻撃、無詠唱かよっ!!
確かにゲームでも無言でぶっ放していたけどっ!!
正直、予想外で焦るわ!!
だけど、無駄よ。
「 《暴食》 」
子爵の放った魔弾は私の片目に渦巻きながら、吸い込まれる。
と、魔弾が消えて子爵の姿が見えたかと思うと、彼は目の前まで接近して来ていた。
彼の横薙ぎにする様な蹴りを、片腕でガードする。
子爵は、私に防がれた片足を支点にして回転するように跳び上がり、もう片足で私の頭を狙って蹴りを放ってくる。
その足首を空いている方の手で掴むと、回転して遠心力を付け子爵をぶん投げる。
「ふははっ!! 両足とも地面から離すからだ、馬鹿めっ!! 」
過去に子爵とおんなじ攻撃を仕掛けて、ダイモン兄様に返り討ちに会い、投げつけられたセリフを子爵に言い放つ。
自分がされて嫌だった事を、他人にするイザベラちゃん。悪役令嬢6歳です。
そのまま子爵の方に向けて左手を振り下ろし、青黒い魔弾の雨を降らせる。
お前の魔弾は、さっきの《暴食》と同時に《嫉妬》済みでしてよっ!!
危ないから、子爵みたいに四方八方に放ったりしないけど。
自身の身体をシールドで覆っていた子爵は、あまりダメージは受けて無いが、進んで魔弾を受け続ける気も無いようで、魔弾の雨の中を立ち上がると、後ろに跳び退き距離をとる。
私も跳び退く子爵を追いかける様に、踏み込んで距離を詰め、そのままボディーブローを叩きこもうとしたが、バックステップで難なく避けられてしまった。
この6歳児の短い手足が悩ましい。リーチが短すぎる。
子爵は私の攻撃を後ろに下がって避けながら、黒い電気を放つ靄の様な物を私に叩き付けて来た。
・・・が、私に変化は無い。
黒い靄が効いていない私に、一瞬目を見張った子爵は、私の攻撃を避けながら次から次へと同じ靄を叩きつけてくる。
・・・・・・何だろう、この靄。
《強欲王》で調べてみると、即死系の呪いの様だ。
あぁ、子爵。すまんね。
私、6歳児にして《状態異常無効》スキルが有るのよ。何度やっても呪いや毒は効かないよ。
私を呪うのに諦めた子爵は再び魔弾を放つが、私の《暴食》に吸い込まれ不発に終わる。
本当に、この《暴食》に吸い込まれている魔弾は、どこに消えているんだろう?
そう言えば、アリスちゃんの巨大爆撃魔法陣も吸い込んだままだね。
魔弾を放っては私の眼に吸い込まれると言う行為を何度か繰り返し、私の片目は放出系の魔法を無制限に吸い込む事が出来ると言う事を学んだ子爵は、魔法を纏う戦い方に切り替え、電気を纏った両手足で、攻撃を仕掛けて来る。
その攻撃を子爵に倣い、シールドで覆った身体で防御する。
正直、いくらHPが高いとは言っても、体格差が有りすぎる。
特に体重が軽い私は、踏ん張っていないと体が吹き飛ぶので、重心を低くしないといけなくなり、必然的に攻撃が子爵の足元に集中する。
それは子爵も理解しているようで、私の攻撃は全て防がれる。
地下の様な狭い空間でなら、立体機動を使った空中戦をするんだけど、今それをすると子爵に逃げられてしまう。
彼が今一番優先している事は、私を倒す事よりも、奥さんの魂を隠している王宮に向かう事だ。
あまり間合いを開くと、その隙に方向転換して王宮に向かわれかねない。
「喰らうといいわ 《地中雷》 」
私が言い終わらぬうちに、子爵と私の間の地面が吹き飛ぶ。
それを避けようと、子爵は後ろに飛び退くけど、残念でした。
《地中雷》は追尾型の爆撃魔法よ。下がっても下がっても追い駆けて来る。
猛スピードで後退する子爵を、《地中雷》と一緒に追いかける。
追いかけながら魔弾の雨を降らせるのも忘れない。
しばらく走り続け、子爵に追いつけずに大通りを吹き飛ばし続ける《地中雷》を追い越すと、そのまま子爵の横に並び、思いっきり体当たりする。
そのまま子爵と共に横に飛び、転がると同時に《地中雷》を解除。
すぐさま跳び起きた子爵に、ウルシュ君が言い放つ。
「ヒルソン子爵。捕まーえたぁ」
と同時に、私とヒルソン子爵の立つ都立公園が、防御壁で封鎖された。
そこまで重要ではないから、本編では語られない設定の解説。
ライアンのHP・MP及びレベルが高い理由。
称号に「魂喰い」と有る様に、ライアンは息子達の体を乗っ取る際に、彼らの魂を食べていますが、それ以外にも「魂の牢獄」で捕らえた魂も食べてます。
その魂分のMP・HP・レベルを取り込み、いつしかイザベラ並みに…
アーロンさんが政務官なのにレベル等が高いのは、ライアンが体を乗っ取った後に行っている行為で、レベルが上がっているから。アーロンさん自身は普通の成人男性並みの能力しかない。