見に行ってみるよー
ブライアンは騎士団長である父親から、剣の稽古を受けたり、騎士団に混ざって雑用するなど、王宮の訓練所に出入りをしていたため、時々王宮の魔術師団を訪ねてくるギースとは幼い頃からの付き合いだ。
誘拐されそうになった日から、ギースは日中、魔術師団長である父親の目の届く魔術師団で過ごすことになっている。
その幼馴染のギースを訪ねて、ブライアンは魔術師団に来ていた。
「アレから変な奴は来たか?」
そう声をかけると、ギースは図鑑から顔を上げ、無言で首を横にプルプルと振る。
「そうか、変な奴を見かけたら、必ず親父さんか、騎士団に助けを求めるんだぞ?」
ギースはそれに無言でコクリと頷く。
その様子を、ブライアンは頬杖を付いて眺めながら、内心ため息を吐いた。
・・・コイツ、豆知識を喋るとき以外は、本当に喋らねぇな。
俺、何度も顔合わせてるのに、一度も普通の会話をしている声を、聞いたことがねぇぞ。
何か喉に、声が出なくなるような傷や古傷でも有るのか?
そう思ったブライアンは、ギースの首元を覗き込み、話せない原因を探る。
至近距離で首元を覗き込むと言う、不審な行動をしているブライアンを、顎を少し上げ、困惑した表情でギースが見つめているが、考え事をしているブライアンは気付かずに、自分の思考に入り込んでいた。
ふ~ん。特に声が出なくなりそうな怪我とかは無さそうだな。
まぁそうか。そんな怪我したら魔術師団長の親父さんが、何とかして治療するわな。
ギースの親父さん、魔法がなんかスゲーもんな。こうドカーンって。
色んな場所壊しまくって、宰相とかいうオッサンが腹がイテェって、いつも倒れてるもんな。
多分、ギースの声が出なくなったら、ギースの親父がギースの喉を、魔法でドカーンって治すハズ。
「じゃあ、なんでオメェ喋んねぇの?」
思いつくままに質問をするブライアンに、ギースは会話の前後の繋がりが分からず、無言で首をかしげる。
ブライアンは無言で首をかしるギースと、見つめ合った。
そのまま5分経過。
「だぁーーーーっ!! オメェなんか喋れよっ!!」
両拳を天井に向かって突き上げ、ブライアンが叫んだと同時に、どこからか爆音が響き、建物が揺れた。
ブライアン達のいた室内の照明が、大きく揺れ、天井から何かがパラパラと落ちてくる。
「え、何だ? 何が有った?」
とっさにテーブルにしがみついていたブライアンは、嫌な予感に襲われ、呆然としているギースを引っ捕まえるとテーブルの下に飛び込んだ。
その瞬間、2回目、3回目の爆音が響き、建物が再び大きく揺れた。
テーブルの下で這いつくばり、必死に衝撃に耐える。
テーブルの上に落ちて来た照明の破片が、床に飛び散り、ブライアン達が避難しているテーブルの下にまで転がって来るが、二人は明りを失った暗い部屋で、爆音と衝撃が収まるのをただただ待った。
どの位経っただろうか、爆音が収まり静けさが戻ると、ブライアンは恐る恐るテーブルの下から出た。
そんなブライアンを追って、ギースもテーブルの下から這い出て来る。
ブライアンはギースに、手で合図を送ると、静かにドアの近くへと移動し、外の気配を探った。
しばらく静かだった廊下の気配が、徐々に騒がしくなり、あちこちに走り回る大人たちの様子を感じ取れるようになると、二人はソロリと部屋の外へと出た。
ブライアンは慌てて走り回る大人達に聞き取れないよう、小さな声でギースに話しかける。
「おい、ギース。なんかあったみたいだぜ。さっきの音、どこからだろうな。お前分かるか?」
それにギースは頷きで答えると、爆音の聞こえた方向を指さす。
ブライアンは、その指さされた方向を見る。
「あっちか。王宮側だな。」
そう呟くと、ブライアンはしばらく考え込んだ後、いたずらを思いついた悪ガキの様な表情で笑う。
「なぁ、ギース。見に行ってみないか?」
ブライアンの提案に、ギースは無言でコクリと頷く。
ブライアンはそれに更に頷きで返すと、騒ぎの中、魔術師団の施設をギースと一緒に走り出した。
魔術師団の研究室に先日騎士団によって持ち込まれた、呪術師組織のアジトの一つで発見されたという、未完成のマジックアイテムと思われる首飾りの調査に、私、ニコライは連日追われていた。
ここ数日は、研究室で仮眠を取りつつ、魔術師団の建物内だけで生活している。
まぁ、魔術師団の建物から出ないのは、今に始まった事じゃないけどね。
今日も新たに読み取れた、首飾りの術式を部下と共に記録していると、突如、轟音と衝撃に部屋が揺れた。
物品が崩れ落ち、騒然となる研究室。
慌てた様子で、数人が扉へと向かい、廊下を覗き込んでいる。
どこかで魔術の暴発でも起きたのかと思い、様子を見に行くため、首飾りを仕舞おうと保存用の入れ物に突っ込むと、保管庫へと向かうため姿勢を変えた。
と、その瞬間、再度襲ってきた建物を揺らす衝撃に膝を突いた。
轟音が連続して鳴り響いている様子を見るに、コレは魔術の暴発では無さそうだと、床に膝をついたまま予想をつけていると、一緒に首飾りの記録を取っていた部下が、怯えた様子で叫んだ。
「ニコライ室長、なんでしょうコレっ!!」
聞かれたところで、私に分かるわけないでしょ。
今の時点で、状況を判断するために持っている材料は、私も君も一緒なんだから。
「う~ん。なんだろねー。」
首をかしげて、笑って答えると、部下から叱責が飛ぶ。
「室長っ!! こんな状況で、なにヘラヘラしてるんですかっ!! 様子を見に行ってくださいよっ!!」
酷いな。一応、私が上司なのに・・・・。
「そう言われてもねぇ? この揺れのなか立ち上がる事すら出来ないよ。私も必死なんだよー?」
部下とそんなやり取りをしていると、轟音がやんだ。
状況を把握して来てくれとせっつく部下に、首飾りの入った入れ物を預けると、廊下に出る。
正直、状況を把握するのは、研究室室長の私がする仕事じゃないと思うんだよね。
まぁ、あのまま研究室にいて、避難指示とか遅れて問題に成ると面倒だし、情報だけでも手に入れておこうと、素直に現場へと足を運ぶ。
通りすがりに会う団員や職員に、騒ぎの位置を聞きながら、進んでいくと向かいから団員が走ってきた。
「あっ!! ニコライ室長、良いところにっ!! 大変ですっ!! ブルネスト侯爵家の令嬢が、第二王子と一緒に入り口を爆破し、そのままこの施設に侵入しましたっ!! 既に玄関ホール及び一階の半分が、彼女達によって制圧されてますっ!!」
え・・・なにそれ。意味が分からない。
聞きたい事が有りすぎて、もはや何から聞いて良いかが分からない。
まず、入り口を爆破って何だ?
普通にドアを開けて入ってよ。
第二王子が一緒なら顔パスで入れるでしょ?
あと、なにすんなり魔術師団の施設を、子供二人に短時間で制圧されてんの?意味不明なんだけど。
って言うか、イザベラに続き、最近の6歳児ってやる事が派手すぎて、オッサンの私にはついて行けない。
いや、まて。落ち着こう。
まず、どうして襲撃されたんだ? 理由は?
「第二王子と、ブルネスト侯爵家の令嬢がココを襲撃って ・・・どうして?」
私の疑問に団員は首をかしげる。
「さぁ? それが良く分からなくてですね。とにかく『魔術師団長を出せ、もしくは魔術師団長の自宅の場所を吐け』の一点張りなんですよ」
「え? 団長の自宅の場所を吐けとか言ってるの? 最近の令嬢は怖いなー」
思わず遠い目をした私に、慌てた様子で団員は両手を振った。
「あ、いや流石に『吐け』とは言って無いですけど・・・。あ、あと他に一人、二人を引き留めようとしている糸目の少年が一緒に居るんですよ。僕の記憶が正しければ、多分彼は、スネイブル商会の子じゃないかと思うんですが・・・」
続けて団員が寄こした情報に、意識を戻される。
「ん? スネイブル商会の糸目の少年?」
「はい。とりあえず、僕は団長を探しに行ってきますけど、ニコライ室長はどうされますか?」
「んーーー。実は”彼”にはまだ会った事ないから、その現場の様子を見に行ってみるよー」
「そうですか、お気をつけて、では僕はちょっと団長を探しに行ってきます」
そう言って、駆けて行った団員を見送って、私は過激派の少年少女達が居ると言う一階へと足を運んだ。
誰目線で書くかに悩んで、難産。
やっとこさVer1の攻略対象が揃います。