一言一句、違わずに覚えているわよ。
「確認したい事が有るのですが、よろしいでしょうか?イザベラ様。」
放心状態が解けたらしい義父様が、笑顔で声をかけてくる。
凄い笑顔だ。揉み手まで始めそうな勢いのある、笑顔だ。
「かまいませんわ。なんでしょう?」
「その『時空間魔法』と言うのは、術者が移動すれば、収納された物も一緒に移動する、と考えて良いのですか?」
「もちろんですわ。収納した場所から、遠く離れた所に移動しても、取り出す事が出来ますわ。」
前世のゲーム等の知識が有り、慣れている者からすれば
何をそんな当たり前の事を・・・と思うだろうが
彼等からしてみれば、初めて目にする未知の魔法だ。疑問点が多い。
「なるほど。もう一つ、先程おっしゃっていた”品質を保つ、時間が止まった空間”と言うのは具体的には、どういった?」
さて、どう説明したらいいかしら?
中に入っている物の品質が保たれていて、なおかつ時間が止まってます。と証明するなら
実際に、中に入っていた熱々の『ジャイアントフロッグのホットサンド』でも、渡せばいいのだけど・・・。
”これ、どこで手に入れたの?”と聞かれたら困ってしまうな。
何か他に、公爵令嬢が持っていても不思議でない物は無かったかな?
【クローゼット】の中をチェックし、当たり障りのないアイテムを探す。
『氷漬けのブルーロゼリアル』う~ん。
氷が溶けて無いって事で、時間が止まっている事の証明に成るけど・・・
これこそ”どこで手に入れた?”って成りますよね~
ガチャレアだし、広範囲指定全回復アイテムだもんねコレ。使い切りだけど。
なんでゲームのウルシュ君、こんな商品をガチャの景品に入れちゃったんだろう。
謎だわ。
普通の無いか?普通の。
あっ!!有るじゃないの!!
『アイスレモネード』と『ホットレモネード』。コレだっ!!
SAN値が3回復するけど、見た目じゃ分かんないからコレでいいや。
乙女ゲームにSAN値ってオカシイ気がするけど、他の乙ゲー知らんし、考えるの止めよう。
とにかく2つを取り出して、義父様に見せる。
「この様に、冷たい物は冷たく、温かい物は温かいまま時間が止まりますの。腐る事も有りませんわ。」
恐る恐る私からレモネードを受け取る義父様。
そして2つのレモネードを確認すると、感嘆の声を上げる。
「素晴らしいっ!!この魔法が有れば、肉や海産物と言った食料品の買い付け、更に薬草を枯らす事なく大量輸送も夢じゃない!!この魔法は、どう覚えたんですか?」
「さぁ?物心ついた時には、既に使えましたの。」
本当は、10分程前に使える様になったんだけどね。
「そうですか、今まで見た事も聞いた事も無い魔法なので、固有スキルかも知れませんね。」
そうか、聞いた事もない魔法なのか。
だったら人前で多用するのは、控えたほうが良いかも知れないわね。
「それにしても、とても良い香りのする飲み物ですね。何ていう飲み物ですか?カップも素晴らしい。どこの工房の作品だろうか。是非、当商会で取り扱わせて頂きたいところです。この飲み物とカップはどちらで購入された物ですか?」
結局、どこで手に入れたって聞かれるんか~い!!
知らないよっ!!息子のウルシュ君に聞いてよ!!
ウルシュ君から、ミニゲームのポイントで売って貰った物なんだから!!
9年後の話だけどっ!!
「・・・・・・・実は、いつ収納した物なのか覚えていないんですの。」
「そんなに、昔に収納した物なんですね・・・。」
いいえ、昔ではなく未来です。
このまま聞かれ続けると、うっかり不味い事を言ってしまいそうなので、話題を変えよう。
そういえば、荷運びの途中だったな。
「では、荷運びの途中でしたし、荷馬車へと移動いたしませんこと?」
その後、御者さんを驚かせながら、荷馬車の前で商品を取り出し、運び込み完了。
3台の荷馬車は先に帰って行きました。
ウルシュ君と義父様は、ウチの使用人が、応接間へと呼びに来たので残る事になりました。
応接室でお茶を飲みながら、お父様とお母様を待つ間
話題は先程のレモネードへと移って行った。
もう、レモネードについては忘れて欲しいんだけど。
興味津々の義父様に負けて、レモネードを2人の前に差し出す。
「わぁ。美味しいね~コレ。」
いつの、どこの物とも知れないレモネードを、何のためらいも無く飲んだウルシュ君。
もう少し警戒心をですね・・・・あぁ、素敵な笑顔。癒される。
「初めて飲みますが、美味しいですね。この、レモネードと言うのは売れますよ。」
商売人の義父様は、新しい商品に成りそうなレモネードに期待しているようです。
私はレモネードのレシピなんぞ知らないので、聞かれても答えられませんよ。
「う~ん、でも、いくらで売るかが問題になるよ。コレ、原材料が高価だからねぇ。」
え?ウルシュ君ってば、もしかして、飲んだだけで中に何が入っているか分かったの?
凄いよ!料理人も目指せるよっ!!
ちなみに私も一口飲ませて貰ったけど、分かんない。
「ウルシュ、コレを作るのに必要な材料は?」
「まず、レモンでしょ~。それと砂糖と、D級モンスターのハニービーの蜂蜜でしょ。あとは薄める為の、お湯か水だねぇ。あとは塩が少し。」
・・・・・。
ウルシュ君。なんか途中に物騒な材料が入ってない?
普通の蜂の蜂蜜でいいと思うわよ?
「確かに、ハニービーの蜂蜜は高価だな。普通の蜂蜜を利用するにしても、砂糖も入っていることだし、単価が高くなるな。」
ですよね。普通の蜂蜜で十分ですよね?
なんでウルシュ君は、ハニービーとか言うモンスターの蜂蜜を指定したのかしら。
「うん。普通に売るなら、それで良いと思うよぉ。ただ、このレモネードは、ハニービーの蜂蜜を使うことによって、状態異常を回復する効果があるから、付加価値が有るんだよねぇ。」
飲んだだけで、そんな事まで分かる?!
それ、味覚が鋭いっとか言う問題じゃ無いよね?
もはや、それはスキルだよね?
「あぁ、未来のお嫁さんのイザベラ嬢には、教えておこうか。ウルシュは生まれつき【鑑定】スキルを持っているんだ。ウチの家系には時々【鑑定】スキルを持った子が生まれるんだよ。」
義父様から、未来の嫁認定頂きました~!!
そして、ゲームでは分からなかった、ウルシュ君の設定を知りました。
だから”調合が出来ると思う”って言っていたのね。
「僕は15歳になったら、『ロゼリアル魔術学院』の『錬金術科』に行くつもりなんだぁ~」
なるほど、そこで創っていたマジックアイテムを、生徒相手に売っていたわけですね。
錬金術師を通り越して、賢者レベルの物を創っていた気がしますけど。
え?ウルシュ君が創っていた物とは限らないんじゃ無いかって?
いいえ。ウルシュ君のショップの上の方に、書いてあるのよ。
《いらっしゃいませ。ここでは、僕が創っているマジックアイテムを売っているんだよぉ》
《このコーナーは、僕が授業で創ったアイテムを置いているんだぁ。ポイントで交換するよぉ》
《このコーナーは、僕が独自で創ったアイテムを置いているんだぁ。ウェブマネーで購入できるよぉ》
ふっ。通い詰めて、一言一句、違わずに覚えているわよ。
ところでウルシュ君、学院側には、ちゃんと許可を取っていたのかしら。
ウルシュ君には定位置が無くて、学院内を徘徊しているキャラだったから
アイテムが欲しい時は、学院中を探し歩かないといけなかったのよね。
闇取り引きかしら?・・・・ちょっと悪なウルシュ君も素敵。