仮、だなんて。
視点が、イザベラ→公爵→イザベラの順に変わって行きます。
ウルシュ君の持つスキルが分かった所に、お父様とお母様が応接間に入って来ました。
「スネイブル氏とご子息、そしてベラ、待たせて済まない。さっきは見苦しい場を見せてしまったな。」
お父様はそう言うと、ソファに腰かける。
倒れた時とは違い、落ち着きを取り戻している様ですが、両目と鼻が真っ赤ですよ。
泣いたのかしら・・・まさかね。
「ふふっ、この人ったら、”ベラがもう相手を連れて来た”って泣いて泣いて、会うのを嫌がって仕方が無かったのよ。ココまで連れて来るのに苦労したんだから。」
お母様が、お父様の横で微笑みながらバラす。
泣いて嫌がったんですか、お父様。そんな大きな図体で。
拗ねてそっぽを向かないで下さいよ。全く可愛く無いですから。
「ふんっ。そんな事はしとらん。」
どうやら、認める気は無い様だ。誰から見てもバレバレだけどね。
義父様に至っては、微笑ましい物を見守る姿勢でいますよ。
お父様は、それを知ってか知らずか、真面目な顔つきに成り、本題に入る。
「さて、お二人をお呼びしたのは、先程ウチの末娘、ベラの発言と、使用人から報告が有った、ベラの固有スキルと思われる物についてなのだが・・・。」
そこまで語ると、お父様は私の方に姿勢を向け、真剣な表情で聞いてきた。
「まず、ベラ。君が結婚したいと言った、そこに居る彼は、商人の息子で平民だ。その事は分かっているかい?」
「はい。分かっていますわ。」
頷く私に、お父様は、そうか、と一言こぼすと、深くため息をつき、言葉を続ける。
「お前は公爵家の娘で、有用性の高い固有スキルを持っている。これから先、条件の良い縁談が、沢山舞い込むだろう。その時に、彼と縁談を組んだ事に後悔するかも知れないが、その事もきちんと考えているかい?」
「もちろんですわ。私はウルシュ君以外の人と結婚する気は無いんですの。どんなに条件が良かろうが、お断りですわ」
こちとら、世界線越えの想いを抱えてんのよ。
私が結婚相手に望む条件はただ一つ。ウルシュ君で在る事だよ。
「そうか。スネイブル氏、聞いての通りウチの娘は、お宅のご子息との縁談を希望している様なんだ。」
お父様と義父様が向きあい、話し合いの姿勢をとる。
表情の硬いお父様と、感情の見えない営業スマイルを浮かべている義父様。
どうやら、私の出番はもう無さそうね。
一応、説得プランは練っていたんだけどな。
「そのようですね。我が家としましては、お断りする理由は何一つとして御座いませんので、後はそちらのご判断に、全てお任せしようと思っています。」
営業スマイルのまま、当たり障りのない返事をする義父様。
さっきの、我が家の嫁認定発言を考えると、歓迎してくれそうだけど
公爵相手じゃ、そう言うしか無いよね。
お父様はどうするつもりなんでしょうね。
駄目って言ったら、私が練っていた説得プランを出さなくては行けないわね。
プレゼンテーションなんてした事が無いから、緊張しない様に、心の準備をしておこう。
「ふむ。私としては、ベラには其れなりの相応しい所に、嫁に出したいと考えているが・・・。私を含め、ウチの家族は皆、恋愛結婚でね。それを考えると、この子だけに、自分の望む結婚相手を認めないのは、可哀想だと思う。」
貴族としては、自分の思い通りの結婚が出来ないのは、良くある話でしょうけど
我が家は、国内のパワーバランス崩すレベルで、権力持ちすぎているから、政略結婚は要らないでしょ。
「だが、ベラはまだ6歳の子供だ。今はこんな事を言っているが、大きくなるにつれて、好きな人が変わるのは良くある事。だから、すぐに婚約はさせられない。この子の将来の選択肢を奪いたくないんだ。」
くっ、対応としては、あながち間違ってないから、強くは批判できない。
子供は確かに、好きな人がコロコロ変わるけどさ、私の中身は本当は大人なんだっ!!
まぁ、大人だからって、好きな人が変わらない訳じゃないけど、少なくとも私は変わらない!!
「と言う事で、そちらのご子息、ウルシュ君を、ベラの婚約者候補の一人、と言う事にしたい。よろしいだろうか?」
「はい。それで構いません。ウチの息子に、チャンスを下さっただけでも、有り難い事です。」
「ベラ、お前もそれでいいね?」
よくない。
すぐにでも婚約して、ウルシュ君に変な虫が付かないようにしたいのにっ!!
頬をプクッと膨らませてお父様を見上げ、無言で不満である事を訴える。
言葉にしないのは、お父様の主張も分かるし、自分の我儘だと分かっているから。
無言で頬を膨らませて怒る娘に見上げられ、困り果てる。
ほっぺをリスの様に膨らませている娘の姿は、とても可愛らしい。
だが、可愛い末娘を、いつまでも怒らせたままではいられない。
嫌われてしまうかもしれんしな。
怒る娘に対して、どうフォローを入れようかと考えながら、周りに視線を巡らせた時
娘の想い人の、ウルシュ君とやらと視線が合った。
一瞬、背筋がヒヤリとする。
父親とよく似た、開いているのか良く分からない細い目。
その奥にある、こちらからは見えない瞳から、刺す様に向けられる、鋭く冷たい視線。
だがその表情は、人畜無害な羊の様な、ぬけた笑顔を張り付けている。
たった6歳の子供が、だ。
なるほど、まだ6歳にもかかわらず、スネイブル家の性質が出ているのか。
イザベラを、すでに自分の物だと、自分の『宝物』だと認識しているんだな。
だから嫌だったんだ、陰でファフニールだなんて揶揄される商人の一族と、愛娘の婚約を認めるのは。
ウチのイザベラは、なんでこんな厄介な男に、引っかかってしまったのか。
出来れば、婚約が本決まりになる前に、イザベラには気を変えて欲しい。
「ベラ、そんな顔をしても駄目だ。そもそも6歳で婚約なんて、まだ早い。お前の姉様も兄様も、在学中に婚約が決まったのだから、そんなに急いで婚約をする事は無いんだ。」
「そうよベラ。婚約者候補とは言ったけれど、2人が想いあっている以上、仮婚約してるみたいな物よ。2人の気持ちさえ変わらなければ、そのまま婚約できるのだから。」
私の発言に、ますます頬を膨らませていた娘に、妻がフォローを入れると
娘はこれ以上ごねても、無駄だと悟ったのか、肩を落とした。
そんなに落ち込まないでくれ。
それもこれも、お前の為でもあるんだよ。ベラ。
「そんな・・・・。仮、だなんて。」
馬車に乗って帰って行くウルシュ君と義父様を見送って、大きくため息をつく。
「仮」婚約か。
まぁ、仕方が無いかな。
完全に反対されなかっただけでも良しとしよう。
あの後、お父様とお母様、そして義父様の3人の話し合いで決まったのが
私とウルシュ君の気持ちが変わらずに、15歳に成ったら本婚約。
そして、魔術学院卒業するまでの3年間のうちに
更に気が変わる事が無ければ、卒業後に結婚する事になる。
本婚約まで、あと9年。長いわ~。
9年後と言えば、ゲーム開始する時期ね。
ゲームのイザベラは、魔法学院に1年しか居られないけど
ウルシュ君と結婚する為には、何とか3年間の学院生活を無事に終えて、卒業しなくては。
その為には、まず、第2王子と婚約するのは絶対に避けて
ウルシュ君の婚約者として入学する事が第一目標。
そして入学後は、ウルシュ君に変な虫が付かない様に、周りを威嚇しつつ
ゲームキャラクター、特にヒロインとの接触を避けて、魔の一年目を無事乗り越えるのが第二目標。
さらに、2年目、3年目に起こる予定のイベントを無事、ウルシュ君と生き抜き
卒業する事が最終目標。
そうと決まれば、『ゲームのおさらい』をいたしましょう。
※ファフニール:宝物(黄金)に執着し、抱え込んでいる毒竜。
がはぁっ!!また誤字・・・・。
誤字報告、本当に有り難いです。訂正しました。有難うございます!!
感想も本当に嬉しいです!!
ネタバレ投下しそうなんで個別返信はしていませんが、有り難く読ませて頂いています。
この子達を気に入って頂けて嬉しいです。