今の分かったの?
「ギース様とブライアンは、連れて行かない方が良いと思うよぉ」
私が悩んでいると、ウルシュ君がそう言って首を横に振った。
「そう? ウルシュ君がそう言うなら、連れて行くのは止めとくけど・・・一応、理由を聞いても良い?」
「いいよぉ。まず、イザベラの持っている沢山のアイテムや、能力を知る人を増やしたくないと言うのが一つでしょ~。もう一つは、さっきですら倒せなかった豚マスクと戦うのに、一度敗れた事の有る彼らを連れて行くのは、正直リスクが高すぎるよぉ。そもそも彼らの戦い方を知らないんだから、チームワークも何も無いよねぇ」
正論ごもっともです。ウルシュ君。
ウルシュ君が止めなければ、私は感情論だけで連れて行く所だったよ。敗者復活戦的なノリで。
「それじゃあ、置いて行くしかないわね」
「ふえぇ・・・ベラちゃん。それは駄目なのですぅ」
ギースとブライアンを置いて行く事を決定した所で、まさかのアリスちゃんから待ったがかかった。
「え? アリスちゃんは二人を連れて行きたいの?」
「違いますぅ。置いて行くのは良いのですがぁ、ただ置いて行くだけだと、中途半端に追いかけて来られたり、要らない事をしでかされて足を引っ張られるのが、物語のお約束なのですわぁ。明日のお昼まで目が覚めない様にしてから閉じ込めておくべきですぅ」
アリスちゃん・・・慎重すぎるよ。
誘拐犯から救出・保護されたばかりの彼らに対して、それは鬼の所業だ。
まぁ、主張している内容に関しては、言いたい事は分からなくもないんだけどさ。
「アリスちゃん。気持ちは分かるけど、もう少し平和的な方法を取ろう? 彼等も今回の事件を解決するために協力がしたいんだよ。危険が無いレベルで手伝えそうな用事を割り振って、そっちに行って貰うことにしよう」
「他の用事ですの? 例えばどんな?」
「と、言う事で、騎士団がルーシーを捕らえて連れて行ったので、ルーシーに呪術師組織の仲間が接触してこないか様子を見に行って貰えないかしら? そもそもギース様は姉との対決の為に跳び出して来たのよね? ここらで貴方達姉弟は話し合う必要が有ると思うの。ブライアン様にはギース様達姉弟が暴走しない様に付き添ってもらえると助かるんだけど・・・」
奥の部屋から出て来たギースとブライアンに、捕まったルーシーの状況を見に行ってほしいとお願いする。
それに対して、ブライアンは赤毛を振り乱しながら拒絶を返した。
「いや、俺が付き添ったところで、何の抑止力にも成らねぇから!! 任されても困る!」
確かに魔術師姉弟の対決に、魔法騎士の卵のブライアンが割って入るのは難しいでしょうね。
でも、大丈夫。
「ブライアン様の心配する様な争いには発展しないと思うから、大丈夫よ。牢を挟んでの対峙に成るだろうし、ルーシーは私のせいで瀕死の状態だから戦えないわ」
「なんで瀕死っ?! お前何やったんだよ?!」
「何もしてないわよ。真上に魔法を放ったのに、横に居たルーシーが、魔法が当たっていないにもかかわらず、ウッカリ即死しかけたのよ。防御系のマジックアイテムで一命を取り留めたみたいだけど」
「全然、まったく状況が掴めねぇ!!」
あれは私も予想外だったから、話だけ聞いて状況が掴めないのも仕方が無いわね。
こればかりは、決して私の説明の下手さのせいじゃ無いと思う。
その後は、納得がいっていない様子のブライアンと、全く一言も喋らないギースを、大急ぎでスネイブル商会の馬車に詰め込むと、騎士団へと送り出す。
ルーシーの収容先は分かんないから、騎士団で聞いてくれ。
だいぶ時間を取られたので、四人で大急ぎで廃工場跡に向かって走る。
瓦礫に生き埋めに成った状態から、自力で這い上がって来るのには時間が掛かるようで、私達が辿り着いた時点では、まだ豚マスク達は地上に出て来ていなかった。
遅いと呆れるべきか、自力で地面&工場の瓦礫の下から這い上がって来られるしぶとさを称えるべきか悩むわね。
ひとまず、色欲と怠惰で地下を覗き、明らかにアンデッド化してそうな人が居るので、浄化して消滅させる。
ついでに豚のマスクと化している、豚皮のアンデッドも浄化して消滅させる。
豚マスクが無くなれば、力尽きて這い上がっては来られないだろう。と思ったのに、一人だけ止まらないな。
多分、地下で戦った一番強い豚マスクの男だと思うんだけど・・・
さっきは落ち着いて鑑定出来なかったので、出来れば今のうちに鑑定がしたいのだけど、残念ながら同時に発動出来る魔眼は二つまで。
真っ暗な地下を見る為に、色欲と怠惰を使っているので、強欲王を発動出来ないもどかしさ。
「ベラちゃん・・・。これ、瓦礫ごとドッカーンってしたら駄目ですの? 」
ん? 確かに、それで良い気がして来たぞ?
他に捕らえられている人がいないかとか、なにが目的なのかと言った情報は、ルーシーと一緒に捕らえられた呪術師に聞けばいい事だから、奴が這い上がって来るのを待つ必要性は無いな。
そう判断して、アイテムボックスからウルシュ君特製の、魔石を使っていない爆撃アイテムを取り出そうとした時、クリス様から制止がかかった。
「・・・・・・アリス・・・それ、嫌な予感がする。・・・・・・止めておいた方が良い」
「クリス様、その嫌な予感って、どういう方向性で?」
「・・・・・・それは良く分からない・・・・・・でも、感情の流れと言うか・・・その倒し方じゃ・・・心が逃げそうな・・・・・・ボクも良く分からない・・・けど・・・・・・止めた方が良い」
心が逃げるってなんだ?
傲慢王の能力に、何かが引っかかったんだろうけど、ちょっとクリス様の会話スキルの低さのせいで、なにが言いたいのかサッパリ意味が分からない。
同じく意味が分からなかったらしいアリスちゃんとウルシュ君が、首をひねって考え込んだ。
「う~ん。心が逃げるかぁ。・・・・・・あっ!! 僕、分かったかもぉ」
「え? ウルシュ君、今の分かったの? どういう事?」
「僕、地下で防御壁を張りながら、豚マスクの鑑定してたんだけどねぇ。一人だけ名前が二重に成っていたんだぁ」
名前が二重? 私、そんな鑑定結果を今まで見た事ないんだけど、どういう事?
「不思議だったんだよねぇ。なんで名前が二重に成っているんだろう? って。もう少し詳しく調べたかったんだけど、イザベラと豚マスクの人が凄い速さで動き回っていたから、名前くらいしか鑑定結果を読む事が出来なかったんだよねぇ。時間もあまり無かったし。でも、クリス様のおかげで、名前が二重に成っている理由が分かったよぉ」
そう言うと、ウルシュ君は拾った石で地面に二人分の名前を書いた。
ライアン・ヒルソン
アーロン・ニック・ヒルソン
「『アーロン・ニック・ヒルソン』が現ヒルソン子爵の名前だよぉ。で、『ライアン・ヒルソン』は4代前のヒルソン子爵の名前。ライアン・ヒルソンはロゼリアル王国の魔術師団に所属していた呪術師で、初代ヒルソン子爵だよ。彼は、とある事件を解決して子爵位が転がり込んで来た人なんだぁ」
「なんで、その初代ヒルソン子爵の名前が、現ヒルソン子爵の名前に重なっているの?」
「ちゃんと鑑定できてないから、あくまでコレは予想だけどねぇ。多分、禁術。文献でしか読んだ事が無いけど、自分の血を引く人間に、代々憑依して行って、肉体を乗っ取る術と言うのが有るらしいよぉ。だから、ちゃんとした倒し方をしないと、その術者は次の身体へと逃げちゃうんだぁ。クリス様が言っている『心が逃げる』って、つまりそう言う事じゃないかなぁ?」
自分の血を引く次の肉体って・・・ヒロインのマリエタか、マリエタの異母姉妹である、ミリアーナとバーバラ姉妹か?
駄目じゃんっ!!
しかも、その三人以外に隠し子とか居たら、もうお手上げ。追いかける方法が考え付かない。
確実に逃げられる気がする。
「そ、その術を使っている術者を倒す『ちゃんとした方法』って、どんな・・」
私が言い終わらぬうちに、ウルシュ君の後ろの地面が噴き上がったかと思うと、土煙と共にヒルソン子爵が地上に跳び出して来た。
ヒルソン子爵は、驚いて振り返ったウルシュ君の首に喰らいつくと、その首の肉ごと装備していた『反魂の首飾り』を一本引き千切った。
首飾りを引き千切る際に、ウルシュ君の首か頭に負荷がかかったのか、それとも首の肉を食いちぎられたせいか、引き千切られずに残っていた『反魂の首飾り』が即死と判断したらしく、首飾りが砕け散ると共にウルシュ君は瞬時に蘇生されるが、ウルシュ君はそのまま前へと倒れ込む。
慌ててウルシュ君の身体を支えた所で、アリスちゃんの悲鳴が聞こえた。
「クリス様っ!! クリス様しっかりして下さい!!」