防御壁の中に撤退っ!!
ロゼリアル王国王都・北東地区、集合住宅街が並ぶ場所から離れた、王都の外壁が遠くに見える位置に、その廃工場はひっそりと在った。
その廃工場に音も無く接近する、四つの小さな影。もちろん、その影は私達だ。
これから行う事を、あまり多くの人に見られると後々問題が有るので、騎士達には声をかけずにコッソリと四人だけでやって来た。
「あれぇ・・・この工場、半年前に縫製工場に成ったばかりなのに、もう撤退しちゃったんだぁ」
ウルシュ君が声を潜めて、工場を見上げる。
それを聞いて、アリスちゃんは工場の中をそっと覗き込み、涙目で震えた。
「ふぇぇぇぇ・・・お化けが出そうで怖いですぅ」
「・・・・・大丈夫だよ。アリス・・・・出るのはお化けじゃ無くて、アンデッドだから」
「だったら大丈夫ですわぁ。アンデッドならドッカーンって出来ますからぁ」
クリス様の慰めに、すぐさま元気に成るアリスちゃん。・・・それで良いのか。
なんでもアリスちゃんは爆撃出来ないゴースト系が、苦手との事。
でも、アリスちゃん。地下墓地が有るかも知れないんだから、ゴースト系が出ないと決めつけて安心するのは早いんじゃないかな。出るかもよぉ~。
「さて、イザベラ。地下の様子はどう?」
ウルシュ君の言葉に、[色欲]で地中の様子を確認しながら、返事を返す。
「バッチリよ。この下が最奥の広間みたいな所だね。中で灯りを付けてくれているから、見やすくて助かる。今は下で撤退作業みたいなのをしてるみたいね。ギースとかブライアンを含めた、囚われている人があの辺り。合計五人。五色の人達が捕まっているね」
「多分、王都内がアンデッド騒ぎでゴタゴタしている間に、王都から離脱するつもりだったんだろうけどぉ、随分のんびりしているねぇ。王都内にアンデッドを放り込んだ時点で撤退作業を完了させてなきゃ駄目だよぉ。しかも欲を出して誘拐までして荷物を増やすんだから、目も当てられない」
ウルシュ君が呪術組織に駄目だししている横で、私は下の状況を見ながら一番良さそうな所を探す。
準備が整ってきた所で、ウルシュ君とクリス様、そしてアリスちゃんに『反魂の首飾り』を三本ずつ身に着けてもらった。
正直、材料も知りたくない様なヤバ気なアイテムだけど、ゲームでのカラーズコレクターの強さを知っている以上、身を守るアイテムとして、これ以上の効果の物は無い。
首飾りが奴らに見つからない様に、上からお揃いのバンダナを巻く。
更に、ゴテゴテと耐性系や緩和系、強化系のアイテムを重ね付けてもらう。
全ての準備が整った所で、ウルシュ君が囁くように確認する。
「皆、計画は頭に入ったぁ?」
それに私達三人は、頷きで返す。
「それじゃあ・・・行くよっ!! 用意っ!!」
その言葉に、アリスちゃんが地面に巨大フォークを突き刺し、そこに魔力を通すと、私達の足元に直径三m程の金色の魔法陣が広がる。
魔法陣が完成すると同時に、ウルシュ君が号令を出す。
「ドンっ!!」
「ですとろーーーいっ!!」
私達の足元で、魔法陣が閃光を放ち、爆撃魔法が下へ向かって炸裂した。
爆音と共に足元が崩れ落ち、私達四人は下へと落ちていく。
地面と一緒に落下しながら、土煙に紛れて、今度は威力を落とさずに浄化魔法を発動させる。
「え~と『王国民が困っている物に対してだけ浄化発動』っ!!」
滅茶苦茶な呪文なのは分かっているんだけど、ウルシュ君が私のレベルであれば、多分可能なんじゃないかと言ったので、信じてコレで行く。
なぜ、全て浄化では駄目なのかと言うと、必要な封印具や、召喚士に使役されている魔獣や魔物まで、浄化してしまう恐れがあるからとの事。
吹き飛ばされた地面と一緒に落ちている現状では、効果が有るのか無いのかサッパリ確認できないまま、目的の場所に到達し着地する。
その際、ウルシュ君を受け止めるのも忘れない。
アリスちゃんとクリス様は自力で着地している。
私は、ゾンビと戦うアリスちゃん達の元へ駆け付けるまで、二人は私と同じで戦闘経験が足りないからって心配していたんだけど、王妃様から訓練を受けている二人は、どうやら私より戦い方を知っているみたいだ。
心配するどころか、心強いよ二人とも。
着地と同時にウルシュ君を降ろすと、ウルシュ君とクリス様は土煙に身を隠しながら、状況が理解できずパニック状態で右往左往している呪術師達の横をすり抜け、囚われている人達の元へと走る。
辿り着いたと同時にウルシュ君が、囚われの人達と自分達の周りに防御壁を組み立て、更に地下空間が崩落しない様、地下壁を強化するように防壁を張る。
それを確認すると、アリスちゃんは『浮遊爆華』を頭上に展開させる。
『浮遊爆華』から『爆華弾』が放出するまで13秒。
その間に『浮遊爆華』に気付かれて、ウッカリ撃ち落とされない様に、土煙に紛れて呪術師を、ちぎっては投げ、ちぎっては投げして意識を逸らす。
意識を逸らしながら、豚マスクを被っている奴らの頭上にコッソリとシールドを張った。
『爆華弾』を浴びる事によって、MPを吸収されて回復・利用されたら困るからね。
だけど、豚マスクを被っている奴が、五人もいるのはどういうこっちゃ。
どれがヒルソン子爵なんだよ。しかも豚マスクはアンデッドのハズなのに、浄化されてないし。
あ・・・・豚マスク自体には『王国民は困って無い』し、『浄化魔法』は豚マスクに対して『攻撃魔法』だから、MP吸収されちゃうのか・・・。
厄介すぎだよっ!! 豚マスクっ!!
心の中で叫んだ瞬間、『浮遊爆華』が発動。
アリスちゃんが地面を崩落させてから、ココまで多分、三分前後。
疾きこと風の如く、侵略すること火の如くって、戦国大名も言っているし、相手が態勢を整えられないレベルで、物事を素早く進めて行くのが勝利への道ですよ!!
コレで、厄介な豚マスク以外の呪術師が、ある程度脱落するはず。
多分ルーシーや、ルーシーと一緒に居た呪術師みたいに、防御系のアイテムを身に付けているだろうけど、戦闘不能になるのは間違いなし。
とか、余裕かまして『爆華弾』が降り注ぐのを眺めていると、私の身体が横に吹っ飛び壁に激突する。
一瞬、衝撃で壁に張り付いたが、重力に従って身体が下に落ちる。が、綺麗に着地してやる。
自分の身体が吹き飛んだ原因を求めて振り返ると、豚マスクを被った長身の男が立っていた。
マスク越しに男と目が合う。
と、瞬きをする間もなく、すぐ目の前に男が迫っていた。
とっさに地面を蹴り上げ、男を跳び越えながらナイフを二本、男の背中に向かって投げる。
男は私が立っていた場所の壁を、ウルシュ君が張った防壁ごと蹴り砕きながら、後ろ手に私の投げたナイフをキャッチし、振り向きざまに投げ返して来る。
そのナイフを、『巨大ナイフ』を回転させて弾きながら、後ろに飛び退き男と距離を取りながら叫ぶ。
「アリスちゃんっ!! 防御壁の中に撤退っ!!」
「ふえぇぇぇっ!! 無理ですぅ!! さっき『浮遊爆華』でやっつけた呪術師さんが、全員ネックレスのアンデッドさんに変わりましたぁ!!」
アリスちゃんの言葉に、男から目を離さないまま[千里眼]で視界を変えて周囲を見渡すと、『反魂の首飾り』の粗悪品によって、『意識を保ったアンデッド』へと変わった呪術師が、次々と起き上がって来ていた。