表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は、庶民に嫁ぎたい!!  作者: 杏亭李虎
カラーズコレクターと七大罪スキル
59/145

気安く呼ぶな。

トーランド家は、魔術師の育成に力を入れているロゼリアル王国の中でも、群を抜く魔術の名門で、過去に宮廷魔術師や、魔術師団長となる実力者を数多く輩出はいしゅつして来た家系だ。

そのトーランド家を、私が継ぐのだと、ずっと思っていた。

私は、トーランド家の現当主である父の唯一の子で、将来は婿養子を貰って、我が家系の存続と発展に力を入れて行くのだと思っていたし、そう教育されてきた。

それは、私の望みでもあり、誇りでもあった。


あの子が、ギースが6年前に生まれて来るまでは。


魔術学院への入学準備の時までは、私は周囲に次期トーランド家の当主として期待され、祝福されていた。

だけど入学半年前に、もう第二子は望めないだろうと言われていた、母の懐妊が分かった。

それまで、私を次期当主と持ち上げていた周囲の人間が『男児であれば、ようやく待望の次期当主が』と、喜び始めた。

ようやく? 待望の次期当主? だったら私は?

今まで私を次期当主だと、もてはやしておきながら、本心では私を次期当主とは認めていなかったのか。

これまで私が、女性であっても次期当主としてふさわしくあろうと、続けて来た努力は何だったのか。

もし、男児が生まれたら、私はもう用済みなのか。


そんな不安に襲われ、母の懐妊を心から祝福できずにいた私の苦しみに、唯一気付き、慰めてくれたのは、その身重の母だった。

母は自分の妊娠に、弟か妹の誕生に、素直に喜べない私を叱るでもなく寄り添ってくれた。


『ルーシーが将来、次期当主に成ろうとも、それ以外の道に進む事に成ろうとも、貴女は私の誇り。貴女はいつまでも私の大切な娘であり、現ロゼリアル王国の魔術師団長である、素晴らしい才能を持ったお父様の娘よ。立ち位置が変わったところで、貴女の価値はこれまでと何一つとして変わりはしないわ』


そう言って慰めてくれた母は、私が魔術学院の一年生、15歳の秋に、弟ギースの誕生と引き換えに命を落とした。


知らせを受けて、慌てて屋敷に戻って私が見たのは、男児の誕生の喜びに沸く親族と関係者、そして、屋敷の奥の部屋でひっそりと、静かに眠る母の亡骸だった。


私は生涯、忘れはしない。

薄暗い部屋でたった一人、冷たくなった母の身体に縋って泣きながら、遠くから聞こえてくる喜びの声を聞いた日を。

私から母を、当主の座を、奪った弟ギースの誕生を祝う、喜びの声を。




「だから、ギースを呪術師に売ったんですか? ルーシーお義姉様。」


「ええ。そうよ、イザベラちゃん。これは復讐なの。母の死をそっちのけで、ギースの誕生を祝っていたあいつらへの復讐なの。それに、ギースが死ねば、奪われた当主の座だけでも取り返せるもの。そしたら、イザベラちゃんのお兄様であるトレヴァーは、我が家に婿養子として来る事に成るわね。お父様はトレヴァーを気に入っているから、失ったギースの代わりに、息子として大切にすると思うわ。だからイザベラちゃんは安心して逝ってね。」


そう言って、ルーシーお義姉が歪んだ笑みを浮かべるのを、私はたるの中から見上げた。


ルーシーお義姉様について行った先で、私は身体の自由と魔力を封じる呪術具を着けられ、ココまで連れて来られた。

と、言うよりも、相手がルーシーお義姉様だからと、特に警戒心も抱かず、言われるままに両手と首に呪術具を着けたんだけど・・・

連れて行かれた先は、そこそこ大きな、元々教会か修道院っぽい廃墟になった建物。

そこに、深くフードを被った人や、仮面を被った人、透けた布で目元を隠している人など・・・とにかく顔を隠している人達が揃っていた。

顔を隠したところで、私には意味ないけど。ちなみに彼等の鑑定結果は、呪術師。

って事は多分、ここは呪術師組織のアジトか作業場の一つだな。


連れて来られた廃墟の、ジメジメと苔の生えた石造りの地下には、魔法陣の上に樽が乗ったものが大量に並んでいた。

キッチリと封をされた樽の上には、セージの束と骨がクロスするように置かれていて、樽の表面にも魔法陣や呪術式的な物が、びっしりと書き込まれている。


・・・・・多分、中身はワインとかでは無いな。


流石に、中身を[色欲(とうし)]で見る勇気が無くて[強欲王(かんてい)]のみにしたんだけど、その判断は間違いではなかった様だ。

でた鑑定結果を詳しくは語らないけど、呪術師達のやっている事には反吐が出る。


並ぶ樽の一つ、まだ未使用の空っぽの樽の中に、目元を透けた布で隠した男達に入れられた。

ルーシーお義姉様の目的が分からず問いかけたところ、返って来た答えが今の話だ。


「もしかして、トレヴァー兄様との結婚を先延ばしにしていたのは、お嫁に行かずに、ギースが死んだ後でトレヴァー兄様をお婿に貰う為なの?」


「そうよ。一応、正式な様子見もあったのよ? もしギースに魔力や魔法の才能が無かったら、私が当主に成るでしょ? でも駄目ね。ギースには魔法の才能が有った。」


なるほど。正式な様子見ね。

正直、長兄のトレヴァー兄様の結婚が延期されたところで、それは当事者達の都合なんだから、ダイモン兄様は気にせず、マリンお義姉様とさっさと結婚すれば良いのに、と思っていたんだけど、そう言う事情も有ったのか。

トレヴァー兄様が婿養子になる事に成ったら、ダイモン兄様が次期ロッテンシュタイン公爵で、マリンお義姉様が公爵夫人に成るんだね。

って事は、トーランド家の当主がハッキリとしないうちは、どちらにしても結婚は無理だったのか。


誰か、教えててよ私に。実の兄達の結婚の事なんだからさ・・・。

まぁ、普通は6歳の子供に、そんな深い事情説明しても分かんないだろうから、言わないんだろうけど。

この、子供は蚊帳の外な感じ。前世でも有ったわぁ~。


さて、ルーシーお義姉様の事情は分かった。

だからもう、私は大人しく樽に入っておく必要は無いし、呪術の材料に成る義理も無い。


「ルーシーお義姉様、貴女のいきどおりと悲しみは分からなくは無いけど、私はそれに付き合って死んでやる気なんて無いわ。」


「ふふ、イザベラちゃんが、どんな気で居るかなんて関係無いのよ。ギースの誘拐が失敗する切っ掛けを作っただけじゃ無く、呪術師組織の存在を、表に引きずり出そうとしているイザベラちゃんは邪魔なの。私達を嗅ぎ回っている、イザベラちゃんの婚約者もね。安心して、イザベラちゃんとイザベラちゃんの婚約者の魂は、同じ呪術具の材料として使用してあげるから。そしたら、二人はずっと一緒よ。」


それ、遠回しにウルシュ君も殺して、呪術の材料にするって言っているのよね?

それを理解した瞬間、こんな状況でも残っていた、私の中のルーシーお義姉様に対する情が、全て引いて行くのが分かった。


「・・・・私、さっきまで貴女に対する同情心が少しだけ有ったけど、それが今、全て消え失せたわ。ウルシュ君に危害を加える様な発言をした時点で、貴女は私の身内では無く、私の敵。」


「あら、残念だわ・・・。私にとってイザベラちゃんは、今でも可愛い私の義妹なのに。だけど、イザベラちゃんがどんなに怒っても、ここから出られない以上、どうする事も出来ないわ。イザベラちゃんも、婚約者のウルシュ君っていう子? その子も死んで、ここに並ぶの。」


「お前は私の婚約者の名前を気安く呼ぶな。あと、私が、ここから出られないってどうして思った?」


本気で私を、この程度の呪術具で封じられると思っているなら、大間違いだよ。

私を封じるなら、中型地竜を封じられる程度の、ウルシュ君製の物を持ってこいっ!!


金属製だろうと、魔石で出来てようと、ウルシュ君が合成した物じゃないなら、私の握力の前では、クッキーみたいなもんよっ!! 両手と首に着けた呪術具を力任せに素手で砕くと、入れられていた樽を内側から叩き割る。

爆散する様に砕け散った樽の破片を防ぎながら、ルーシーは驚愕に目を見開いた。


「そんなっ!! 高度な術が組み込まれた、強固な樽がっ!!」


あ、なんか術が掛かっていたの? この樽。普通に壊れたけど。

だけど、壊すのはこれだけじゃないから。


私は天井に向かって、人差し指を突き出す。

これ、魔法が使える世界に転生してから、ずっとやりたかった魔法なのよね。


雷撃ライトニングっ!!』





その夜、轟音を立て、王都の端で巨大な雷の柱が、下から上へと落ちて行くのを多くの者が目撃した。


鑑定結果の樽の中身とかは、描写すると「R15」と「残酷描写あり」タグが必要そうなんですけど、どの辺りまでがセーフなんでしょうか?

もしかして、既にアウトですかね?

指摘されたらタグ足します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ