見つけ出せる気がしないよ
相変わらずウルシュ君は、情報を整理・把握する能力がすごいな。
王都の地理や建物の場所を良く知らないって言うのを差し引いても、今のエピソードで一体何が分かるのか、私にはさっぱりだよ。
どう判断したのかはさておき、アジトの場所が判明する事は良い事だから、答えを聞こう。
「え~と・・・呪術師のアジトはどこに在るの?」
「まぁ、簡単に言えば『地下』だねぇ。ねぇイザベラ。ベノゲーデン帝国って知ってる?」
ベノゲーデン帝国? 近隣にそんな国は無かった筈だけど。
まったく自分の知識に無いので、素直に首を振り、知らないと意思表示する。
「ベノゲーデン帝国って言うのは、千年位前にココにあったとされている国だよぉ。内乱だか革命だかが起こって消えたと言われている国だけどねぇ。その後も何度か革命やらなんやらで国が変わってねぇ、その戦火によって殆ど記録に残って無いんだけど、呪術系や魔道具の生産が盛んだった国なんだってぇ。多分、トレヴァー義兄さんが調べているネックレスも、その国で創られたとされているアイテムの一つだよぉ」
そう言えば、家庭教師から八百年前にロゼリアル王国が建国されるまで、なかなか国が安定せずに変わって行ったって聞いたな。
頻繁に国が変わりすぎているのと、幼い公爵令嬢には特に必要な知識でも無いから、その時はサラッと流されていたんだけど・・・・
「そのベノゲーデン帝国が、今回の呪術師組織のアジトと何か関わりが有るの?」
「確証は無いんだけどねぇ。結構マイナーな話なんだけどぉ。『王都の南地区の地下には、封鎖されたベノゲーデン帝国の皇族の墓地があって、そこにはアンデッドが守る貴重な魔道具のレシピが眠っている』って言う都市伝説が有るんだぁ」
いろは歌に隠された、徳川埋蔵金伝説みたいな話が出て来たな。
この国にもあるんだ、都市伝説。
「実際に在るの? ベノゲーデン帝国の皇族の墓地が地下に」
「スネイブル商会の先々代の会長が生涯かけて探したけど、見つからなかったよぉ? 先々代会長である僕の曾祖父さんは、その都市伝説に執着していたらしくてぇ、だから僕もその都市伝説を知っていたんだぁ」
なんだろう、生涯かけて結局見つからなかったとはいえ、男のロマン的な何かを感じてカッコイイわ。
でも、曾祖父さんが見つけられなかった墓地が、本当に存在するのだろうか?
その疑問が顔に出ていたらしく、ウルシュ君が続けて説明する。
「ベノゲーデン帝国の皇族の墓地かどうかは分からないけどぉ、アジトは王都内で有る事と、地下である可能性は高いと思うなぁ。まず、ヒロインがどれだけ早く家を出たのか知らないけどぉ、ギースが家を出るまでの間にそこまで遠くに行っていないと思うんだぁ。まず、王都からは出て無いと思うよぉ。それなのに自分を運んでいる犯人の姿も確認できない位に暗い場所を移動していると言うのは、地下通路か何かだと考えた方が良いかなぁ? って思って」
確かに、ゲーム映像では暗くて長い通路を運ばれて行っていたけど、その段階でギースが家を出ようとしているんだから時間は朝よね。
それなのに、窓から漏れる光も無く、髪飾りの輝きだけがポツリと浮かんでいたわ。
あんなに長い直線通路なのに、窓も無いって言うのは地下じゃ無ければ変かな?
「さらに言うとぉ、カラーズコレクターが弾幕みたく派手に魔法を放てる広さを持っている場所なのに、窓が無い建物なんてぇ・・・王都には無いよぉ?」
確かに、あれだけの魔法を放とうと思えば、王国立の歌劇場レベルの広さが無いと無理だけど、そんな大きなアジト目立ってしょうがないし、廃工場みたいな建物としても、まったく窓が無いのは不自然。
言われてみれば、納得のいく話ばかりだ。やっぱりウルシュ君が言う様に、地下に違いないっ!!
「凄いよっ!! 相変わらず冴えてるよウルシュ君!! 名探偵だよ!!」
ウルシュ君の名推理ぶりに感動して、両手をシェイクしながら褒めたたえる。
褒めたたえては居るけど、私本当に語彙が無いな。凄いしか言えんのか。
だけど、そんな語彙の足りない褒め言葉に、ウルシュ君は照れて前髪をかき混ぜる。
「僕がベノゲーデン帝国の皇族の墓地だと思ったのは、そのネックレスのアイテムを創る為のレシピか文献を手に入れている事とぉ・・・このアンデッド騒ぎかなぁ。王国民に殆ど被害が無さそうなのに、この大量のアンデッドはどこから湧いて来たんだろう? って思って」
あぁ、都市伝説だと、アンデッドが貴重な魔道具のレシピを守っているんだよね。
あのネックレスがベノゲーデン帝国時代に創られた魔道具なのかもしれないのかぁ。
興味を引かれて、トレヴァー兄様が調べているネックレスに視線をやる。
ウルシュ君がネックレスに付いて、あまり語りたがっていなかったけど、あれってどんなアイテムなんだろう?
コッソリと鑑定してみよーと。
『反魂の首飾り』※粗悪品 ▽
────っづあっ?! これ・・・・
私、持ってるーーーーーーーっ!!
しかも粗悪品じゃ無い、完成された物を大量にっ!!
コッソリ鑑定していたのも忘れて、勢いよくウルシュ君の方を振り返る。
焦っている私の表情をみて、私がネックレスを鑑定した事を察したウルシュ君は苦笑いを浮かべて、頷く。
ちょっ!! なんて事だゲームウルシュ君!! 君はなんて物を完成させているんだっ!!
そして、そんな都市伝説というか、伝説級の品物をガチャの景品にぶち込んじゃ駄目でしょっ!!
そんなアイテムの入ったガチャを、魔術学院内で生徒相手に売りさばいちゃ駄目でしょっ!!
なんなのゲームウルシュ君!! 君、本当になんなの?!
これ、ウルシュ君に初めて『反魂の首飾り』見せた時に、絶対に所持している事を他人に言うな、って言ってた本当の意味が、今ようやく分かった気がする。
単純にアイテム効果だけが問題なのかと思っていたけど、そう言う問題じゃ無かった。
このアイテムの背景および、多分だけど製造方法がヤバい。
多分『魔力喰らいのマスク』より、製造方法がヤバい。そんな予感をひしひしと感じる。
この『反魂の首飾り』を創り出す奴は、外道だと言っていいレベルで危険人物だとも。
え? もしかして、あの日あの瞬間にウルシュ君と出会って、プロポーズしていなかったら、ウルシュ君ってば、あの豚マスクを創ったり、この危険な匂いのする首飾りを創る道に進んでいたって言う事か?
うおぉぉぉぉっ!! ヤッベェェェェ!! ギリギリセーフッ!!
よくやった自分! よく前世の記憶を取り戻したよ自分!! 褒めて遣わす!!
一人でガッツポーズを繰り返していた私を眺めていたウルシュ君は、私との距離を詰めて寄り添うと、小さな声で語りかける。
「イザベラはさっき、僕に『ずっと見捨てずに私の傍にいてね』って言ったよねぇ」
急に何なんだウルシュ君。確かに言ったけどさ。
さっき、カラーズコレクターのことを忘れていた自分の記憶力のヤバさと、頭の悪さを改めて知った時に言ったよ。
それに対して、ウルシュ君は『当然』とだけ返してくれて、かなり嬉しかったんだ。ふふ。
そう思い出しながら頷くと、ウルシュ君は困ったように笑う。
「その言葉は僕が言うべき言葉でもあるんだぁ。僕にとってイザベラは良心。僕が間違った方向へ行かない様に、抑えてくれる大切な枷。イザベラが僕の傍に居てくれて『凄いっ!!』ってキラキラした笑顔を向けてくれる限り、僕は道を間違えずにいられる。ねぇイザベラ、ずっと見捨てずに僕の傍に居てねぇ」
「当然」
むしろ、よろこんでっ!!
そこまで言われて手を放す馬鹿が居るもんか。望むところだよ。
私がウルシュ君の良心なら、ウルシュ君の人生が終わる瞬間まで横に居座るよ。
あと、なんか・・・ウルシュ君より先には死なれん気がしてきた。
ウルシュ君を置いて逝ったらヤバい気がするので、ウルシュ君より長生きしよう。そうしよう。
私の返答に安心したように笑ったウルシュ君は、前髪をかき混ぜながら照れくさそうにしながら話を戻す。
「え~と・・・それでぇ。アジトなんだけどぉ・・・多分移動時間を考えるとぉ、ヒロインの家から近いんじゃないかなぁって思うんだよねぇ。あとヒルソン子爵の屋敷の位置からも考えて」
ふむ。確かマリエタの家はウルシュ君の家の近く、私が鬼ごっこした王都東地区の商業地区にある集合住宅だったハズ。
「そしてぇ、ベノゲーデン帝国の皇族の墓地は、都市伝説によると南地区。だけど南地区は曾祖父が調べ尽したから多分ないよぉ。だから東か北か中央地区なんだけどぉ、中央地区は王宮が有るから多分違うんだよねぇ。王宮は神聖な球体型のシールドが張られていて、地下もシールドの範囲内だから、アンデッドは存在できない」
「じゃあ、東か北よね。あれ? さっきアリスちゃんが言っていた、カラーズコレクターが向かった方向って、西地区方面じゃない?」
「西地区は魔術学院と、騎士学校があるから違うんじゃないかなぁ。あそこも王宮ほどじゃ無いとは言え、シールドが張られているし、怪しい人間がウロついていたら目立つよねぇ。さらに、あからさまにアジトの方向に向かうとも思えないからぁ、引っかけじゃ無い?」
確かに、アリスちゃんの話だと、アンデッドを引き連れるといった目立った登場していたみたいだし、欺く意図があるのかもしれない。
「じゃあ、東か北か。広いからせめてどちらか絞る事が出来れば良いよね」
う~ん。とウルシュ君と二人で考え込む。
しばらくして、ウルシュ君がポツリと呟く。
「もしかしてぇ・・・北かなぁ?」
「北? 何か思い当たる事でもあった?」
聞くと、ウルシュ君は自信なさげに答える。
「思い当たる事は無いんだけどぉ・・・。さっきの引っかけって言ったのが、これにも当てはまるんじゃないかと思ってぇ。まず『南地区の地下に墓地がある』って都市伝説があれば、ウチの曾祖父みたいに南地区を探し回る人が現れるでしょ? もし、その墓地を隠したい人達が居たら、その都市伝説をそのままにしていないと思うんだぁ。だから、その都市伝説の『南地区』が、そもそも引っかけなんじゃないかと思って」
「だから、南の真逆に位置する北じゃないかと?」
「うん。まぁ、安易な考えだけどねぇ」
ちなみに王都の東南地区に、蒸気機関車の線路が通っていて、南地区は交易が盛んな地区。
北は農業・畜産地区でもあり、チーズとかベーコンなどの食品加工系の工場がこの地域には多い。
「農場や牧場の地下に、アンデッドが守る失われた帝国の墓地があるのは、なんか微妙。大丈夫かな? 農作物」
「う~ん。確かにまともに植物や動物は育ちそうにはないかぁ・・・。あ、そう言えば北東地区に農作物が育たない地域があったなぁ。工場建ててもすぐ倒産して閉鎖されてぇ、集合住宅も出来たんだけどぉ、人の出入りが激しくて居つかないんだよねぇ」
「それ・・・あからさまに怪しくない?」
「うん。なんで、すぐに思いつかなかったんだろぉ・・・でも、人が居つかず出入りが激しいけど、誰も住んでない訳じゃ無いんだよぉ? 治安が若干悪くてガラの悪い人が多いけどぉ、そこそこ賑やかなんだぁ。国が安定しているからスラム化もしてないしねぇ」
んーー。賑やかなのかぁ。
まぁ、ベノゲーデン帝国が在ったのは、千年前の話だしなぁ。
前世の日本でも、大昔の合戦場に住宅出来てたりしたしなぁ。
「賑やかな地区なら、いよいよ探すの大変そうだね。どこに地下への入り口があるのか分からないし。特に建物の中に入り口が隠されていたら、見つけ出せる気がしないよ」
そう頭を抱えると、ウルシュ君は不思議そうにする。
「え? 入り口は見つけなくて良いよぉ? とりあえず、カラーズコレクターとの最終決戦になった広い地下ホールだけ見つければいいんだよぉ。イザベラは前回ワームが地下に居るのを見つけたでしょ? その要領で通路じゃ無くて、ホールを見つければ済む話だよぉ」
え? そうなの? それなら簡単に見つけられる気がしてきたわ。