どうして誰も止めなかったのっ?
私の放った雷属性魔法によって、天井どころか屋根まで吹き飛んだ、いや、壁の一部も吹き飛んだ建物は、もはや建物として意味をなさずに、石壁の囲いの様に成っていた。
ちょっとした、威嚇射撃的なつもりで、地下から一階に繋がる穴を開けて、跳び上がってその穴から脱出するつもりでいたのにだ。
私、大技しか使えないんじゃ、魔法は最後の切り札にするしか無いじゃない。
とても視界の良くなった天井から、星空を見上げながら虚ろな目で佇む。
え?呪術師やルーシーはどうしたって?
建物経由で感電して、瀕死の重体で倒れていたので、拘束した後に治癒魔法で中途半端に治して、その辺に転がしています。
はい。完全に治して反撃されると面倒だから、中途半端に治してます。今現在も意識不明のままです。
どうやら彼らは、魔法攻撃耐性のあるマジックアイテムを身に付けていた様だけど、さっきの雷魔法の威力に負けて、アイテムが全て焼き切れてしまったらしい。
アイテムを着けていたから瀕死で済んだけど、これ着けて無かったら全員死んでたな、確実に。
彼らに向けて放った魔法じゃないんだけどなぁ・・・。近くに居るだけでこの威力かぁ。
もう、攻撃魔法は封じよう。禁じ手だ禁じ手。
そうして、しばらく星空を見上げていると、ウルシュ君と騎士団が駆け付けたのだった。
「結構、早かったね、ウルシュ君」
馬車の上に腰かけて、引っ立てられていく呪術師達と、ルーシーを横目で見ながらウルシュ君に声を掛ける。
雷を見て王都から駆け付けたにしては、あまりに早い到着だ。
「うん。イザベラがポールを置いて行った後、直ぐにポールが襲撃されてねぇ、ポールが重傷を負って青いカツラを奪われたらしいんだけどぉ、状況報告の当番で隠れてたウチの従業員が、一部始終を見ていて報告をしてくれたんだぁ」
相変わらず何なんだろう、スネイブル商会。
状況報告の当番って、ふわっとした言い方してるけど、つまり監視とか隠密とかでしょ、ソレ。
商会の従業員がやる事じゃないよね。それも当番制で。
「でもココまで、その状況報告の当番の人が追跡してた訳じゃ無いんでしょ?誰かが尾行してる感じは無かったんだけど、ウルシュ君はどうしてこの場所が分かったの?」
「うん。ルーシー嬢がイザベラを連れて行った辺りで、状況報告の当番の人は、報告に走ったみたいだからねぇ。この場所が分かったのは指輪だよぉ」
指輪?指輪が理由って何だろう?と思い、ふと自分の指を見ると、山小屋でウルシュ君から貰った指輪が光っている。
これって、自分のステータスが見れる指輪じゃ無かったっけ?
・・・・まさか。
「イザベラは自分でステータスチェックが出来るから、その機能は要らないでしょ?だからその機能は抑えて、居場所が特定できる機能を指輪に付けておいたんだよぉ~」
なんてこったいっ!! ウルシュ君に、知らない間にGPSを身に着けさせられてたっ!!
何処に居てもウルシュ君には分かるって言う事かっ!! まぁ、良いや!!
「さて、そろそろイザベラを連れて帰って、無事な姿を見せてあげないとぉ、王都が火の海に変わるから急がないとねぇ」
ビックリして指輪を見つめていた私の横で、ウルシュ君は物騒な発言をした後、両手を組んで伸びをする。
「へ?何で私が無事な姿を見せないと、王都が火の海に成るの?」
「う~ん。簡単に言うとねぇ。イザベラ誘拐の報告が伝わった時に、クリス様とアリス様がいたんだけどぉ・・・止める間もなくアリス様が走り出してぇ、魔術師団を襲撃してぇ、魔術師団長の邸を聞き出した後、王宮を飛び出して行ったんだぁ・・・・クリス様を連れて」
一瞬、ウルシュ君が言っている事が理解できずに思考が止まる。
思考が止まり固まったままの私を置いて、ウルシュ君は馬車の上から飛び降りると、御者台に座り、馬車を王都に向かって走らせ始めた。
走る馬車の上に座って夜風を浴びていると、徐々に思考がクリアに成って来る。
え~と・・・アリスちゃんが、魔術師団を襲撃して・・・
「魔術師団を、アリスちゃんが襲撃ーーーーーっ?!」
「あははぁ~。イザベラやっと旅立っていた意識が帰ってきたねぇ。おかえりー。」
「えっ? っちょ!! なんでそんな事にっ? どうして誰も止めなかったのっ?」
「あははぁ、止められる人が居なかったのとぉ、僕も止めようとしたんだけどぉ、なんかもう、無事なイザベラを直接その目で見るまで止まらないなぁ・・・って感じだったからぁ、王都は魔術師団の人達に任せてイザベラを迎えに来るのを優先したんだぁ」
なんてこったい・・・。
私が呑気にルーシーに付いて行った所為で、王都が爆破されてしまう危機に陥ってしまうなんて。
まったく予想もしていなかった・・・。
「えーと、王都を魔術師団に任せたって言う事だけど、騎士団は?」
「騎士団は、教会が呪術師組織に襲撃されるって言う情報を掴んでいたから、教会やその周辺の警護してたんだけどぉ、多分、今頃は呪術師と交戦中かなぁ? 憲兵や衛兵はその分手薄になる王都の守りの応援に回っているよぉ。」
なるほど、ルーシーが言っていた、教会が呪術師に襲撃されて~・・・って言うのは本当の話だったのか。
実際には襲撃が騎士団によって防がれているみたいだけど。
「でも騎士団が全て教会に行っている訳じゃ無いんでしょ?」
「そうだねぇ、一部だけだねぇ。残りの騎士団は憲兵と一緒に、王都内に潜伏している呪術師組織を追っているっていうのとぉ・・・この混乱に乗じて闇ギルドの残党が変な動きをしない様に、警戒しているみたいだよぉ。なんか珍しい能力を持った子供を、闇ギルドが王都内に招き入れようとしているって言う噂を、ウチの商会も掴んでいるしねぇ・・・なんかその関係でも、騎士団は忙しいみたいだよぉ」
なんだ、その三つ巴みたいな状況は。
VSアリスちゃんに、VS教会襲撃呪術師組織、VS王都内潜伏呪術師組織、VS闇ギルドって・・・混乱しすぎだよロゼリアル王都。
その中でも一番被害を出しそうなのが、親友のアリスちゃんだと言うのが、頭痛の種だ。
とにかく王都でアリスちゃんと合流して、アリスちゃんの暴走を防ぐだけでも、騎士団や魔術師の負担をかなり緩和出来るだろう。
とりあえず、アリスちゃんに私の無事を直ぐに理解してもらえるように、殆ど落ちかけて斑に成っている髪の色を、綺麗に落とす事にした。
馬車の上で仁王立ちに成り、髪色を元に戻していると、振り返って困ったように私を見上げたウルシュ君が、声を掛けてくる。
「ねぇイザベラ。そろそろ馬車の上から降りて、馬車の中か、御者台に移動しない?」
理想:イザベラの見せ場を作りたい。
現実:イザベラを強く設定しすぎて、敵と勝負に成らなずに見せ場が無い。
多忙の原因の2つが片付いたので、ゆっくり羽を伸ばしてました。スミマセン。
相変わらず定時には帰れてませんが、心の休暇も取れたので、投稿を増やしていきたいと思います。
お待たせしまして、どうもスミマセン。