正しい方法ってどうやるの?
なるほど、カラーズコレクターが起こした誘拐を含む犯罪の動機は、何となく理解出来た。
ヒルソン子爵の過去には同情するし、奥さんを助けたかった気持ちは分からんでも無い。
そして、当時の王様の息子を助けたい気持ちも理解しよう。
でも、やり方が不味いわ。
他人に降りかかる不幸や迷惑が大きすぎ。
なんで、お前らの大切な人の為に、関係無い者が命を落とさなきゃいかんのだ。ぶっ飛ばすぞ。
「クリス様。当時の王様の所業に申し訳なく思うのも、ヒルソン子爵に同情するのも構わないですけど、すでに彼の所業は許されない所まで来てます。落ち込むのは後にして、彼の行き先を教えてくれませんか?」
「・・・・・・うん。そうだね・・・彼の行き先は・・・・・・彼の職場だよ・・・・・・そこに、ヒルソン夫人の入った樽が隠されているんだ・・・・・・」
ヒルソン子爵、職場にリンゼイさんの入った樽を隠すって、チャレンジャーだな。
えーと。ヒルソン子爵の職場・・・職場。
って、ヒルソン子爵の仕事って何だ?
身分が子爵って言うのは覚えているけど、何の仕事してるんだっけ?
前にウルシュ君から教えてもらった気がするけど、思い出せない。
「ウルシュ君、ヒルソン子爵って仕事何してたっけ?」
私の質問に、ウルシュ君は笑顔で答える。
「王宮の政務官だよぉ」
「そっかぁ。王宮の政務官かー・・・・・・ 王宮の政務官っ?! 」
待て、待て待て待て。
王宮の政務官って言う事は、職場は・・・うん。王宮だよね。
「王宮にリンゼイさんの入った樽が有るの?!」
私の驚愕に、ウルシュ君は何でも無いかの様に頷く。
「うん、そうだねぇ。そもそも、ヒルソン子爵は王宮に閉じ込められている時に、奥さんを『魂の牢獄』に入れたわけだしぃ。魔法陣の上に置いてある樽を、魔法陣が描いて有る床ごと剥がして、遠くまで運ぶのは難しいかもねぇ。イザベラみたいに【クローゼット】を持っていても、収納できるか判定が微妙な物だしぃ」
それを聞いて、慌てて立ち上がると、ウルシュ君に向かって叫ぶ。
「やばいよウルシュ君!! 私、さっきブライアンとギースを、騎士団のある王宮へと送り出しちゃったよ!! 王宮で鉢合わせるかも!! 」
言い終わらないうちに、王宮の方面へと駆けだす。
まぁ、ギース達と子爵が鉢合わせたところで、反魂の首飾りを手に入れた子爵は、わき目も振らずに奥さんの元へと突き進むだろうけど、王宮へと急ぐのに越したことはない。
一番重要なのは、王宮を守っている近衛騎士達と、若干暴走気味の子爵が戦闘に成る前に、辿り着かなければいけないと言う事。
近衛騎士達は王宮を守っているだけ有って、強い。特にウチのダイモン兄様とか。
だから、うっかり近衛騎士が子爵を倒しちゃうと、子爵が次の身体へと移動してしまって、面倒な事になる。
王宮の在る中央地区へと駆けていると、夜が明けて空が徐々に白くなって行く。
あぁ、一晩の間に色々ありすぎた。
昨日の夕方に女装したポールさんと、おとり捜査していたのが、昔の事のよう。
まだまだ何も終わってないのだけど。
ようやく見えて来た中央地区は、深夜の騒ぎが嘘の様に静まっているが、騎士隊や憲兵達、冒険者達が一部残ってアンデッドの残りが居ないか捜索していた。
未だに起きて外の様子をうかがっている住民も、チラホラいる。
中央地区に入ってしばらくすると、ウルシュ君がキックボードにトンボの羽を生やした様な乗り物で追いついて来た。
「昨日のアンデッド騒ぎは終結したみたいだねぇ。街中に倒されたアンデッドが転がっていないからぁ、イザベラの浄化魔法が効いたのかなぁ? 」
「それよりウルシュ君が乗ってるそれ何?! 宙に浮いてるよね?! 」
ウルシュ君は私の質問に、キックボードの様な物を見下ろしながら答える。
「あぁコレ? 僕の体力とスピードじゃ、イザベラに追いつけないからねぇ。移動用の乗り物を創ってみたよぉ」
あっさり言うけど、それ凄いよウルシュ君。
私と追いかけっこした時の軍馬の全速力よりスピード出てるし、何より飛んでいるよ。
障害物も難なく上昇して避けている。もはやファンタジーと言うより、近未来SFみたいだ。
アリスちゃん達も同じ物に乗っているのかと、振り返るが姿が見えない。
「アリスちゃんと、クリス様は?」
「これ一機しか創ってないからぁ、後で馬に乗って来るよぉ」
おう。置いて来たのか。
思わず遠い目をしていると、遥か先、斜め前方向から爆音が上がった。
すぐさま音の方向に視線をやると、建物が爆発か何かで吹き飛んだのか、瓦礫が飛び、土煙があがっている。
「まさかアリスちゃんっ?!」
「・・・それは無いよぉ。馬で僕達を追い越して前にいる筈が無い」
じゃあ、何が有ったんだ?
爆発音に住人達が窓から顔を出したり、建物の外に出て来はじめた。
王宮に向かって走り続けながら、土煙の方を見上げていると建物と土煙の隙間から、青黒い花火の様な物が見えた。
その瞬間、さっきよりも大きな爆発音と地響きがはしり、一瞬遅れて建物と建物の隙間から爆風が襲い来る。
とっさに腕で顔を守り目を細めて、飛んでくる石礫をやり過ごす。
小石が目に入るし、砂や粉塵で口の中がザラザラに成る。
すると急に爆風が収まったので顔を上げると、ウルシュ君が私達の周囲に防御壁を張っていた。
「ごめんねイザベラ。ちょっと飛ばされかけて、防御壁を張るのが遅れちゃったよぉ」
「ううん。私なんて防御壁張る事自体が頭から抜けてたよ。ありがとう」
ウルシュ君が張ってくれた防御壁の中から、爆発の方向を見る。
近くの建物からは住人が跳び出して来ていて、爆発した方向から離れる様に駆けだし、その逃げる人達の波に逆らって騎士や冒険者達が爆発方向へと向かっている。
「どうするイザベラ。王宮へと向かう? それとも」
「爆発方向へと向かうわ。私、今の青黒い花火みたいなのをゲームで見たの」
逃げまどう人と駆けつける人達で混雑しているので、どう進むか考えていると、ウルシュ君がキックボードの上へと引き上げてくれる。
そのまま二人で防御壁を展開したまま上昇していく。
少しずつ爆発が起きている通りが見えて来るのと同時に、再び炸裂した青黒い花火の様な物を、はっきりと見下ろす事が出来た。
カラーズコレクターの、鬼畜シューティングゲームの弾幕みたいな攻撃魔法。
それを実写化したら多分あんな感じだろう。
自分を中心に、禍々しい大型の打ち上げ花火が広がる感じ。
それを見下ろしながらウルシュ君が呟く。
「・・・ああいう広範囲に広がる攻撃魔法は、あまり近くに人が寄って行って混戦になると、逆に危ないんだけどぉ、事情を知らない人は爆発方向に駆けつけて来るよねぇ」
確かに。
一番いいのは遠くからの狙撃かな?
いやいや、普通に倒したら次の身体に子爵の魂は移動するんだった。
「ウルシュ君、子爵の行った禁術の術者を倒す、正しい方法ってどうやるの?」
「肉体じゃ無くて、魂を倒すんだけどぉ・・・その方法までは分かんない。ゴースト系の魔物とは違うから浄化魔法じゃないしぃ。魂だから物理攻撃は無理だしぃ。魂だけに攻撃を加える様な魔法も知らないなぁ」
どうすりゃ良いんだそれは・・・
ヒルソン子爵の攻撃魔法のイメージは「虫姫さま」です(コソッ)